シン髄
ちょっと、この試合が盛り上がり過ぎたので、もう出してるものも話を変えない程度にいじろうと思います!
若き軍人グライ・シーサス。
シンガポールの最高戦力が一人だ。
若くして、そのような座に座れるのは言わば、天賦の才があるとしか言いようがない。
彼には最強の能力がある。
それは......最低でも五度見たり・経験したものは対応出来るというものだ。
地味だと思う人も少なくは無いだろう。
しかし、これほど強力で厄介な能力は他にない。
彼は五段階に分けて、相手の行動や攻撃を覚えていく。
大雑把に言うと、五度それを見たり、経験したりした場合、グライは対応出来るということだ。
(不規則に飛んでくるのなら......その不規則に対応すればいい)
そう、グライは対応し始めていた。
怪物が繰り返す特殊な連撃を。
「あれェ、当たらなくなったァ」
怪物は困惑の声を上げる。
グライは攻撃の全てをソードブレイカーで防いでいるが、怪物が武器を無理に凹凸へ合わせようとしないため、戦場ら泥沼に化していた。
そんな状態に堪えて、動いたのは......グライだ!
「今だぁ!」
グライが斬りつけの隙を見て、相手の左膝にローキック。
脚を壊すのが目的なのだろう。
しかし、そんなもので止まろうはずもない。
「フィナーレだァ」
怪物は後ろへ下がる途中、壊れた切っ先を拾い、グライに投げつけた。
グライは体を逸らして、それを回避する。
そのほんのわずかな隙を逃さず、怪物となったシャルルがグライの回避した位置に欠けた刃の突きを飛ばす!
(これは......!!!)
こうなれば、受けるしかない......
グライは両手で武器を抑え、防ぎにかかる。
狙っていたのか、突きはソードブレイカーの武器破壊のエリアに侵入する。
(破壊出来る!)
だが、突きと同時に怪物が闘技場の石を放っていた。
その石は空を斬る。
「ん?」
その時、グライは石に気を取られ、武器を壊すのが一瞬遅れた。
その一瞬の遅れは試合において、致命的になる。
パキィィィン。
金属音が鳥の鳴き声のように広く鳴り響いた。
止まることを知らぬ刺突がソードブレイカーを砕いたのだ。
ソードブレイカーは武器破壊という名目で刃部分を削っており、防御力に関してはどの武器よりも低い。
「くっ......!」
自身の相棒とも言える武器を破壊した刺突が、グライを襲う。
(今だ!)
グライは胸に届く已の所でサーベル剣の刀身を掴み、手が斬られる感覚に表情を少し引き攣らせながら、腕を引いた。
「ん?」
そうすれば、怪物は前のめりになる。
「ほいさ」
グライが流れるような動きで横蹴りを放つ。
(これは受け......いや.......!)
急にグライの蹴りの勢いがますます、強まったのだ。
(引っかかった!)
怪物の黒い顔が驚愕する。
それもそのはず......
「君の得意なブラフさ!」
グライが放ったのは、ローキックではなかったのだから。
その正体は序盤に使った空気の爆ぜる『ムエタイの蹴り』である。
怪物は体を後退させようとするも、それより前にグライの蹴撃が腹に炸裂する。
「グオオッ......!」
怪物が吹き飛ぶ。
それは彼にとって、絶好のタイミングだった。
しかし......グライはピクリとも動かない。
さっきのように情を優先させたのか?
それとも、ダメージが深すぎたのか?
いや、違う。
グライの中でなにかが育ち始めていた。
(なんとなく、感覚が分かってきたな、こうか......!)
そして、グライは両手の人差し指と中指を突き立て、低い姿勢を取った。
中国発祥である蟷螂拳の構えだ。
「君のおかげで完成したよ」
グライが出すは、静かな声。
「ダブルピースがか?」
怪物がのそりと近寄ろうとする。
だが、瞬きした瞬間に、グライの二本指が胸を貫いていた!
(なにっ!? これはまるで......!)
咄嗟に怪物が後ろへ下がる。
その胸からは血が滴っている。
これが、『合獣』グライの真髄なのだ。
放たれた技に対応するだけでなく、その動作が繰り返されることでグライの脳内で構想が練り上げられ、結果、相手の技の実現に至るのだ。
つまり、グライが使ったのは、シャルルとの戦闘で練り上げられた、蟷螂拳に似たなにか。
それはフェンシング流の拳法......『フェンシング拳』とでも言うべきだろうか。
(ただ、一撃の速度はシャルルより遥かに遅いかな.......)
そう考えながら、怪物へ突撃を仕掛ける。
そして、間合いに入った瞬間、フェンシング拳が怪物を襲った。
「おらァァァ!」
怪物がそのいくつかを防いでいるが、高速で連続する突きに対応出来るはずもなく......怪物は一方的に痛めつけられる。
突如、形勢逆転を狙った怪物の神速の突き。
「それは見た」
しかし、グライがそれを潜り抜け、フェンシング拳でみぞおちを突き刺す。
「クソォォォ!」
それでも、怪物の闘志は消えず、放ち終わりの隙にグライの腹を横に斬る。
双方は血を垂らしながら、後退する。
「ねぇ。こんなこと、そろそろやめにしない?」
グライがそう提案した。
「なにを......!」
「勝つためとはいえ、君の前でフェンシング拳を開発し、しかも、それを使ってしまった。正直言って、気分は良くないね。それは君も同様だろう? だから、本当の姿で闘おうよ!」
この提案はグライにとって、不利でしかない。
一つ、彼はフェンシング拳という新たな武器を手に入れたのにも関わらず、それを捨てるとなれば手数が限られるから。
二つ、グライの方が圧倒的にダメージが大きいから。
逃げ回れば、勝ちを掴めることだろう。
はっきり言うなら、この提案、相手は乗る必要がない。
しかし......
