表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

セラピー室:第28セッション(記憶共有フェーズ)



坂崎(治療者)

「今日ここに来てくれてありがとう、コウ。君と直接話ができるのは、すごく大切なことなんだ。」


コウ(裏人格)

「俺は“話す”ために出てきたんじゃねえ。

統合?ふざけんな。それってつまり、俺が“いらない”ってことだろ。」


ユリ(表人格)

「ちがう……コウ、私は……あなたに出てきてもらいたい。あなたがいなかったら、私は……たぶん、生きてなかった。」


コウ

「……じゃあ、なんで“統合”なんて話が出てくる?

“ひとつになりましょう”とか、“君の中に取り込まれましょう”とか――。

ふざけてんのか。“俺”を殺して、思い出だけ残すってか?」


坂崎

「それは違うよ。

私たちは、コウが“消える”ことを求めているわけじゃない。

むしろ、コウが守ってきたもの、その記憶と感情、力を、**“この人全体の一部として残す”**ということなんだ。」


コウ

「綺麗事だ。

“感謝してる”って言われて、あとから“吸収”されて、結局俺はいなくなる。

“誰かのため”にやってきたのに、最後は“お前がいなくても大丈夫”って?」


ユリ

「……私はそう思ってない。

コウ、私はあなたの声を聞けてよかった。

あなたが、私の代わりに怒ってくれた。

私が逃げてるとき、あなたが踏みとどまってくれてた。

それが、あなた“だけ”の存在価値だったとは思わない。」


坂崎

「コウ、君が守ってきたものは、ここに“今、在る”んだ。

“いらなかった”んじゃない。“ここにいてくれた”から、こうして語り合える。

統合とは、君が生き延びさせたこの人が、今度は“君の記憶を生きていく”ということなんだ。」


コウ

「……俺の怒りはどうする?

アイツ(加害者)を殴りたい衝動。俺が背負った恐怖。

そんなもん、“この女”には重すぎる。」


ユリ

「それを受け取るって、決めたい。

あなたの怒りを、“私”のものとして……

ただ、忘れたくないの。

あなたが、私のために怒ってくれたってことを。」


坂崎

「それは、“継承”という形でもできるよ。

コウの名を残してもいい。

“あなたの章”をこの人の人生の物語に書いてもいい。

例えば“手紙”として形にしても、“物語”にしても。

あなたは、この人の一部として、これからも一緒に歩いていける。

それは、消えることではない。」


コウ

(沈黙)

「……“名前を残す”って、俺の“死に際”みたいなもんだな。」


坂崎

「いいや。“名前を託す”ことは、“生き延びさせる”ことでもある。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