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シン世界-日本最強の九二歳が全てを斬り伏せる-  作者: のっぽ童子


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ジゴクの始まり

ムウは施設で治療を受け、白いベッドに横たわっている。

破壊された臓器・骨はiPS細胞で修復し、失った血液は人工血液で補った。

暇過ぎるあまり、見事な仏頂面である。


「おーい、ムウ。大丈夫かー?」


金髪を携えた美少年が青い瞳でムウの顔を覗き込む。


「シャルル......来てくれたのか!」


ムウはシャルルを見て興奮したのか、布団を押し退け、ガバッと起き上がる。


「......大丈夫じゃなさそうだな」


大丈夫かの確認が出来たので、すぐにシャルルは帰ろうとした。


「ちょっと待ってよ! シャルル!」


ムウがシャルルの服の端を掴む。


「やめろやめろ、千斬(ちぎ)れるから! ......分かった! 今日は大した用事もないし、少し居てやるよ」


「シャルル......お前は良い奴だ!」


(ほぼ、強制的だった気がするんだが......)

「俺は元から良い奴だろ? ......そういえば、グライは?」


「んー、来てないね!」


本当にムウは元気そうだ。


「そっか......」


「グライが気になるの?」


「いや、気になるってほどでもないんだけどさ。まぁ、一応俺を負かした奴だから......なにしてんだろって」


「もしかしたら、密かに特殊な鍛錬してるかも知んないよ? シャルルと差を出すために!」


「ん......だったら、こうしちゃいられないな......! 待ってろよ、グライ。俺も鍛えまくっていつか追い越してやる!」


シャルルは大急ぎで病院を出ていった。


「あ、また暇になっちゃった」


ムウが寝ようかと思った、その時。


「ムウ、お見舞いに来たよ......って、どしたの?」


褐色肌に迷彩柄の軍服を纏わせる男が病室に入ってくる。


「あー、なんでもないよー」

(回復したら、シャルルに謝っとこ)


そう思うムウであった。


------一方その頃、中国チームでは。


万祝(バンショウ)もまた、素晴らしく仏頂面だ。


万祝(バンショウ)、悔しいか?」


試合の見学さえしなかった(ヤン)主席が質問する。


「分からない......です。ムウと闘った時は”なにか”に満たされていたのですが、今はその”なにか”さえなく、ぽっかり穴が空いたような気がして」


”なにか”は当の本人でもよく分かっていない。


「まぁ、確かに。その顔つきだもんな」


「これは元からです」


「おう、そうか」


「でも......俺は挫けませんよ。ムウに教わりました。精神の太さとは、それ即ち生命のとしての限界だと。これを持って鍛錬をし、そして、いつかは! ムウを倒し、(タイ)の当主......兄を越えてみます!」


「君は若くて才能がある。その夢だって今は不可能かも知れないが、不可能を可能にする力こそ、『最強』には必要なのだよ」


(ヤン)主席は良さげな言葉を返す。


「不可能を可能に......ね。ふっ、主席にしては良い事を言うじゃないですか」


「いつもは言ってないと聞こえるのだが?」


「その通りでしょうに」


「失礼な! 私だって、たまには言うさ!」

(万祝(バンショウ)、君は今回の闘いを経て、人間らしさというものを得たように思える。私はそれが凄く嬉しいのだ)


(ヤン)主席は万祝(バンショウ)の成長を見れて、微笑みかけた。



武術大国である中国が敗北したということで、監獄(ネオ・ゲート)内は大いに盛り上がっていた。


その話題で特に注目されていたのは、次の武術大国の闘いだ。

その闘いとは明後日行われるインドVSブルネイである。


その内のインドの『最強』バブエ・カルダットは二三六センチの巨躯と丸太を思わせる筋肉を持っていたことで、既に存在は知られている。


バブエは僧のような見た目をしていた。

髪はなく、褐色の袈裟を着て、なぜか、目を閉じながら道を歩いている。


「ここ最近、騒がしいものだな」


バブエがインドの審判であるアショクに話しかける。


「そうですね、バブエさん。止めていきましょうか?」


アショクもまた、褐色の袈裟を纏っているが、坊主頭である。


「いや、良い。これもまた、運命だ。郷に入っては郷に従えと言うしな。そしてなにより、人に強要するのは良くない」


バブエはその巨体からは信じられないほどの優しい声を発した。


「ゴウニイッテハ......その言葉の意味は分からないですが、あなたがお優しいことだけは分かりました」


「人に優しくするというのは、誰にも出来ることだ。ただ、私がしているのはお節介だが」


(それが凄いんだけどな......)

「そういえば、明後日の試合......どう考えてます?」


「ふむ、そうだな。私なりに頑張ってはみるつもりだが、力が及ばない可能性があるだろうね。あちらの『最強』を見たことがないから、なんとも言えないが、勝率は半々と言うべきだろうか」


「やはり、中国が負けたってのが大きいですか?」


アショクが口にしたのは、沸騰中の話題だ。


「いや、関係ない。ただ......楽しみなのだよ」


バブエはそう言うと、喜々に口角を上げた。


------ブルネイの方では。


黒スーツ・黒ズボン・白シャツ・黒ネクタイ・黒縁メガネを着用した、整えた黒髪の男がパソコンを取り出し、なにやら文字を打ち込んでいる。


(ここでは有名だ、名は知れ渡っている......確か)

「バブエ・カルダット......ちっ、検索に引っかからないか」


検索で腹を立てている男こそ、ブルネイの『最強』ファグル・アルマニアである。


「裏の人間でしょうか?」


審判らしき男もまた同じような服装で待機していた。


「可能性はあるが、裏だとしてもあそこまで昼間に歩き回るのは疑問に思ってしまうな」


「どちらにせよ、ファグル社長ならば、大丈夫でしょう」


「ラフマン、お前は俺を買い被り過ぎている。そんなに俺は万能な人間じゃないぞ」


「どの口が言うのやら......現にここまで二勝しているではありませんか。ファグル社長の実力は神のお墨付きですよ」


ラフマンは褒めに褒めまくる。


「ふん......試合もそうだが、仕事はきっちりやってもらわんと困るぞ。俺の会社が成長すれば、こんな戦争に用はなくなるのだから」


ファグルは眼鏡をクイッと上げる。

この男は先を見据えた上で『進世界』に参加していたのだ。


「本来、社長は会社に居て欲しかったんですがね」


「しょうがないだろう。ブルネイが俺を呼んでいたのだ。仕事の方もこっちでやればいいし、指示だってメールやらリモートやらでどうとでもなるさ」


(そういうことじゃないんだけど......はぁ、とにかくファグル社長は国の宝として重宝されるべき人間だ。IQだって一七〇以上ある。そういう意味でも会社に残って欲しかった)


ラフマンが拳を強く握った。


「......ラフマン、俺は万能ではないが、今回の試合は勝つと約束しておこう」


ファグルはラフマンの心を見透かすように言った。


「......分かりました!」


今回のバブエ・カルダットVSファグル・アルマニア。

この二人は凄惨な死闘を繰り広げることになるだろう......

勝つのは仏か? それとも、智か?


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