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【第11話】開かれた星図

星図がただの“記録”ではなく、“現在進行形の地図”であることが明らかになった第11話。

今回は、兄妹が星図の内部へ足を踏み入れ、地球の常識を超えた空間に触れていきます。

見えてくるのは、変化する座標、試される空間、そして“継承”という新たなキーワード。

導かれる旅が、少しずつ“自ら選ぶ旅”へと姿を変えていく――そんな一歩です。

 空気が変わった――そう感じた瞬間、俺たちはもう、星図の向こう側に立っていた。


 そこは、青でも黒でもない、名付けようのない“空”だった。

 見上げれば、星が構造物のように浮かび、ゆっくりと“動いて”いる。


 「動いてる……。星図が、生きてるみたいだ」


 瑠璃の声が震えていた。いや、きっと俺の方も同じだ。

 この空間は、ただの異世界ではない。“記録された地図の内部”なのだ。


 「見て、兄さん。あの星、今、位置が変わった」


 俺も気づいていた。目を離した一瞬で、星の配列が僅かに変化している。

 しかも、その動きが星図装置にもリアルタイムで反映されていた。


 《観測座標、動的変化を確認》

 《地図モード:固定 → 可変へ移行》


 “地図が、動いている”――それはつまり、星図がこれまでの“過去の記録”ではなく、

 “現在進行形の世界”を観測しているということ。


 「この世界は……記録じゃない。今、目の前で構築されてるんだ」


 俺の言葉に、瑠璃がうなずいた。


 「そして、私たちの歩く場所が、次の“地図”になる」


 今までの観測は、星図の“意味”を追いかけるだけだった。

 だがここからは、“意味を創る”旅が始まる。


 星図の中心に、新たな座標が浮かび上がる。

 それは、“存在しない場所”を指していた。


 「この座標……地球上にはない。衛星画像にも、どんな地図にも存在しない」


 星図装置が示したのは、三重螺旋のような立体構造をもつ“座標記号”だった。

 地名も数値もない。ただ幾何学的な光の結び目だけが、そこに存在している。


 「ここに行けってこと……?」


 「うん。たぶん、これが“この世界の地図”の読み方なんだ」


 俺たちはその座標に焦点を合わせるように装置を操作した。

 すると、周囲の空間が柔らかく揺れ、まるで“その場所”に近づいていく感覚が生まれた。


 「……空間が動いてる? いや、違う、俺たちの“視点”が……!」


 立っている場所は変わらないのに、周囲の風景がじわじわと変化していく。

 まるで星図そのものが、“目的地をこちらへ引き寄せている”かのようだった。


 《座標移行中 観測リンク確立》

 《転位まで残り3分》


 「……このままじゃ、強制的に移動させられる」


 俺は手早く装置を操作し、瑠璃に確認の目を向けた。


 「行こう。きっと、それが星図の意思なんだよ」


 彼女の言葉に、俺も迷いなくうなずいた。


 新しい旅が始まる――今度は、星図の中に“入り込む”だけじゃない。

 星図の“未来”を描く旅に、俺たちは足を踏み出そうとしていた。


 転位が完了すると同時に、視界が広がった。


 そこには空も地面もなく、ただ空中に浮かぶ“断片の都市”があった。

 街路のようなものが星と星をつなぎ、建物らしき構造が宙に漂っている。


 「……ここ、どこ?」


 瑠璃が小さくつぶやく。俺も言葉を失っていた。

 明らかに地球ではない――いや、どんな物理法則からも逸脱している世界だった。


 それでも俺たちは、宙を歩けた。何の支えもないのに、足元は確かな感触を持っていた。


 「見て、兄さん。あれ、また座標が出てる」


 彼女が指差す先、虚空に浮かぶ文字列と光の円環。

 装置とリンクしているようで、座標はリアルタイムで変化していた。


 「星図が……自動的に経路を提示してる?」


 それはまるで“地図アプリ”のように、俺たちに最適な経路を導いているようだった。


 ただし、その道筋には、一つだけ決定的な異変があった。


 「この座標……最初に観測した記録と、ズレてる」


 「え?」


 「星図が……“自分で変化してる”。観測によって、形を変える……」


 記録媒体が、自律的に変化する。

 まるで、星図そのものが“意思”を持って進化しているようだった。


 この旅は、導かれているだけじゃない。

 俺たちの“選択”が、星図を更新している――。


 「……この都市、さっきはなかった構造が現れてる。さっき通った場所、消えてる……?」


 星図装置が細かく警告を表示していた。


 《構造変動 安定率:73%》

 《空間構成要素、再構築中》


