表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

【第20話】転移座標、確定

兄妹の旅は、ついに“星図の最終座標”へとたどり着きました。

夢で見たあの都市――それは記録者たちの記憶が刻まれた場所であり、

過去から未来へと星図を繋ぐ“観測の殿堂”でした。

今回は、詩音と瑠璃が自らの“役割”と“位置”を知る、物語の大きな節目となる一話です。

 扉の中は、まるで“星の海”だった。


 白く、青く、瞬く光が波のようにうねりながら、

 俺たちを包み込んでくる。

 現実と幻のあいだをたゆたう、透明な空間。


 「兄さん……時間が、止まってる?」


 「いや……違う。動いてるけど、ゆっくりすぎて感じられないんだ」


 瑠璃の髪が、ふわりと浮かぶ。重力がほとんど消えた世界。

 俺もまた、宙に投げ出されるような感覚で漂っていた。


 けれど、不思議と恐怖はなかった。

 この空間そのものが、俺たちを“歓迎している”気がした。


 ――カチリ。


 音がした。何かが、内側で噛み合ったような、そんな音。

 その瞬間、俺の脳裏に、新たな“星図”が流れ込んできた。


 「……座標が、確定した……!」


 それは、今までとは桁違いの情報量だった。

 無数の星々が連なり、立体的に、重なり合いながら“目的地”を示してくる。


 だが、驚くべきはその場所だった。


 「この座標……見覚えがある。だけど、地球上には存在しない」


 俺が呟くと、瑠璃がすぐに反応した。


 「夢で見たよ。兄さんも、覚えてるでしょ? あの“空に沈む都市”……」


 思い出した。第14話で見た、夢の中の都市。

 重力が反転し、星が海底のように揺れていた、あの光景。


 「でも、あれは夢だったはずじゃ……」


 「星図は、夢と現実の区別を越えてる。たぶん、“記録”されたものなら、

 どんなかたちでも座標として現れるんだよ」


 つまり――俺たちの見てきた“異変”は、すべて座標の一部だった。


 現実、記憶、夢、幻視。すべてが交差する場所。

 それが、星図の最終目的地――“転移座標”というわけだ。


 「兄さん。そこに行けば、わかるんだよね。

 この星図が何のために存在するのか。

 私が、どうしてこんな瞳を持って生まれたのか」


 瑠璃の声は、静かだけど、深く揺れていた。


 「だから……行こう、瑠璃。どんな場所だって、俺が隣にいる」


 そう言うと、光の流れが俺たちの手を包み、加速を始めた。


 星の流れが渦を巻き、まるで銀河の中心へ引き込まれるようだった。


 加速する光の中、俺はもう一度、妹の顔を見た。

 あの頃の小さな瑠璃じゃない。

 今ここにいるのは、自分の意思で未来を選ぼうとしている“記録者”だ。


 「ありがとう、兄さん。見届けてくれて……」


 「お礼を言うのはまだ早い。これからだからな」


 その瞬間、視界が一面の白に染まり、全身が浮遊感に包まれた。


 そして――俺たちは、星図が示した“転移座標”へと到達した。


 目を開けると、そこは“星の下の都市”だった。


 夜空が近い。いや、空そのものが、どこまでも深く広がっている。

 地面は淡く発光し、足元に描かれた幾何学模様がゆっくりと脈動していた。


 「……ここ、夢で見た場所と同じだ」


 都市の建物はすべて透明な結晶のようで、空に浮かぶ星々を反射している。

 音もない。風もない。ただ星の光だけが、すべてを包んでいる。


 瑠璃がそっと前に出て、足元に広がる模様に手を触れた。


 すると、光が跳ねるように広がり、そこに“記録”が再生された。


 《転移記録:第1277周期/記録者:ルル=シェル/転送先:第4境界面》


 「これ……この場所、“誰かの記憶”が残ってる……!」


 記録は音ではなく、星の配置として語られていた。

 それは遠い過去、あるいは遥か未来の物語かもしれない。


 だが、その中に見覚えのある名前があった。


 《観測者:シオン=アーク/補佐:ルリ=フェイル》


 俺と、瑠璃――。


 「どうして、俺たちの名前が……?」


 記録の星々は淡くまたたきながら、新たな映像を描き出した。

 星図を手にした兄妹が、この地を訪れ、記録を残し、次の時代へ託していく姿。


 「これは……前にも、私たちはここに来てた?」


 「もしかしたら、何度も。名前も姿も変えながら、星図に導かれて……」


