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シン世界-日本最強の九二歳が全てを斬り伏せる-  作者: のっぽ童子


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オペ開始

今回の闘技場として選ばれたのは、スイスにある岩特有の灰色と純白の白で彩られたマッターホルン......ではなく、その下の緑だらけの平地だ。

マッターホルンは標高四四七八メートルもあるので、相当な異質感と言えるが、妙に風景と溶け込んでいる。


爽やかな風が四人を包み込む。


「良い風だ。君もそう思わないか? 叉都轟道」


『スイス最強』リテロ・ダズビーは医者の白衣やその他諸々を着用しており、特徴は薄い灰色の髪と全てを呑み込むような黒の瞳、そして、その下に深いクマがある。

顔自体は幼くもあるが、青年よりにも見える。


「確かにそうだが、フルネームはやめてくれ。轟道でいい」


「そうか、轟道。じゃ、試合が始まる前に準備をしてもいいかな?」


「準備? まぁ、良いだろう」


「助かるよ」


リテロはそう言うと、ナースのようなスイス審判の手にある注射器を取り、手の甲にそれを突き刺した。


(なんだあれ......注射?)


その光景を神橋は不思議そうに見た。


「いやー、ありがとう。じゃあ、始めようか!」


リテロが何らかのカプセルを飲み込むと、二つの指を擦らせて、鳴らす。


「ああ。神橋君、頼んだ」


轟道はそう言うと、紫の刀袋から十文字槍を手に取る。


「じゃあ、これから......マッターホルン? にて、『日本最強』叉都轟道VS『スイス最強』リテロ・ダズビーを始めます! 位置についてよーいドン!」


神橋が手を勢い良く振り下ろす。

なぜか、徒競走とかの掛け声だ。


「面白くなりそうだ......!」


神橋の掛け声とともにリテロが直進する。


(こんなの......斬れと言ってるようなものだ)


轟道が超高速の横薙ぎを繰り出す。

すると、リテロはギリギリのバックステップで躱すも、その胸は薄く斬られていた。


「うん、速い。私の知る運動学を超越しているほどに」


今度、リテロはジグザグの軌道に乗って、前へ出る。


(これも斬れる)


轟道は槍を振り上げると、すぐさま、刃を落とした。

リテロは再度後ろへ飛んで、回避するが、またもや薄く袈裟に斬られる。


すると、リテロが白衣のポケットから医療用のメスと小さいハンマーのようなものを取り出し、右手にメス、左手にハンマーを掴ませた。


「これでも医者の端くれなんでね、じっくり検査させてもらうよぉ〜!」


リテロは狂気に染まった笑みを顔に憑依させ、轟道の喉元へメスの凶刃を差し向ける。


轟道は両手から左手に持ち替えた槍でその攻撃を弾く。


「あれま!」

(ちょっとまずいかな?)


その瞬間、体勢が崩れたリテロの土手っ腹に轟道の中段突きが深く突き刺さる。

この深さは威力じゃない......技術の集大成だ。


(内部がやられた......!?)

リテロは血を吐き出しながら、後ろへ吹き飛ばされる。


「これがコンボというやつだ」


轟道が全身全霊の脚力でリテロに追い付く。

それと繋げるように槍の穂を振り下ろす。


反射的にリテロはメスとハンマーを交差して防ぐも、衝撃は防ぎ斬れずに、またもや後方へ飛ばされる。


しかし、反撃とばかりにリテロが右手にあるメスを轟道の目に向けて投げつけた。


(機械のような正確さだな......ちょっと体勢が悪いか)


轟道は反応し、頭の位置をズラしたが、頬に血の一条が刻まれる。


更に、地に足つけたリテロが懐へ手を潜めて、新しいメスを手に取ると、轟道の間合いへ入っていく。


「こっからは私のターン......」


この闘いは徐々にリテロのペースの呑まれていくと思われた、その刹那。


ザンッ。


風を裂く音と同時、リテロの首元に十文字槍の右鎌が喰らいつこうとしていた。


死。

リテロにふと()ぎったのは、それだけだった。

しかし、リテロの本能は死を許さず、脳へ右脚で地面を蹴るよう命令を下す。


(やはり、躱すか)


轟道はこの短いうちにリテロの存在の違和感に気付きつつあった。

隙が出来すぎたがためにお互いが距離を取る。


「危ないね......だけど、お陰で死を経験出来たよ、ありがとう」


リテロは飽くなき探究心の塊だった。


「危ない? どうせ、お前は殺しても死なん」


轟道の観察眼は研ぎ澄まされている。


「ゾンビみたいな言い方、やめて欲しいんだけど......私でも限度はあるんだよ?」


やはり、リテロにはなにかがある。


「となると、ただのマジシャンか。なれば、手品が尽きるまで()ろうじゃないの」


轟道が距離を消し、予備動作もなく、瞬速の突きを放つ。


(見えな......)