 「この空間、俺たちの行動を読み取って、再配置してる……まるで夢の中みたいだ」


 「兄さん……こっち、来て!」


 瑠璃の声に振り返ると、彼女の周囲に“重力の歪み”のような波が広がっていた。


 「歩けない……足が浮く……!」


 俺が駆け寄るより早く、彼女の身体がふわりと宙に浮いた。

 そのまま、空間に散る光の粒の中へ吸い込まれていくように――


 「瑠璃っ!」


 俺は迷わずその光に飛び込んだ。


 次の瞬間、風景が一変する。

 都市の構造がひときわ強く“跳ねるように”再構築され、俺たちはその中心に立っていた。


 「……さっきの場所とは違う。でも、今の……重力、どうなってた?」


 「たぶん、星図が“テストしてる”。観測者がこの空間に適応できるか、どうか」


 それはまるで、選ばれているというより、“試されている”感覚だった。


 星図が進化しているなら、その進化の先には、俺たち自身が含まれている。


 「だったら――俺たちが、この地図の“次の座標”になる」


 その時、装置が新たな目的地を指し示した。

 ただし、そこには“未知の観測者”という表示が重なっていた。


 “未知の観測者”という表示。

 それは俺たち以外にも、この空間に干渉している存在がいることを示していた。


 「誰か……他にいるの?」


 装置はその座標を追跡しながら、一定距離での“観測反射”を警告していた。


 《干渉信号確認 星図コード:識別不能》

 《観測優先度:高》


 俺たちは星図の指し示す方向へと進む。

 浮遊する足場を伝い、階層を越えるたびに、星図の光が色を変えていく。


 「これって……追われてる、のかな?」


 「わからない。でも、迎えに来てるようにも見える」


 やがて、広い空間の中心部にたどり着いた。

 そこには球体状の光の塊が浮かんでいて、まるで心臓のように脈打っていた。


 《観測者、接触圏内》

 《記録再生モード、開示》


 光の球がわずかに開き、記録映像のような映像が投影された。

 そこには、一人の人物が立っていた――白い外套をまとい、瞳には“動く星図”が映っていた。


 「……あれ、俺に似てないか?」


 瑠璃がぎょっとして俺を見た。


 「兄さん……過去の観測者なの? それとも……未来の?」


 声が響いた。記録の中のその人物が、確かに言った。


 《次の観測者へ――この星図は、意志であり、記録であり、“扉”である》


 《君たちは、その鍵を持っている》


 そう言い残すと、映像はふわりと霧散し、球体は静かに閉じた。


 そして、俺たちの装置に新しい情報が追加された。

 次の座標と、その先にある言葉――《継承》という単語が、光の中に浮かんでいた。


 「……継承って、誰から何を?」


 瑠璃がつぶやいた言葉が、俺の胸の奥にひっかかった。

 “誰かの意志”が、星図を通じて俺たちに届いている。

 それは観測という行為が、単なる記録ではなく、想いをつなぐ手段であるという証だ。


 装置が再び点滅する。

 表示されたのは、かつて地球上で観測された記録に含まれていなかった“座標形式”だった。


 「これは……新しい言語、か?」


 光の中に浮かぶ記号は、数学的というよりも、“音”や“感情”に近い印象を持っていた。

 それを見ていた瑠璃の瞳が、すっと揺れる。


 「兄さん……これ、読めるかも」


 「え?」


 「私、なんとなく意味がわかる。頭の中に、映像みたいに……流れてくる」


 妹の瞳が、星図を写し取っていたときの感覚に似ている――いや、それ以上だ。


 瑠璃は星図の“翻訳者”になりつつある。


 そして俺は、その記録を“読み解く者”として選ばれた。

 この空間そのものが、それを前提に構築されていたように思えた。


 「継承されるべきものは、星図だけじゃない。

  その奥にある、“誰かの想い”なんだ――」


 装置が静かに次の座標を提示する。

 その位置は、星図全体の構造の中でも中心に近く、“心臓”のように脈を打っていた。


 俺たちは、もうただの観測者ではない。

 “星図の記憶”をたどり、紡いでいく存在になったのだ。


観測者としての立場から、“星図の継承者”としての自覚が芽生え始めた詩音と瑠璃。

浮遊する都市、変化する重力、未知の観測者との遭遇など、星図の内側はますます謎に満ちています。

「継承」という言葉が意味するものは何なのか。

そして、星図の中心に浮かんだ“次の扉”はどこへつながるのか――。

次回、第12話「未知なる座標」で、その答えの片鱗に近づいていきます。

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