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サイキョウの人間

「えっ......と。その......闘う相手ってどこなんですか?」


「聞いて驚くなよ? ......デンマークだ」


「デンマーク......」

神橋が首を傾げる。


「あれ、もしかして、知らない感じか!?」


「いや、知ってますけども。なんかパッとしないっていうか......?」


「う〜ん。日本人には馴染みがないのかもな」


「出来れば、今日中に会って話してみたいものだな。そのデンマークの最強とやらと」

轟道は、そう言った。


「こんな広いところで会えるかな......」

田中が頭を少し掻いた。


「あ、田中さん、宿舎の場所教えてくれません?」


「あー、それならこっちだ」


ある程度、建物の間を進むと、田中が足を止める。

そこには、巨大なドーム状の建造物があった。

それは全体的に白く、あらゆるところから監視システムがこちらを覗き込んでいる。


「これ、東京ドーム何個分だ......!?」

神橋は、その大きさに驚きが隠せなかった。


「ざっと一〇以上はあると思うぞ」


「そうだとすると、部屋が大きすぎないか? もっと、小ぢんまりとしたもので良いんだがな......」

轟道が困った顔をする。


「まぁ、部屋も大きいが、単にあそこは寝る場所ってだけじゃない。高度な能力を持っている医療班と各国の精鋭である軍の基地でもあるんだよ。あと......」


「ん? あと?」

神橋が聞き返す。


「誰かいるな......」

轟道は誰にも聞こえない大きさの声で言った。


「ミスター轟道、あんたと俺が闘う場所でもある」

田中じゃない、明らかに聞き覚えのない声だ。

皆が、その声の方に体を向ける。


声の主は、明るい茶髪に無精髭を携える男だった。

青いロングコートの中に白いシャツ、そして、黒いズボンを着用しているが、どれも薄着だ。

とても、戦闘に使えるようなものではない。


「おお、それはそれは教えてくれてありがたい。で、お前がデンマークの最強か......!」

轟道の口角が上がる。


「如何にも! この俺がデンマーク代表のルウェットだ。相手がこんな爺さんなら、一瞬で勝負がついちゃうな」


「おっと、若者は血の気が多くて、困るなぁ。お前が俺を倒せるわけなかろうが」


「あーやだやだ。歳取ると、こんな頑固になるんだもんな〜。あんたの技術体系なんか打ち破ってやるよ」


「お前ごときに破られるほど、脆弱(ぜいじゃく)に出来ておらんわ」


「じゃあ......やってみるかい?」

二人は磁力に引かれ合うよう近づいていき、バチバチと睨み合う。


((あ、これはマズイ!!!))

神橋、田中の両者は一瞬にして、理解した。

戦争勃発だと。


双方、共に相手の射程内に入ると......同時!

『最強同士』の戦が始まった。


まず、仕掛けたのは......ルウェット。

神橋たちには、見えない速度で横蹴りを繰り出した。

これだけでもえげつない威力だろう。


しかし、この攻撃を初っ端から貰うほど、『日本最強』は甘くない。


横蹴りの大きな隙を突いて、轟道がルウェットの懐に潜り込むと、鳩尾(みぞおち)へ左の正拳突きを放つ。


「危ねぇ!」

喰らうまいと、ルウェットが左手で正拳突きを受け止める。


(こちらが不利な状況になったな)

狙ってないとはいえ、轟道の手は掴まれた。


パワーなら、どう見ても、ルウェットに軍配が上がる。

捻られたり、拳を破壊しに掛かられたら、一巻の終わり。


それでも、轟道は攻撃の手を止めない!