「面白そうだァ」
その時、怪物のどす黒いオーラが一瞬にして消えた。
「はっはっはっ、俺は完全な怪物にすらなれやしないのか」
シャルルの表情はどこか、爽やかだ。
「おかえり、シャルル」
こちらも爽やかな顔で対抗する。
「悔いのないよう全てを使って来るといいさ。当然、俺は使うがな!」
シャルルはいつもの突きの構えを取る。
「全て......か。じゃあ、これはどうかな?」
意味ありげに言ったものの、グライが取ったのは大地を踏み締めた単純な突進。
「正面から撃ち合おうか!」
瞬間、シャルルが突きの大雨。
グライの傷の数なら、一撃貰うだけでも、致命傷だ。
(全部受ける!!!)
それでもグライは止まらない。
一秒も経たぬうちに、グライの至る所に穴が空く。
しかし、気が付くと、拳の間合いだ。
(ここなら、突きは使えない!)
そんなこと関係なしに、グライが強烈な肘を放つ。
「お前なら、そう来ると思っていたぜ!」
肘が届くギリギリのラインまで、グライを極限まで引きつける。
そして、その肘を掻い潜ると、
「これが......最後の一撃だぁぁぁぁぁ!」
シャルルとして、人生初の袈裟斬りの銀閃!!!
その袈裟斬りは刀身が曲がるようにして急加速し、それは正確にグライの胸を捉える。
(織り込み済みさ! ここで回避を......!)
グライは華麗なバックステップでシャルルの最後の一撃を躱す......
はずだった。
グライは血を失い過ぎた。
それに伴うショックで力が入らず、脚が動かないのだ。
これは予測出来ようはずもない、自身の体からの不意打ち。
為す術なく、そのまま、グライの胸にサーベル剣が振り落とされる。
その傷は決して、浅くない。
グライが血を撒き散らしながら、仰向けで倒れていく。
こんなの、誰が見ても、勝敗は明白だ。
だが!
グライは、まだ諦めていない!
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
地面に体が付くよりも速く、下に右腕を滑り込ませると、雄叫びを上げながら、その圧倒的な腕力だけで体を起き上がらせた。
脚はとうに限界だ。
しかし、それでも、生まれたての子鹿のように震わせながら、気合いで踏ん張った。
(なんて奴だよ......お前は!?)
シャルルは防御しようとするが、グライの覇気に萎縮し、上手く構えられていない。
(最強の武器なんて古代から決まってるんだ......!)
「単純な力だぁぁぁぁぁ!」
そして、グライは残った左腕を隆起させ、強烈なラリアットを繰り出す。
これがグライ、決死の一撃である!!!
彼の腕はサーベル剣をいとも容易く粉々にして、シャルルへ牙を向ける。
「やべ......!」
想定外。
グライが起き上がること、技を繰り出すこと、そして、その技で武器を破壊されることも。
その全てがシャルルにとっては、想定外。
こうなれば、運命に身を委ねるしか......ない。
シャルルがその武器をも砕いた一撃を防御無しに胴体で受ける。
すると、シャルルは力だけで地面に叩きつけられた。
その破壊力は半端なく、闘技場に叩きつけられたことによって、闘技場の石版が抉れるように割れた。
「かはぁっ......」
叩きつけられた衝撃でシャルルは意識が飛びかける。
「はぁ......はぁ......」
グライの呼吸が荒くなる。
「グライ、流石だよ......悔しいが......お前の勝利だ!」
シャルルは悔しいと言っていたが、内心はそこまで悔しくなかった。
なぜか、妙な達成感が全身に伝ってくるのだ。
負けたのに......だ。
「そうか......なら、願いを一つ聞いて貰っていいかな?」
絞り出した声はとても弱々しい。
「なんでもいいさ、鉱石でも、資源でもな。負けた方の宿命だろ......?」
「じゃあ......ボクと友達になってくれない?」
グライが眩しいほどに微笑みかけ、シャルルへ手を差し伸べた。
「は......? 本当に変な奴だな。お前は」
そう、シャルルも笑って見せた。
そして、何も言わずにグライの手を握る。
「そりゃ、嬉しい......な」
限界の限界まで闘ったグライの意識が途切れる。
グライは倒れようとしていた。
「これじゃ、どっちが勝者か分からないや」
しかし、手を握ったシャルルがグライの体を支える。
すると、シャルルは審判のジェニーの方を見た。
「この試合、グライの勝ちにしておいてくれない? 俺の降参ってことでいいからさ」
そう言うと、シャルルは医療班がいるであろう入口まで、グライを肩に乗せて、運びに行った。
(良い友を持ったじゃねぇか、グライ)
「勝者......シンガポール『最強』! グライ・シーサス!」
ジェニーがバッと手を挙げる。
この掛け声により、二人の長い死闘は終わった。




