カイ物
「俺も本気を出そう。次に出すのは、最大出力だ......」
シャルルが轟道たちの放つものと同等のオーラを出す。
俺も『最強』なのだ。
と、シャルルが強く主張しているように思えた。
「最大だろうが、最低だろうが......ボクには関係ないね」
グライはあの刺突が発生するまで、じっと目を凝らしている。
「ふざけるな、お前は認識することすら出来ない」
直後、シャルルが腕を突き出し、剣を加速させる。
その攻撃は速すぎるあまり、一本の線に見えるほどだ。
彼の人生の全てを捧げているのだろう。
しかし......
(これでもギリか......!)
超集中状態のグライが決死の突きを潜り抜ける。
まるで、グライがすり抜けたかのようだった。
「なっ!!!」
シャルルが咄嗟に体を後ろに引く。
だが、一手遅かった......
「おらァァァ!」
グライの繰り出した崩拳がシャルルの土手っ腹を穿っていた。
「グァァァァ!」
シャルルは血反吐を吐きながら、後方へ吹き飛ばされ、そのまま、バランスを崩して倒れる。
その威力故か、まともに呼吸が出来ない。
そんなの、狙って下さいと言ってるようなものだ......が、グライはシャルルを待っていた。
今狙えば、確実に勝てるという時に......だ。
「グライ!!! なぜだ!!! なんで、今攻撃しない!?」
ジェニーが審判という立場を無視し、大声で問いかける。
「ジェニー。ボクがしたいのはイジメのような一方的な闘いじゃない。互いにリスペクトし合って、そして、限界まで諦めずにやる闘いだ。とにかく、こういうのは公平で行きたい!」
命の取り合いの最中でも、グライはこんなことを言ってのけた。
「グライ......全く、お前ってやつぁ......変な野郎だぜ」
ジェニーは笑みを浮かべて、シャルルの方を見た。
シャルルはグライたちが待っている中、ゆっくりと立ち上がる。
「なんだ......待ってくれたのか......だけど、これほど嫌味なことは......ないね」
まだ呼吸が安定しないのか、言葉が所々、吃っている。
それでも、闘いをやめようとしない。
シャルルが安定するまで、グライは待ちに待った。
「そろそろ、決着だなぁ!」
そして、ある時、シャルルがサーベル剣を構える。
ようやく、回復したようだ。
「じゃあ、一気に決めようか! 君に敬意を表して、奥の手を使おう!」
グライは今までずっと隠し持っていた武器入れから、特殊で大きな凹凸が付いているナイフを取り出した。
この武器は『ソードブレイカー』。
単純な戦闘では向かないものの、武器破壊という一点においては特化されている。
特にシャルルの武器とは相性が良い。
ジェニーはそれを考慮して、出せば一瞬にしてカタがつくと考えていた。
「そりゃあ、嬉しいなぁ! 俺も遠慮なく、最後の一撃が放てる!!!」
シャルルはいつも以上の力で剣を握る。
先程、最大出力で攻撃をしていたが、人っていうのは崖っぷちになっている時こそ、力が出るもの。
つまり、これが最大の最大出力!!!
「終わりだァァァ!」
シャルルが大地を踏み抜くと、風......いや、空間を斬り裂くような刺突の一閃を走らせる。
「来てみな!!!」
グライは一歩も動かない。
ソードブレイカーで防ぐ気だ。
一瞬という間もなく、二つの刃が衝突する!!!
「おらぁぁぁぁ!!!」
「がァァァァァ!!!」
二人は火花を散らし、信念と信念をぶつけ合う。
どちらが勝ってもおかしくはない。
だが、悲しくも、その決着は......すぐに付いた。
闘技場に破壊された一つの金属が落ちる。
それは......サーベル剣の切っ先だ。
同時、シャルルの胸が斜めに斬り上げられた。
「かぁぁぁ......」
シャルルが前に倒れる。
そして、意識が消失した。
「はぁ......はぁ......シャルル、君は強かった」
息を斬らしながら、グライが賞賛する。
(すげぇ......! グライがあのシャルルを倒したぞ!!!)
