サイキョウの休息
シン世界が始まってから、一週間が経過していた。
轟道VSルウェット、グライVSシャルルを含め、二五もの戦争が行われていた。
一度闘った国は、『最強』の回復のため、すぐに対戦の予定を入れることは無い。
その期間は『最強たち』にとって、束の間の安息である。
最先端の医療技術により、彼らは僅か数日で日常生活が送れるほど回復していた。
------轟道たちは監獄内に併設されてある道場にいた。
上で話した安息はどこへやら......
木と木がぶつかり合う音が道場内に鳴り響く。
「おい、ルウェット。まだ、打ち込みは終わっておらんぞ」
轟道は竹刀の素材で造られた竹槍を握り、ルウェットを睨みつける。
この前、ルウェットが急に轟道へ弟子入りをしたため、その稽古である。
「俺は別に槍術を習いたいわけじゃねぇんだけどな......強くなる秘策っつーか、裏技的なもんっつーか、そういうのを知りたいわけで......」
青い道着を着たルウェットは竹槍を右手で持ち、余った左手で頭を掻きむしっている。
「それなら、まずは打ち込みだ!」
轟道は、まるで話を聞いていない。
「......これがショーワのパワーハラスメントってやつ?」
ルウェットがあからさまに困り顔をする。
「本当によく、戦闘が終わった少し後にこんなことが出来ますね......」
「傷とか開かないんですか?」
神橋とデンマークの審判は両方とも白色の道着だ。
「馬鹿言え、戦闘終わりにやらねぇと、逆に体が鈍っちまうぜ」
「じゃあ、打ち込み程度出来るよな?」
「勘弁してくれよ......いくら、真剣じゃないとはいえ、痛いもんは痛いんだぜ?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し......とりあえず、なるようになるということだ」
轟道が竹槍で攻撃を仕掛ける。
「絶対、そういう意味じゃねぇだろ!」
ルウェットは反応し、躱してみせる。
「今のは受けるところだろうが!」
「知らねぇよ! クソが!」
「ちょぉ、二人とも! 喧嘩STOP!」
神橋が体を挺して、止めに入る。
「そうですよ、こいつの言う通りです。そうだ。丁度昼頃ですし、美味しい店があるので、そこ行きましょう」
そして、デンマークの審判が場を収めた。
「「賛成だ」」
轟道とルウェットは息ピッタリだ。
------一方、シャルルたちの方では。
シャルルは誰かと待ち合わせをしていた。
そのシャルルはというと、白いシャツに黒いスベスベのズボンというシンプルの服装をする。
その誰かが来たようで、シャルルは顔を上げる。
「お、ようやく来たか。グライ!」
シャルルが待っていたのはグライであった。
「シャルル、おはよう! いや。こんにちは、かな......?」
グライは迷彩柄のパーカーと、同様の柄のダボッとしたズボンを着ており、照れくさいのか、人差し指で頬をなぞる。
「お前、試合の時とあんま変わってねぇな......服装が」
「なんか、迷彩柄じゃないと落ち着かないんだよね〜! もちろん、家具とかも全て迷彩にしてるよ」
「お前、それは......ちょっと、気持ち悪いぞ」
「うっ......そんな正直に言わなくても......!」
「まぁ、大丈夫だ! あともう少しでお前よりもっと変な奴が来るだろうさ」
そう、シャルルはグライの他にもう一人呼んでいたのだ。
「お、話をすればだ」
「よぉ! シャルル! ......と、グライか! おれはムウ・リーディだ! よろしく!」
元気良く手を伸ばしてきたのは、黒の短髪と濃い茶色の肌を持ち、黒色の胸ポケットの入った服とベージュの短パンを合わせる若い男。
服装がやけに子供っぽい。
「知ってもらえて嬉しいよ、よろしく! ムウ!」
思い切り、グライが手を掴んだ。
「よし! 全員集まったことだし、出掛けますか!」
「「おう!!!」」
三人は目的地に向かって、歩き出した。
