第四章 九 『忘れてた…』
九
(そういえば、三人兄弟の亜佐美も一番下の弟は、特に可愛がっていたな……。)
弟繋がりで親友の亜佐美のことを思い出す沢崎直。ただ、亜佐美の可愛がり方は少々クセがあった。彼女にとっては存分に可愛がっているつもりでいたが、弟がそう受け取っていたかは不明だ。だが、えてして姉とはそういう存在なのかもしれない。
一人っ子の沢崎直が兄弟というものに思いを馳せていたが、そこで何かを思い出しそうになった。
(……何か忘れてるような……。)
だが、何かは上手く思い出せない。
思い出せないことの代わりに親友のことを思い出した沢崎直は、ついでにヴィルに尋ねてみる。
「ヴィルは、甘いモノよりも辛い物が好きですか?」
親友の亜佐美は激辛好きだった。
沢崎直も辛いものが苦手というわけではないので、一緒に辛い物を食べに行ったものだ。
もちろん、激辛へのチャレンジ精神豊富な亜佐美よりも、辛さは控えめのメニューを頼んではいたが……。
「そうですね。どちらかというと、そうかもしれません。」
ヴィルは微笑み、そう答えた。
沢崎直は心のメモ帳にしっかりとその情報を書き込んだ。
それからは、広場に流れる賑やかで穏やかな時間を感じながら、沢崎直はヴィルに買ってもらった飴を味わう。
ヴィルは沢崎直を急かせることはなく、飴を齧る沢崎直の傍らにいる時間を楽しんでいるように見えた。
二人の間に幸せな時間が流れていく。
そして、沢崎直が飴を食べ終わった頃を見計らって、ヴィルが尋ねてきた。
「そろそろロバート様への贈り物を探しに行かれますか?」
「っ!?は、はい!」
(しまったぁぁぁぁ!完全に忘れてたぁぁぁ!)
沢崎直は街に来た当初の目的を完全に失念していた。
「ロ、ロバート兄さんは、甘い物が好きですか?辛い物が好きですか?」
当初の目的を失念していたことを気づかれないように、会話を続ける沢崎直。
ヴィルとの街歩きが楽しすぎて、ロバート兄さんへのお土産を買うという目的を忘れていたことがバレては何だか居た堪れない。
ヴィルは、そこには触れずに沢崎直の質問に真摯に答えてくれる。
「甘い物よりは辛い物の方がお好きかと思われます。」
「……辛い物か……。だったら、お酒とかも好きですか?」
親友の亜佐美は辛党の酒豪だった。辛党の人間は沢崎直の個人的な統計的に酒豪の傾向がある。そう思い、尋ねてみる。
ヴィルは笑顔で頷く。
「はい。よく嗜まれます。」
その言葉で、沢崎直の心は決まる。
酒豪の人間へのお土産は酒に限る。それ以上のものはない。
(……あとは、酒の肴とか……?)
方針を決めてお土産を考え始めた沢崎直に、ヴィルが提案する。
「では、酒屋に参りましょうか?」
「はい、お願いします。」
一行は街の散策からお土産探しに目的を変更して、今度は大きな商店の並ぶ通りへと向かい歩き出した。
街は昼下がりから夕刻へと傾き始めた日差しを浴びて、更に活力を帯び始める。
街中に響く呼び込みや子供たちの笑い声が、この場所の穏やかさと平和さを表しているようだった。




