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シン世界-日本最強の九二歳が全てを斬り伏せる-  作者: のっぽ童子


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グン神

今より一七年前......

過激化したテロ集団とマフィアなどが集まった反乱軍とアメリカを護るべく出動した米軍による内部戦争が起きていた。

この戦争により、一六万人が亡くなったと言われている。

しかし、そのほとんどの死者は反乱軍だったとも言われている。


とはいえ、始まった当初は反乱軍が米軍を予想以上に追い詰めていた。


このままでは負けるんじゃないか? と政治家たちが議論するほどだ。


軍人らはこの絶望的な状況に絶望するしかなかった。


だが、急遽、陸軍の部隊であるレンジャー連隊から一人の男が激戦区に派遣される。


その男は軍服の上からでも分かるほど、筋骨隆々で、なぜか古い型の黒いボディをした銃剣を持っていた。


一同は一様にこう思う。


こんな場所に一人だけ送り込んでくるなんて、馬鹿げてる......と。


しかし、現実はどうだ?


男が突如として、前に飛び出すと、敵の指揮官らしき男を硬い装甲も虚しく、たったの一撃で屠り、それにより反乱軍全体の統率を崩すと、まるで殺虫剤で虫を殺すように、兵の一人一人を軽々と抹殺していく。


反乱軍とて、最新兵器などを使っている......なのにも、関わらず損傷なくして、数千人あまりを消し、激戦区を安全区域に仕立て上げた。


その後も各地へと出向いていき、ある日、男が首謀者を倒し、戦争は終結したのだが、彼がこの戦争で殺した人数は......約三万六〇〇〇〇人であった。


それらを踏まえて軍人たちの間では軍を救った神......『軍神』と呼ばれるようになったとか。



そんな元・軍神は比喩的に川へ潜み、標的を待っていた。

珍妙な構えのまま、動くことはない。


「やっぱよ、ワニは水中で倒す方のがロマンあるぜ」


今のところ、ボッフは不利な状況だ。

彼が勝つには損傷関係なしの絞め技を()めること。それしかない。


「喰うか喰われるかではないのだ。一方的に喰い荒らされたけば来るが良い」


グリロエはこんなことを言わずとも、理解していた。

勝負にのらないような男ではない、と。


「分かってるよ」


ボッフが妙に淡々とした様子で突撃し、右腕をフックとして繰り出す。


(避けるか......お前の判断は正しい。だが、相手が悪いな)


グリロエはその拳へ合わせるために両腕を持ってくると、グシャリ。

カイマンが肉を貪るように、彼の爪がボッフの右腕の筋繊維をたちまち断ち斬る。

それどころか、グリロエは爪を立てたまま、両腕を捻ってボッフの上腕を破壊した。


(えぐいな......これ)


ボッフは見るも無惨な姿になった右腕を見て、呆然としていた。

まるでマーライオンかの如く血が吹き出す。


「デスロール......この技の名前だ。本来は、ワニだけのものだがな」


ワニの咬合力約二トンに加え、体を捻ることによる遠心力で成り立つ超必殺の技である。

それを技術体系としてグリロエは取り込んでいた。


「あんたの()、しっかり味わったぜ。だがな、俺の勝利は揺らがねえ」


すると、ボッフがナイフ付きの縄を振り回し、相手を牽制する。

不規則な動きに対応し斬れず、グリロエから軽く血飛沫が舞う。


(やはり、徐々に俺に慣れてきている。厄介だな)


グリロエは後退しながら、周りを観察していた。


「俺も......技術全開放と行こうか!」


ボッフはそう言うと、一気に相手へ駆け出し、残った左拳を振り抜く。


(少し警戒して置くべきか......)


グリロエはデスロールで対抗しようとするが、咄嗟に銃剣で防ぎにかかる。

途端、拳の動きが止まった。


「んっ?」


グリロエが困惑を口にした時、拳は急加速!

その打撃はグリロエを吹き飛ばすのには十分だった。

壁にぶつかるが、そこは左腕を挟み込んで対処する。


問題はここからだ。


「おらあっ!」


その隙を突いて、ボッフが肩を前に出して突進を仕掛ける。


「チッ」

(判断を誤った!)


両手は既に塞がっている、左腕を離そうにも間に合わない。

グリロエは銃剣を盾にそれを受けると、衝撃で壁に押し戻される。


「打撃加減いかが!?」


ボッフ、残りの五体ならぬ四体でグリロエに攻撃を始める。

拳での打突、脚でのみぞおち蹴り、頭突き......なんでもありだ。


「この程度で勝った気になるな」


攻撃を合間を潜り抜けたグリロエが最初のとてつもない圧を出しながら、後退してスペースを確保する。


「......そう来なくっちゃなあ!」


その瞬間、ボッフが一気に距離を縮める、その際に手を大きく広げて、その矛先をグリロエの左肩に向けていた。


グリロエは残ったその腕を狙ってデスロールを放とうとする。


しかし、ボッフは咄嗟に右脚を突き出して左腕を庇う。


無論、そうなれば、ボッフの右脚は容赦なく咀嚼される.......

肉が剥き出しになり、そこから出る血の量は致死量に達していた。



(もう、止めてくれ。ボッフさん......これ以上はあんたが持たねぇ! あんた自身が一番分かってるはずだ!)


ダズやんは上から覗き込むように見ていた。

彼はボッフの降参を聞きたく思ったのだ。


勝敗なぞどうでもいい、無事でさえいてくれれば......そんな儚い夢は川の底で潰える。

かたや、『アメリカ最強』!

かたや『ドイツ最強』!

