アラタナ闘いへ
ピーピーという電子音が耳に響く。
気が付くと、轟道は白いベッドで横になっていた。
(あれ、ここは......?)
意識がぼんやりとしていながら、体を起こす。
しかし、そんな中で轟道に飛びつく者がいた。
「轟道さん! 起きたんですね......良がっだぁ!」
日本代表審判の神橋である。
「おっと、神橋君か......なんで、そんなに泣いてる?」
「そりゃあ、急に倒れだんでずもん。心配にだっでなりまずよ」
神橋は涙と鼻水でぐずぐずになっている。
「俺はどのぐらい寝てた?」
「えっど......二日ぐらいでずかね」
「......俺にしては、結構短い方か」
「え......?」
神橋はその言葉の意味がよく分からなかった。
「神橋君、君も見てたとは思うが、ルウェットは相当な化け物だったよ」
「そうですね。流石、『最強』としか」
「腕力は類を見ないレベルで、耐久力も並のアスリート以上。その中でもえぐかったのが、脚だ。自分でも俺の反応速度はピカイチだと思っていたんだが、それを遥かに凌駕してきよった」
そう、ルウェットの本気の加速は、轟道が視認すら出来ず、音を拾うことでようやく、反応出来るほどだ。
それが今回の戦闘で、一番の障害だったと言って良い。
轟道は確かに勝った。
しかし、その当人は納得いっていないような様子だった。
「......轟道さんは、もっと強くなりたいんですか?」
それを見抜いたのか、神橋が質問する。
「愚問だな。俺は死ぬまで強くなり続けるつもりだ。今回ので自分の弱点が良ぉく分かった。まずはそこからだろうな」
轟道は色々な感情が渦巻いた末、俯く。
「俺のことをそこまで評価してくれるとは、嬉しいじゃねぇかぁ!」
聞き覚えのある声だ。
右の方から聞こえた。
ベージュのカーテンから現れるのは、同じく真っ白なベッドにいるルウェットだった。
そして、その審判もいる。
「あー、さっきのは撤回だな」
轟道はルウェットから視線を逸らした。
「なんでだよ!?」
「お前は褒めたらダメなタイプだろう」
「そ、そんなことねぇし......?」
ルウェットはここに来て、意地っ張りを発動させる。
「まぁいい、ルウェットよ。今回、俺と闘ってどう思った?」
「どう思ったって......弱い奴が強い奴に負けただけだ。なにも感想はねぇな」
「それは違う。一回でもミスをしていれば、負けていたのは俺だ」
轟道は今回、何度も奇跡を起こし続け、お互いギリギリの勝負に持ち込ませた。
しかし、その分、ルウェットという障壁が分厚かったということだ。
あの試合、勝敗がどちらに転んでもおかしくはなかった。
「それも違うだろ。重要なのは結果だ。その結果でアンタは勝って、俺は負けた。実際なら、俺は死んでる。死んでる時点で過程なんかどうでもいいんだよ」
ルウェットは辛気臭そうにそう話す。
「いや、過程が一番重要だと思うんだが......」
「やっぱ、アンタとは合わねぇわ!」
「お、今度はこの価値観についての闘いか? 受けて立とう!」
病室にて、喧嘩勃発!? しそうになったところで審判二人が間に割り込む。
「ちょっと、轟道さん! ここでやっちゃったら、永眠しかねませんって!」
「おい、それはどういう意味だ」
「ルウェットさんも! 今闘ったら、パルチザンが六等分にされますよ!」
「ちょっと、聞き捨てならねぇな?」
その行動は怒りの潤滑油でしかなかった。
しかし、『最強』の二人は、まるで宇宙空間かのように静まる。
「やめだやめだ。こんなことしても埒が明かねぇ」
「ああ、そこだけ! は同意見だ」
「あ、そういえば、ミスター轟道に言いたいことがあったんだった」
ルウェットは話の転換を図る。
「ほう、なんだ?」
「俺を弟子にしてくれねぇか?」
ルウェットが発するは唐突な弟子入り。
「ん.......? はァ?」
轟道は状況が全く呑み込めていなかった。
果たして、ここからどうなるのやら.......