とはいえ、ジェニーは審判だ。
仕事を果たすため、シャルルのもとへ行き、軽い検査をした。
すると、突然、ジェニーの顔が真っ青になる。
それもそのはず。
「まだだァ......」
気絶したはずのシャルルがボロボロの体をぬるりと起こし、戦闘態勢を取る。
「まだやれるぞォ」
だが、そのシャルルは別人に変わっていた。
オーラが闇のように真っ暗で恐怖を覚えるほどになっており、風貌はと言うと、顔にもオーラが包まれ、地獄から這い出た『怪物』に見えた。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ」
恐怖に呑み込まれたジェニーが猛スピードで逃げる。
「君はシャルル......なのかな?」
グライは優しい声で彼に話しかける。
急に起き上がったとはいえ、シャルルの体はまともに動かないはず......
グライはそう考えていたが、見誤った......
その思考を掻き消すように、シャルルがグライを斬りつけた。
グライは油断し、一刀貰う。
(んっ!? 速度が......上がった?)
これはグライの見間違えではない。
明らかに攻撃スピードが上昇していたのだ。
「グライ・シーサスゥ、こんなもんかァ?」
喋り方も変わっているのか、どこかねっとりとしている。
「こりゃ手厳しいね!」
(あのシャルルが斬り? 絶対に有り得ない......)
グライは静かに分析をしていた。
「二度目はどうかなァ」
突如、シャルル?が先とは比にならないほどの速度で剣閃!
グライも相当ボロボロだ。
こんな状況で躱せるばすもない。
シャルル?はサーベル剣を縦横無尽に振るい、グライへ斬撃を八つ放つ。
ソードブレイカーで五つ分も弾き落としたものの、三つは防ぎ斬れず、残った三閃が肉を裂いた。
「なにっ......!」
(速い......けど、その分、荒いところがある)
それでも、グライは集中を斬らさない。
「突きしか出来ないと思ったかァ? 違うんだよなァ、『サーブル』には『突き』ともう一つ......『斬り』が許されてるんだァ」
シャルル?の狙いはそこにあった。
ルールなどを知っている場合でも、突きに意識を行かせることによって、斬撃の警戒心を無くす......というものだ。
とはいえ、本来のシャルルならば、絶対に突きしか行わない。
何故なら、どんな相手も一突きで倒してきたからだ。
斬りというのを試合でやったことは一度もない。
だが、この戦闘者として別次元にいるシャルル。
こいつは斬りに慣れているように思えた。
「ふんっ!」
グライは一気に間合いに入ると、シャルル?を斬りつけようとする。
すぐに反応し、シャルル?が斬り合いにもつれ込むと、蝶のように華麗な、そして、蜂のように凶暴な斬撃の嵐を繰り出す。
手数なら、武器が軽いグライが勝る。
大抵はシャルル?の方から血飛沫が舞うものの、シャルル?の隙間を掻い潜った斬撃によりグライからも血の雨だ。
「やっぱり、才能で言うなら、君はボクよりも圧倒的に上だ。だからこそ、なんだろうね」
グライは攻撃と防御を繰り返しながら、そう言う。
「なんだァ?」
激しい攻防の中でも喋りがねっとりしている。
「戦士としての人格が芽生えているのは!」
この短時間でシャルル?の謎を分析していた。
彼は無意識に自分の力を抑えていた。
観客が見ている中で本気を出せば、上がるのは賞賛の声ではなく、恐怖の声だ。
それをシャルルは理解していた。
そうしていくうちに自身の中にいる戦士という人格......つまり、もっと強くなろうとする自分を抑圧していたのだ。
しかし、この闘いによって抑えられ過ぎた人格が暴発することになった。
それが今の彼である。
「お前、訳の分からないことを言ってるんじゃねぇぞォ?」
シャルル......改め、怪物は勝負を決めにかかる。
怪物の斬撃は突きの勢いを利用したため、グライの
ナイフよりも速かった。
元からグライは傷だらけだったのに、そこから更に傷口が増えに増えまくる。
ソードブレイカーが無ければ、もう死んでいる。
(くっ......斬撃を対応したいのに......! 不規則な軌道で攻撃してくる!)
グライの目の良さは異次元だ。
それを経験している怪物にとっては、邪魔で仕方がない。
ならば、対応させなければいい......
「いよいよ、詰みかァ!?」
怪物がペースを上げる。
「.......」
グライは血を闘技場に散らしながらも、目は先を見据えていた......