こんな戦闘......死んでもやり続けるに決まってる。


(なっ......二人とも、笑ってる?)



二人はこの闘いで無意識に互いを尊敬し合い、ただの相手から、友へと認識するようになった。


親友(とも)として、楽しきこと。

戦友(とも)として、強きこと。

心友(とも)として、全てを持て余さずにぶつけ合えること。


こんな喜びから両者は、つい笑みが零れてしまったのだ。


「そろそろ」


ボッフはゆっくりとグリロエににじり寄る。


「終幕だな」


グリロエはボッフを待つ。


「待ってくれてあんがとよ。やっぱよ......必殺技ってのは最後の最後に取っておくものだよな!」


ボッフがより手を開く。


(んっ、なにかある!)


グリロエはすぐさま体を引くも、瞬きの差でボッフが先行する。


ボッフはグリロエの左肩を掴むと、まるで投球するかのような......いや、投球をするフォームで投げを繰り出し、直下の地面に落とした。


「......グ!」


落下した隕石と化す一撃によりグリロエの左肩は壊された。

肩だけじゃない、その付近の構造も崩れている。


「どうだ? 俺の我流は!」


人類史において、投げは槍から始まったが、そこからよりコンパクトに、よりタクティカルに進化を遂げたスポーツが存在する。


野球だ。


野球のあの速度と威力......それをボッフは人体に当てはめていた。


「じゃあ、俺の我流はどうだろうな!」


一瞬として、ボッフの左腕が掴まれる。


(なにをする気だ......あれか!?)


ボッフが過ぎったのは、今もまだ体に残されている鰐の咬合。

その答えはYES。


グリロエが右手を爪を立てると、先ほどとまでは行かずとも、彼の腕を殺した。


「これでお前はなにも出来な......」


グリロエは勝ったと思った。

しかし、ボッフは諦めが悪いのか、左脚で地面を踏み抜き、グリロエに体当たりをしてグリロエを倒し、後ろに回る。


(こんなことをしても、意味はないのにな......いや、もしや!)


グリロエはなにかに気付く。


(右はもう死んでるから使えねえけど、左はギリギリ腱が斬れてねえ! 今までの努力が残してくれた勝機だ!)


ボッフは死んだ左腕を動かすと、ナイフ付きの縄を右腕に括り付ける。


グリロエが立とうとするも、ボッフの引っ掛けで脚を崩された。


ボッフはグリロエの首に縄のある腕を回す。


グリロエも対抗しようと、銃剣を腕に刺すが、それでとボッフは止まらない!

その一連の動きを見ながら、ボッフが取った行動は......余った縄の部分を噛んで、体を引くというものだった!

ボッフ・ステラ、最後の最後の最後で腕での締めから縄の締めに転じる。

そして、まだ動く左脚でグリロエの背中を地面のように蹴り上げて、より意識を飛ばしやすくする。


「ガァッ......」

(ダメだ.....いよいよ、力が入らなくなってきた......俺は負けるのか......だが、なぜか、どこか、爽快感すら感じる。俺は......負けたかったのか......?)


そう、グリロエの人生は負け知らずだった。

最低でも軍に所属していた頃は、食事をただの水で済ませるような空腹感と退屈感に包まれていたのだ。


そんな彼にご馳走を与えたのはボッフ、ただ一人だった。


ボッフに締め上げられるグリロエは嬉しげな顔をしていた、解放されたかの如く。


そして、抵抗虚しく、グリロエは(おもむろ)に意識を消し飛ばされた......


(勝った......のか? 俺はこのグリロエ・ジョーズに......)


そう安堵するボッフであった。

しかし、その時、今までに無かった失神という事態にグリロエの本能が動き出す。


先ほどとは比較の対象にもならないレベルの圧力が辺りにいる者たちを押し潰す。

まるで心臓が握られているような、強さの概念が無に帰すような、そんな感覚が全身? そんなものじゃない。

魂にまで(にじ)り寄って来るのだ。


シャルルとはまた違う、軍人としての(はいぼく)の拒絶から暴走を始めた。


「マジか......もう動けねぇよ......」


次に目を開けたその姿はまさしく、『軍神』。

すぐさま、『軍神』が縄を裂いて、ボッフの動体視力に捉えられないほど素早く振り返り、銃剣で刺し殺そうとした時、その手が止まる。


(もう、決着は付いてんだよ。出しゃばって来るんじゃねぇ! 過去の異物(おれ)!)


グリロエは抑え込むために銃剣を自らの胸へ突き刺した。

案外、あっさりと『軍神』は帰っていく。

それと同時にグリロエがうつ伏せで倒れ込む。


「さっきのは死んでたな......」


ボッフはなんとも言えない感情が浮かんでくる。


「......あ! 勝者、ボッフ・ステラ!」


ダズやんは明らかに忘れていたが、手を全力で振り上げる。


「グリロエさん......いや、Mr.アメリカ。あなたはボッフさんに負けたんじゃない。あなたはあなた自身に負けたんです。次は勝ちましょう」


寡黙なアメリカの審判が、筋肉ダルマと言えるグリロエを背負って運んでいく。


「俺は勝ってねえ! 本来ならグリロエが......!」


ボッフは地団駄を踏んだ。


「ボッフさん、こんな勝ち方もありますよ。ほら、行きますよ」


ダズやんはお姫様抱っこでボッフを持つ。


「......っ! なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど......自分で歩けるからいいよ!」


ボッフが暴れる。


「怪我人は大人しくしてください。傷が広がりますよ」


「そういう問題じゃねえんだよ!!!」


こうして、二人の闘いは幕を閉じるが、この後、凄まじいことが起こるのを彼らは知る由もない......


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