一方、『進世界』では次の対戦が決まっていた。
相対するのは、シンガポールとフランスである。
まずはシンガポールを覗こう。
シンガポール『最強』は自国の軍基地にいた。
「九六、九七、九八、九九、一〇〇......」
軍服を着た褐色肌の男が腕立て伏せをしている。
「グライ、いつもよりセット多めじゃねぇか。緊張してるのか?」
大勢の軍人の中の一人がそう訊いた。
「うん、ジェニー。そうだよ......ワクワクもあるんだけど、こういう時って緊張が勝っちゃうよね〜!」
グライは頭を擦りながら、明るく答えた。
「グライなら大丈夫だろう! 俺たちよりも強いんだからな!」
そう、ゴツい軍人が言う。
「試合が一瞬で終わるかもな? もちろん、良い方でだけども」
金髪の軍人が軽く笑いを交えて、発する。
そこに一人の男......
「皆さん。事あるごとにグライグライとか言ってますけど、本当に強いんですか? 経験だって、皆さんの方がしているはずですよね?」
明らかにグライを下に見てる。
「新人! 一回、闘ってみるか? そうすりゃ分かる。グライの理不尽さが」
「逆に良いんですね? 試合に出れなくなっても知りませんから」
「ボク、なにも言ってない.......まぁいっか」
グライが会話に参加することなく、エキシビションマッチが始まる。
試合のゴングはない、そして、新人が飛び出す。
「喰らえ!」
木のナイフを片手に攻撃を仕掛ける。
(ちょっと、大振りかな)
グライは懐からなにかを取り出し、ナイフを粉々にすると、新人の首元に肘を持ってくる。
「カッ......」
新人は突進の勢いで逃げれず、自滅した。
「ほら、理不尽だろうって、聞いてないな」
「グライ、そろそろ時間だ。ウォーミングアップももう良いだろ?」
ジェニーはグライを待つ。
「頑張れよ! シンガポールの希望!」
「死ぬんじゃねぇぞ?」
「絶対、勝てよ」
と、大勢の軍人がグライの背中を叩く。
「皆、ありがとう! よし、行こうか! 戦争へ!」
グライはそう言うと、外へ駆り出た。
一方、フランス専用部屋にて。
金髪に青い瞳を輝かせる若い男が通話をしていた。
「大統領、どうしたんですか? 今のうちに運動をしておきたいんですが」
<とりあえず、聞け。さっきばかし、向こうの代表の情報を入手した>
「はぁ」
フランス『最強』はこの話に無関心だ。
<シンガポールのお偉いさんから、貰ったんだがな。その条件として、お前と......その.......なんだ、お茶をしたいってよ>
「マジですか......?」
(この感じ、少し嘘を言ってるな......!)
直感で見抜く。
<大マジだ。すぐにデータは送っておくが、試合が終わった後、そのお偉いさんの対応をよろしく頼む>
「ちっ、最低ですね。本当に」
<そうだ。この際に向こうのお偉いさんを審判にするってのはどうかな? うちには、まだいないわけだし>
「それで、俺がOKを出すと思ってるんですか?」
こう言われても、冷静だ。
<思ってないさ、ただの悪ふざけだ。シャルル・レスタ殿>
「やめて下さいよ、そういうからかい......大統領が言うと、気持ち悪いんですから」
<はいはい。じゃあ、あとは上手くやってくれよ。勝利を信じてるからな>
大統領はそう言うと、通話を斬った。
(どんな奴だって、一撃で倒してやる)
シャルルは西洋の長い剣を持つと、独特な構えを取る。
それはフェンシングのものに見えた......
グライVSシャルル......死闘開幕!