コクシ無双
二人の気力が、どんどん増していく。
(俺の脚で無力化する!)
ルウェットが幾何学模様の入った石畳を脚で砕いて、突っ込む。
それに反応し、轟道は十文字槍を突き出した。
ルウェットは刃を入れ込み、攻撃を弾くと同時に体を三歩引く。
しかし、それは一時的な牽制などではなく、轟道がその構えを崩さずにじっと保っていた。
「来ないのか?」
轟道はルウェットを誘い出すため、煽りを入れる。
「あぁ゛?」
額には血管が浮かぶ。
パルチザンが下から斬り上げられる。
しかし、その刃は轟道を斬る前に静止する。
十文字槍の左鎌が、その狂刃を防いでいたのだ。
そして、その穂先が落ちる。
すると、パルチザンも同様に矛先が下を向き、ルウェットの体も動く。
瞬間、轟道の槍が跳ね上がる。
(何が起こった?)
呆然とした顔でルウェットは右に避けると、先の斬り上げを突きへ転じて、切っ先を繰り出した。
しかし、それもまた、止まる。
今度は十文字槍の右鎌だ。
再び刹那、刃が横から縦へ変化し、すり抜けるようにルウェットの左胸に喰らいついた。
「なっ」
ルウェットが急いで下がる。
(なんだ? さっきまではある程度、押せていたが......今はもはや鉄壁!)
彼は轟道の異変に気付いていた。
「おっと、ギブアップかな?」
また、嘲るように煽る。
「すまんが、そんなのに、何回も引っかかるような甘ちゃんじゃないんでね。だからよ、その構えを解いてくれないか?」
「よく言う。解いたとしたら、すぐにでも、攻撃を放つだろうに」
「当たり前だ。戦争に卑怯もクソもねぇんだ。早く解けよ」
ルウェットはほんの少し、ニヤついた。
「意味が分からんな」
(だが、この顔......なにかある)
轟道は、今までの経験則から、ルウェットの考えを見抜く。
ルウェットは助走をつけ、今までにないほどの速度で駆け、跳び上がりざまに槍を落雷の如く、振り落とす。
轟道は、すかさず、十文字槍を上げて防御をした。
彼は刃を噛み合わせるも弾き飛ばされ、背中から地面に落ちる。
(一体、なにを考えている......? この目で確実に捉えねば、まずい)
ルウェットが再び跳び、槍を振るう。
(これは......先程とは微妙に高さが違う!)
轟道の反応が少し遅れる。
ルウェットは十文字槍の奥にパルチザンの柄を掛けると、ハードルを越えるようにして、轟道の鉄壁を抜ける。
脚から着地するが、しゃがんで勢いを吸着することで威力を最小限に抑えて、轟道の背後を取る。
(あれを抜けるか......!)
「ふんっ!」
気配を察知し、轟道は後方を槍で薙ぎ払う。
しかし、響くは金属の音だけだった。
そして、それは地面に叩き付けられ、甲高い高音を鳴らす。
(いない......だと!?)
轟道が違和感に気付くも、もう手遅れだ。
「や」
いつの間にかルウェットが間合いの奥に入り込んでおり、瞬き一つしない間に強力な拳を突き上げた。
槍を挟む余裕も暇もない。
辛うじて、両手でガードしたが、その威力はとても重い。
上にしていた左腕の骨に亀裂が走る。
(折れさえしなければ......!)
ある程度距離を取ったルウェットは安全にパルチザンを取ると、躊躇いなく、突進する。
(だが、途轍もなく速い......)
轟道が綺麗な噴水を見る。
(一か八か。やってみるしかない!)
ここで考えついた、一つのアイデア。
それがこの事態を大きく揺るがす。
轟道が噴水に接近する。
「ミスター轟道、何をする気だ?」
ルウェットは轟道の右へ移動し、行動を抑制しようとする。
彼を無視し、轟道は泉の中央にある鳥の像を叩き割ったのだ。
すると、制御されたシステムが崩壊し、大量の水が溢れ出す。
ルウェットの刃が放たれる寸前、像がこちらへゆっくりと倒れてくる。
「やっべ」
ルウェットは後退する。
同じく、轟道も抜け出していた。
短いうちにこの領域は水で満たされる。
そして、服も濡れ始め、止まり斬らなかった血が水とともに流れ出す。
両雄が静かに向かい合う。
(俺を遅くする気か......でもな、関係ねぇよ)
「どんと来いや!」
だが、また、突進の体勢になる。
「さぁ......! 斬り結ぼうか!」
行われるより前に轟道が強力な踏み込みから、槍の一閃。
ルウェットが防ぎざまに斬りつけ、それを轟道が槍で受け、攻撃......