「グライ、ムウはな。ブラジル『最強』なんだぜ」
「へぇ〜! そうなんだ! 戦闘スタイルは筋肉の付き方を見るに、ボクシングとかかな?」
「いや、おれのはブ......」
突如、ムウの言葉をシャルルが手で遮った。
「ん? ブ?」
「そうそう、ムウはブォクサーなんだよ!」
なぜか、シャルルは冷や汗をかいて、慌てふためいた。
「それが本場の喋り方ってやつか......」
グライは有り得ぬほど、純粋だった。
ブォクサーの違和感を気にせず、シャルルの言ったことを信じて疑わなかった。
「シャルル。なんで、邪魔するんだよ。別に言っていいじゃんか。グライも見た感じ悪い奴じゃないだろ?」
ムウがシャルルの耳元で小さく話す。
「お前は馬鹿か......! 敵になるかも知れない奴だぞ? 幾ら、親しくなろうともな、絶対に話すなよ?」
シャルルはグライの強さを体験している。
ここで実力が割れてしまえば、グライは一瞬にして、習得することだろう。
「お、おぉ......分かったよ」
ムウはその真剣さに気圧される。
「二人とも、なんの話してるの?」
「......ん......試合についての話かな......?」
ムウは目を泳がせながら、そう答える。
「あ、そうなんだ。で、どこと闘うんだい?」
「中国だよ」
「中国って言えば、これは上から聞いたことなんだが、殺しの一族が来てるらしいぞ。確か......載......一族だったかな?」
フランスの大統領の情報網により、シャルルは色々な『最強たち』のことを理解しているが、この載家に関しては情報が少なすぎた。
殺し屋一族としか分からないのが、現状である。
「へぇ〜、強そう」
「中国とかタイの殺し屋とか関係ないね! おれが絶対に勝つからさ!」
突如、ムウに宿るは、自分なら勝てるという自身と凄まじい精神であった。
だが、なぜか、嘘には聞こえない。
「タイは国じゃなくて、一族の名前なんだけど......あ、ムウ。前......」
そうシャルルが言いかけたと同時、
「ぶへっ......!」
ムウが盛大に電柱へ体をぶつけた。
------その夜、噂の中国チームでは。
試合場はもう完成している。
その場所は中国が誇る世界最大の城『万里の長城』。
「......あの、主席? この方はなにをしてるんですか?」
審判服を着た黒髪のが訊く。
「見て分からんかね。瞑想だよ。あぁそうか、君はまだ会ったこと無かったね、この『中国最強』に」
同じく黒髪で無精髭の生えたダンディな楊主席が真剣な表情で『中国最強』を見ている。
その『最強』は黒髪で赤い中国服を身に纏っている細身の若男であった。
そんな男が柔らかに目を閉じ、妙な手印を取りながら、あぐらをかいて座っている。
「えっ......!? この方が『最強』なんですか!?」
「ああ。今まで彼の姿を隠してすまんかった。出来る限り、リスクは避けたいと思ったんだ」
「じゃあ、これは戦闘前の準備ってことですか......?」
「察しが良いね、その通り」
「食事とか睡眠はどうするんですか? もちろん、取るとは思うんで......」
彼女の声を遮るように楊主席が.......
「いや、瞑想は如何なることがあろうと、中断しない。集中が途切れてしまうからな」
とんでもないことを言い出した。
「それってまずいんじゃ?」
「大丈夫だ。載 万祝は子供の頃から、戦闘の英才教育を受けている。これぐらいは朝飯前だろう」
「まぁ、確かに朝飯の前に闘いますもんね」
「そういう意味じゃないが......いいか」
楊主席は呆れたように、そう言った。
載一族のNo.2、『破壊僧』載 万祝。
その男に相対するは、ある界隈で『異界者』と呼ばれるムウ・リーディ。
どちらが勝つか、なんて、誰も分からない。
ただ、一つだけ言えることがある。
この闘いから、『進世界』の歯車は大きく動くことになるということだけだ。