 都市の中心に向かう道が、光によって示される。

 それはまるで、記憶そのものが“俺たち”を再現しようとしているようだった。


 「兄さん、これって輪廻なのかな。

 私たちがずっと、記録の器と解読者として生まれ変わってきたってこと?」


 「わからない。けど、星図は確かに“選んだ”んだ。俺たちを」


 建物の間を進むたび、周囲の空間が波のように揺れていく。


 まるで、この場所そのものが“記憶でできた街”であり、

 来訪者の存在によって“再生”される仕組みになっているかのようだった。


 俺たちは、星図の奥にある“もっとも古い記録”へと近づいていた。


 都市の中心には、ひときわ大きな石碑があった。


 その表面に浮かび上がる星図――それは、瑠璃の瞳の奥にあるものとまったく同じだった。


 「ここが、すべての“はじまり”……」


 瑠璃がそっと手をかざすと、碑の周囲に光が立ち上り、

 まるで星が音を奏でるように、低く響く振動が広がった。


 《記録者確認/器、同調完了》


 《観測者、識別――シオン=系統、承認》


 碑の内部から、さらに深い階層の情報が解放される。


 「やっぱり……俺たち、ここに来る運命だったんだ」


 「兄さん……ありがとう。わたし、ようやく“本当の星図”に会えた」


 その瞬間、都市全体が光に包まれ、

 新たな扉が、ゆっくりと、静かに開かれていった。


 扉の奥に広がっていたのは、“記録の殿堂”だった。


 星の光を閉じ込めたような水晶の柱が何百本も並び、

 一つひとつに過去の星図が刻まれていた。


 「すごい……全部、記録者たちが残してきた星図……」


 瑠璃の声が震えていた。

 その目は、まるで自分がその一部であることを理解したかのように、静かに光っていた。


 奥へ進むと、中央にひとつの“空席”があった。


 円形の台座。周囲にだけ記録が存在せず、ぽっかりと空白になっている。


 「……ここが、俺たちの座標なんだ」


 俺たちが記録し、辿ってきたこの旅が、

 まだ誰にも記録されていない“最後の空白”を埋めるためのものだったのだ。


 「瑠璃、星図を」


 妹はうなずき、ゆっくりと目を閉じた。


 すると、台座の中心にあった透明な球体が、ふっと光を放った。


 中に、瑠璃の瞳と同じ“星図”が浮かび上がる。


 「記録を開始します」


 聞こえた声は、誰のものでもなかった。

 空間そのものが語りかけてくるような、静かで穏やかな響きだった。


 光の粒子が瑠璃から流れ出し、台座の上に記録されていく。

 兄妹で旅した景色、観測した星々、出会った幻影や、夢の記憶すらも――。


 それは、俺たちだけの記録ではない。

 この“星図”に連なってきた、すべての観測者たちの歩みをつなぐ記録だった。


 「ありがとう、詩音。ここまで連れてきてくれて」


 「俺も……ありがとう。ずっと隣にいてくれて」


 記録は、静かに完成していく。

 空白だった台座に、星々が浮かび、やがて一つの“星座”となって輝いた。


 「これで、終わり……じゃないよね?」


 「うん。ここから、次の記録が始まる」


 そのとき、殿堂の最奥で光がまたひとつ点滅した。


 新たな台座が、静かに浮かび上がる。

 その上には、まだ見ぬ“次の記録者”の名前が――うっすらと、けれど確かに刻まれていた。


 「この星図、また誰かに受け継がれるんだね」


 「きっと、そうなる。記録は止まらない。誰かが見て、誰かが残す。

 それが、この世界の“観測”という意味なんだ」


 瑠璃はうなずいたあと、名残惜しそうに星図を見つめる。


 「でも私は、兄さんと歩いたこの旅を、一番に記録しておきたいな」


 その言葉に、胸の奥があたたかくなった。


 俺たちが過ごした日々、ひとつひとつが――

 こうして、光の中で輝いている。


 静かに殿堂の光が収まり、最後の記録が星図に刻まれた。


 そして、扉が再び現れた。


 そこは、次なる世界への入口だった。


第2部《星の地図を巡る旅》、これにて完結です。

兄と妹の歩んできた軌跡は、いま“記録”として星図に刻まれ、

新たな座標が示され始めました。

第3部《空に還る記憶》では、いよいよ星図の正体と、

この世界の向こうにある“記憶の空”へと物語が踏み出していきます。

これからもどうぞ、お付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