セラピー室:第32セッション(トラウマ統合準備フェーズ)
坂崎(治療者)
「レン、ありがとう。今日は君の気持ちを聞きたいと思ってる。“統合”について、どう感じてる?」
レン(裏人格)
(長い沈黙のあと、小さく)
「……あのときの“彼女”と、俺は違う。
アイツは、ただ黙って、殴られて、泣くだけだった。
俺は――立ち向かった。」
ユリ(ホスト)
(泣きそうな声で)
「でも、私はあなたを……私の中の“強さ”だと思ってる。
だからこそ、あなたにいてほしいの。」
レン
「“混ざる”ってことは、アイツの涙も俺の中に流し込まれるってことだろ。
俺は、それをずっと押し返してきた。
あの声も、あの震えも、俺じゃない。
俺は、あれとは違う。」
坂崎
「レン、それはすごく重要なことだね。
君は“あのときの恐怖”からユリを守るために生まれた。
君にとって、“無力さ”は最大の敵だった。
そして、君の誕生自体が、その無力さへの“反抗”だった。」
レン
「そうだ。
だから、“統合”なんて……
俺にとっては“負ける”ことなんだよ。」
坂崎
「君がユリとひとつになることは、“負ける”ことではない。
君がその力を、今のユリに“渡す”ことでもある。
それは、“戦いの引き継ぎ”なんだ。」
ユリ
「私……昔は、“誰にも逆らえなかった”。
でも今は、あなたの目を通して、あのときの私を見てる。
あなたが怒ってくれたから、私は今、振り返れるようになったの。」
レン
「……」
坂崎
「レン、私からの提案がある。
“あのときのユリ”と“今のユリ”を、時間軸で分けてみよう。
目の前にタイムラインを思い描いて――
君はどこで生まれて、どこまで戦ってきたか。
今のユリは、君のその“戦い”のあとに生まれた“別の地点に立っている人間”なんだ。」
(ホワイトボードに横軸を書く)
──────○────→
過去 ↑ 現在
|レン
坂崎
「統合は“過去に戻る”ことではなく、過去から“何を連れていくか”を決めることなんだよ。」