凄まじい剣戟だ。
他の者が入れば、一瞬にして、粉微塵だろう。
相対するは技巧を張り巡らせる轟道と力で応戦するルウェット。
故にルウェットが手数で押され始める。
彼が力を発揮する前に轟道が技で抑える。
少し経つと、彼から血飛沫が舞う。
「ミスター轟道、これはどうだい!」
足にスナップを利かせ、右へ回り込む。
それを轟道は追えていない。
(......もらった!)
ルウェットは、そう確信する。
(目では反応しきれない)
ルウェットが右手の槍を振り上げ、叩きつけようとする。
しかし、次の瞬間、轟道が神速としか言えない速度の刺突を繰り出す。
その突きはルウェットのよりも遥かに速い!!!
「なにぃっ!?」
そして、十文字槍の刃は強欲にも、ルウェットの左肩を喰らった。
(ならば、音を聞いて反応すればいい)
轟道の異常な戦闘センスが開花する。
「なるほどな......泉を壊したのは、俺の足音を察知するためだったのか」
ルウェットは傷が深いのか、口から血を吹き出す。
「いくら、速くとも。音よりは速くなれんだろうて」
「命迫る駆け引き......やっぱ、これだから、闘いは止められねぇな......!」
突如、彼の雰囲気が変わった。
そして、この上ないぐらいの笑みを浮かべたのだ。
「それじゃ、『巨人殺し』と行きましょうかァ!」
ルウェットの目に狂気が宿る。
この男は、まだ、終わるようなタマじゃない!
「何十年ぶりだろうか、生身で本気を出せるのは......!」
轟道もその目に狂気を孕んでいた。
そう、今までのは、前座。
本当の闘いは、これからなのだ。
瞬間、ルウェットが爆発したかのような加速を見せる。
「ついてこいよ」
その声はどこか楽しんでいるようだった。
「あまり、この老いぼれに無理させるな」
言われた通り、轟道がルウェットを追って、走っていく。
審判の方は、わちゃわちゃしている。
自分たちの目の届く範囲から『最強』の二人が居なくなったのだから。
「これって......どうするんです?」
神橋が訊く。
「どうするもなにも、ついて行くしかないだろ!? あぁ、もう! 先に行くぞ!」
デンマークの審判が駆け出す。
「ちょっ、待ってくださいよ〜!」
神橋は情けない声を上げて、走った。
ルウェットがあるホテルの中へ入ると、轟道も同じように入っていった。
そこは赤いカーペットと温かみのある茶の壁が一面に設置されている。
(ルウェット......なにをする気だ?)
ルウェットは階段を上がり、そのまま、右へ曲がった後、真っ直ぐ進んで廊下の右角を曲がった。
置いていかれぬよう、轟道も角をカーブしようとした......しかし、その角からルウェットが現れる。
「これは戦争だぜ!? ミスター轟道!!!」
彼は一瞬にして、不意打ちの袈裟斬りを仕掛ける。
(くっ......防御が浅いか! なら......)
轟道が槍の防御を割って入らせるものの、急過ぎたあまり、パルチザンを通らせてしまう。
気付いた時には、轟道はバッサリと左胸から右側の骨盤辺りまで斬られていた。
「ぐはっ......!」
轟道が血を滝のように流すと、力は徐々に抜けていく。
その傷は浅くなかった。
意識が蒙昧とする中、全てがスローに見える。
(ミスター轟道......楽しかったぜ)
そのまま、轟道は、ゆっくりと大の字の状態で倒れる......かと思われた。
「うあ......」
しかし、轟道がまるでゾンビのように起き上がってきたのだ。
「おいおい、マジかよ......!?」
その声には、喜びにも似たものが混じっていた。
(あの状況で半歩引いてやがったな!)
ルウェットは傷の跡を見て、そう判断付ける。
「滅多にない強者との闘いだ。どんな傷でも、倒れようとはならんだろう」
そういう、轟道の傷は致命のものである。
まず、立っていることすら、奇跡に等しいのだ。
「立ち上がったところで無駄ってことを思い知らせてやるよ」
ルウェットは狂気的な笑みで轟道との闘いを今か今かと待ちわびている。
「見せてやるさ、俺の真骨頂をな」
二人の決着は、もうすぐだ......