反応の出来ないリテロはその一撃で腹に風穴が空くかと思えたが、寸前に横へ脚を進めていたため、表面を薄く斬られるだけだった。


(攻め過ぎたか)


突きには大きな隙が付き物だ、こうなれば、轟道の間合いなど関係ない。


「流石にこれは対応出来ないでしょ」


リテロは流れるように轟道の懐へ潜り込むと、メスでコメカミを攻撃した。

反応し、轟道は回避するが、その地点にはもうハンマーが迫ってきており、打撃がコメカミにまともに入る。


「チッ」


その時には轟道のコメカミは割れていた。

轟道が槍の引き戻しざまにリテロを斬りつけようとしたが、既にリテロは場を離れていた。


「流石、医者だ。人体の弱点を的確に突いてくる......だがな、こんな戦術じゃあ、この轟道は破れんぞ」


轟道はルウェット戦を経て、明らかにオーラの練度が上がっている。


「やはり、私の目は間違っていなかった......安心して欲しい、今のは検査だ。これからはオペといこう!」


リテロは目と口をかっぴらいてそう言った。



そのリテロの狂気を見て、神橋が後退(あとずさ)る。


「あれ、もう医者じゃないだろ......」


呆れているのだ。


「医者ではないというエビデンスが欲しいところですが、否定はしません」


スイスの審判が神橋に寄ってきて、言葉を更に紡ぐ。


「Dr.リテロは最高の医者の一面があると同時にマッドサイエンティストの一面があるお方ですから」


その顔は妙に恍惚としていた。


リテロ・ダズビー。

スイスのツェルマットというところにある医者の名家であるクラメール家の下で誕生したが、その真実は優秀な遺伝子を配合していった結果の実験体として産まれた子だったのだ。


その優秀さはその家族のみならず、国中でも群を抜いており、六歳にして、様々な分野の教授と議論を交わすほどだった。


しかし、やはり、優秀が過ぎるというのは他の者にとって、目障りな存在だ。

産んだならば、それ相応の責任はあるだろうに、無慈悲にも大人たちはリテロに対して飯を出さず、外にほっぽり出してしまう始末......それは八歳の頃だった。


だが、もう既にリテロの脳内に科学の知識が敷き詰められていたおかげで、生きるには苦労しなかった。

そこから、自給自足の生活に加え、家柄から実験などが出来なかった反動で自分自身に毒を入れたり、限界を試すようになっていく。


数年後、その現場を見たある人に拾われ、リテロは医者としての才覚を発揮するようになっていった。



そんな彼は今、轟道とメスで斬り合っている。


「ヒャッハハー!」


無論、リテロの体は複数の赤で染まっていくも、宿った狂気が薄れることはない。


ここでリテロは賭けに出る!


リテロがメスを上下段に分けて二本を人中と骨盤目掛けて投げる。


轟道の間合いは鉄壁だ、そんな鉄の二片など軽く弾いてしまう。


しかし、下から上へ槍を放っていたために少々の隙が生じる。

それをリテロは狙い、時間差でメスを三本ほど投擲しながら、サイドへ回り込む。


「青いな」


次の瞬間、リテロの腹に轟道の右拳がめり込んでいた。


(なにが起こっ......まさか、武器を捨て......いや、投げたのか!!)


邪魔な武器を手放し、メスを回避する......最適解だ。


リテロがすぐさま下がると、先の場に十文字槍が大地を割るように降ってきた。


「殺す気で来てるね......だが、そこもまた......良い!!!」


ニヤリと笑うリテロは六本ほど、メスを取り出す。


「あれで死ぬのは想定に入っておらんがな」


そう言いながら、轟道が槍の柄を掴む。


「その豊富な経験が人々の叡智(えいち)に勝てないことを教えてあげましょうぅ!!!」


オペはこれからだ......




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