ハジマリの狼煙
『最強たち』を閉じ込める、その都市の名は『監獄』。
今回の目的地であるが、最新の技術により一晩で到着することとなった。
「ふぁぁ......あれ、着きました?」
神橋が背伸びをしながら、寝ぼけた声を上げる。
「ここが『監獄』か......どんな強者がいるのやら......」
そう言う、轟道の目は輝いていた。
各国の『最強』が集まるという話から、神橋はどんな良い待遇でもてなされるのだろうかと思っていたが、そんな美味い話はなく、名の通り、まるで......いや、まさしく監獄だった。
飛行機を軍人が囲い、厳戒態勢にて『最強たち』を迎えていた。
そして、軍人は事前に渡された情報を確認し、ボディチェックも行って、神橋たちは、ようやく中に入ることが出来た。
しかし、本当に監獄の出で立ちをしている。
街は立派なのだが、陸の隅には鉄柵が張られ、数十歩歩いたところに軍人が一人ずつ配置されている。
しかも、空にはヘリ、海には潜水艇。
普通なら、ここまで厳重にはしない。
それほどまで危惧しているのだろう。
『最強たち』の力を......
「俺たち、なにか悪いことしましたかね......?」
ここまでの数だと、不安になってくるというものだ。
「俺が人知れず、殺った可能性があるかもな」
「やめてくださいよ! 地味にリアリティがあるんですから!」
「神橋君。あそこに、ものすごい数のライトがあるぞ」
轟道が見たのは、ヘリに乗っている軍人たちによって、スポットライトが当たっている場所だった。
「本当だ! ここに来いってことなんですかね......」
「ああ、そうだ」
後ろから、轟道じゃない声がした。
神橋は首だけ振り向く。
「あっ! さっきの軍人さんですか!」
「田中で良い。位で言えば、君たちの方が上だからな」
「えっと、田中......さん? なんで、ここに?」
「俺たちがここで警護するからだよ」
「マジですか......!」
「マジだ」
「ふん、田中と言ったか。俺たちは、あの場所に行けばいいのか?」
轟道はスポットライトの場所を指差す。
「ああ、そうだ。だが、念の為に最初は俺についてくれば、良い。場所は事前に確認済みだ」
二人は田中について行くと、スポットライトの真ん前まで来ることが出来た。
ただ、ものすごい人混みだ。
並ぶのは、各国の『最強たち』だろう。
「見えない......」
「あー、これはちょっと......来るのが遅れたのな」
田中が腕を組んだ。
轟道は、その光景を静観する。
「首相、全ての『最強たち』が揃いました」
その時、部下らしき男が首相......イタリアの首相にそう報告した。
「そうか、分かった。報告ありがとう」
イタリアの首相は、スポットライトの当たる中央まで歩き、堂々とステージに立った。
「レディ〜ス、ア〜ンド、ジェントルメ〜ン!!! よくぞ、おいで下さった!」
ステージにあるマイクを持って、『最強たち』に呼びかける。
それを聞いてか、辺りがザワつき始める。
「あ、自己紹介をしましょうか。私は新しくイタリアの首相になったウルーノです! いやー、今回は私が出した案である『進世界』に参加して下さりありがとうございます!」
イタリアの首相であるウルーノは、親しげな口調をとっていたが、どこか、飄々(ひょうひょう)としているように感じた。
「なんか......胡散臭い首相ですね」
神橋は自撮り棒にスマホカメラを取り付け、状況を把握していた。
「確かにそうだが、相当の実力はあると伺える」
「どうしてですか?」
「どうしてって......就任してすぐに、こんな案を出せるのは凄いことだからな」
「言われてみれば、そうですね」
二人がこんな話をしている中、
「一瞬だけ、影が揺れた......?」
轟道は目を凝らし、カメラ内の違和感を探す。
「皆さん、自国の軍人たちから話を聞いていると思うので、大まかな説明は省きます。ですが、今回の戦争にウチ......イタリアは参加しません。それに加え、あなた方の誰かが勝利した場合、戦利品の何パーセントかはイタリアが貰います」
とんでもないことを言い出した。
ここにいる『最強たち』は、国を背負って来ている。
それなのに、参加しない挙句、戦利品をかっぱらおうと言うのだ。
反発するのも致し方なし。
「ふざけるなよ!」
「立案者だからって偉そうに言ってんじゃねぇぞ!」
と、多くの『最強』がウルーノに向けて、野次を飛ばした。
「別にいいでしょう? 私が立案しなかったら、抵抗することも出来ずに、国が廃れていったかもしれないんですから」
この言葉を言われては、言い返すことなど出来ない。
「それは自分のところの代表が、弱過ぎて、心細いからじゃないのか?」
一人の『最強』が、そう言葉を吐き捨てると、首相の前に飛び込んだ。
(っ、速い......)
轟道は冷静に状況を見る。
「ほら、もう届く......」
『最強』の男がウルーノの鼻目掛け、目に止まらぬほどのスピードで拳を放つ。
誰もが、骨折は免れないと思っていた。
(だが......)
しかし、轟道は、もう気付いていた。
ウルーノの影に『なにか』がいることに。
影から、『なにか』が飛び出すと、その『最強』の男の放たれる拳を容赦なく、へし折った。
「がっ......ぐ、あぁ......!!!」
痛みで『最強』の男は悶絶する。
影に潜んでいたのは、真っ黒な戦闘服に黒いマスクを合わせる男。
「ジェスト、やり過ぎだろう?」
「見せしめとしては、丁度いいでしょう」
ジュストと呼ばれた男は、そう言った。
「まぁ、否定はしないかな」
軍人服のジェストは頷くと、首相の横に立つ。
「そういえば、さっきので、忘れていたけど」
ここから、ウルーノは三つぐらい話をした。
一、「毒や爆弾、過剰な殺傷兵器は禁止。ただし調整すればOK」
二、「戦場の決定は各国代表に一任」
三、「同行者は審判。責任重いから頑張って」
(最後、雑っ......!)
神橋は若干、引いていた。
「いやー、関係無いけど、バカにした代表に拳を握りつぶされるなんて、これを代表にした国に申し訳ないから、私は去るとしようかな」
準備してましたと言わんばかりに、ヘリが低空飛行し、首相の頭上まで降りる。
「サー、どうぞ」
ヘリの座席に座っている軍人が梯子を落とす。
「では、皆さん! 良い監獄生活を! グッバァ〜イ!」
その梯子を掴み、ウルーノとジュストは去っていった。
”恐ろしい”イタリア首相が居なくなったせいか、少しの静けさと脱力が体を駆け巡る。
一方、首相は座席に座り、額の汗を拭いていた。
(今回はジェストがいたから、良かったものの......彼らは最低でも、武装した軍人を軽く捻り潰すことが出来るだろうな......)
ヘリは静かに夜に呑み込まれていった。
かくして、最強たちは解散する。
「この後、どうしますか? 轟道さん! 田中さん! 始まったばかりなんで、当分、暇だと思うんですけど」
「あ......そうか。ここに半永久的に住むのを教えない大臣のことだ。これも教えてるわけないか」
「それは言えているな」
轟道は反応する。
「え?」
「簡潔に言うと......早速、明日に試合が組まれている。つまり、暇ではない!」
「え......嘘でしょぉぉぉぉ!?」
『進世界』いざ、始まる!!!