セラピー室:第36セッション(加害者記憶との統合準備)
冒頭:坂崎が問いかける
坂崎
「今日は“統合”について、シノの視点をちゃんと聞きたいと思っている。
君にとって、それがどう映っているかを。」
シノ(alter)
「くだらない。
統合?
“統合された”人格ってのは、アイツ(加害者)の思い通りに、ひとつにまとまった人形だ。
俺は、そんなことのために出てきたんじゃない。」
ユリ(ホスト)
(小さく)
「でも……シノ、あなたがいなかったら……
あのとき、私は壊れてた。」
シノ
「そう。壊れるのを回避するために、俺は“分裂という手段”を取った。
黙って耐える“お前”の代わりに、俺が“何も感じない人格”として出た。
痛みを遮断し、記憶を保存し、怒りを隠した。」
坂崎
「つまり、君の存在自体が“最大の抵抗”だったんだね。
感情を奪われることに対して、“解離”という最後の選択で自律性を守った。
誰にも指図されずに生き延びた証として。」
葛藤の核心が表出する
シノ
「なのに今、“統合しましょう”とか、“ひとつになりましょう”とか。
あれと同じじゃないか。
“まとまれ”“騒ぐな”“感じるな”――
“服従”しろってことだろう?」
坂崎
「ちがう。
統合とは、もう“服従しなくていい世界”に移る自由の始まりだ。
君が戦ってきたのは、“感じないことで生きるしかなかった”時代。
今は、“感じても、生きていける時代”なんだよ。」
ユリ
(震えながら)
「私は……あなたの中に、“感じなかった私”を閉じ込めた。
あなたが感情を引き受けてくれたから、私は笑って生きてこれた。
……でも、もう一緒に、感じたい。」
シノ
「感じたい、だと?
……お前は、あの時の記憶の“重量”をわかってない。」