轟道が流れるように、右回し蹴りを出す。

ルウェットは反応するも、脇腹に一発与えられてしまう。


「流石だな、日本最強ォ!」

だが、ルウェットは轟道の拳を掴んだままだ。


「今ので離れんか......!」


ここから、試合が激化するだろうという瞬間、


「ちょっ!!! 二人とも! どうせ、明日闘うんですから、そっちで全力使ってくださいよ!」

神橋が間に割って入る。


「けっ、お預けかよ......」


「ふん......神橋君の言う通りだな......ルウェット、明日が楽しみだ」


「ミスター轟道、明日の俺は今日の俺じゃない。それだけは頭の片隅に置いとくんだな」

そう言うと、ルウェットは光の通らぬ路地裏に消えていった。


「なんだったんだ? 今のは」

田中が呆れた表情で訊く。


「ん? 話を聞いてなかったのか? さっきのは、デンマーク『最強』のルウェットだ」


「いや、そういうことじゃなくて!」


「ま、簡単に言えば、超人だろうわな。だが、あいつ......本当の実力を隠してやがる」

轟道は少し言い(よど)んだ。


「あれで......ですか?」


「思ったよりも良い闘いになりそうだ」


二人の会話に入ることなく、田中は静かに宿舎の方へ二人を案内した。



------田中がある部屋の前で止まる。

「ここが、日本の部屋だ。ゆっくり堪能しとくといい」

田中は扉の外側に立っていた。


「あれ、田中さんは入らないんですか?」


「そりゃ、軍人には軍人の宿舎があるし、武力的な面でも、俺より信頼出来る人がいるだろ......? 早めに寝たいから、じゃあな」

田中は扉を閉め、軍人の宿舎へ向かって行く。


「というか......なんか凄いですね」

その部屋の中は、充実という他なかった。

壁は木材の模様、床は全て畳、寝床は布団。

と、全てが『和』に造られていた。


「俺の要望で全て、和の仕様にした! 良いだろう、この感じ!」


「俺、こういうところ慣れてないんですよね」


「はっはー! 日本人たるもの、やはり『和』に住まねば」


「そう......ですか。あ、今日は遅いですし、風呂に入って、すぐ寝ますか?」


「神橋君が先に入ったらいい。俺は軽い運動をしとく」

轟道は空手の型のようなものを行う。

所作から、ほんのわずかな緊張が垣間(かいま)見える。


(轟道さん、やっぱ不安なんだな......)

「安心してください! 俺は轟道さんなら、勝てるって信じてますから!」

神橋の目は真剣そのものだった。


「心が見透かされたか。俺もまだまだ鍛錬が必要か。だが、そう言われたら、悪い気はしない。そうだ、これを機に神橋も一緒にやろうじゃないか」


「はい!!!」


------一夜明けて。

いつも超元気な神橋が死んだようにぐったりとしていた。


「神橋君、元気がないな。どうした? 悪いことでもあったのか?」


「悪いことと言いますか......痛いことと言いますか......昨日、あんなにやるとは思ってませんでした......」


「あれでくたばってたのか。まだまだ、鍛錬が必要だな」


「勘弁してください......」


突如、扉からピンポンと音が鳴る。

神橋が死んでるので、代わりに轟道が扉を開ける。

すると、そこには田中がいた。


「そろそろか」


「二人とも、俺についてこい」


轟道は、その際に紫色の大きな包みを持ち、神橋を引きずる。

田中が二人を宿舎の丁度ど真ん中に連れて行った。


「二人とも、ここから先のことは口外禁止でよろしく頼むよ」


「ああ」

「はい」

そして、田中は柱にある赤いボタンを押した。


「なんだこれ......!」

すると、床が開き、地下への道が作られた。


また、田中が先を行き、二人はそれについて行く。

そうして、着いた場所は一つの金属で囲まれた部屋だ。


「中は二人で入ってくれ。俺はここで警備しておく」


「分かった」

「え? あ、はい」


中へ入ると、そこは今までとは違う世界だった。

奥まで見えないほど、幻想的な住宅街が広がり、そんな住宅街の真ん中には、大きな噴水がある。


その噴水の前に、見覚えのある茶髪の男。

「お、ミスター轟道! 昨日ぶりだ! 今回、本気でし合えることを光栄に思うぞ!」


「ルウェットだったな。随分と豪華なフィールドを用意したじゃないか」


「ここは、ストロイエ通りって言ってな。俺が一番が好きな場所だ。いやー、そんな場所をAIとかが一瞬で構築してくれるんだから、嬉しいことこの上ないね」


「そうか......お前は、そんな場所とやらで負けるのか。悲しきことだ」


「絶対、悲しいと思ってねぇな?」

そう言うルウェットは背中から、長柄の槍を取り出した。


「ふん、やっぱり、武器の系統は同じだったか」

轟道は紫色の包みから、ある特殊な槍を持ち上げる。

三つ刃の槍だ。


「日本の審判。掛け声は俺がやってもいいかい?」

デンマークの審判が神橋に訊く。


「え、別に構いませんよ」


「ジャパンの審判、今回は相手が悪かったな。一瞬で試合が終わるぞ?」

相手の審判は、ルウェットが勝つという絶対的な自信を持っていた。


(轟道さん......! 勝ってくれ!)

神橋は拳を強く握った。




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