第四章 四 『彼方よりの手紙』
四
「……ロバート兄さん。」
前回のグスタフ医師の来訪時より続けている情報収集(記憶を取り戻そう思い出歓談会)の時にまとめたメモ用紙を見返すと、確かにそこにはアルバート氏の家族構成が書いてあった。
(……兄二人で、末っ子の三男坊か……。私は一人っ子だったから、あんまり兄弟ってよく分かんないんだよね……。)
執事のリヒターが置いていった手紙はしっかりと封蝋がしてあり、そこに刻まれていたのは、アルバートが唯一身に着けていた自らの身分を示す首飾りの意匠と同じであった。
とりあえず開けて、中を確認する。
「親愛なるアルバートへ……。」
次兄のロバートからの手紙の内容を要約すると、アルバート帰還の報を聞き、一刻も早くアルバートの元へ駆けつけたいという感じである。あとは、心配だとか、体調はどうだとか、簡潔な文面ながらもアルバートを心配し大切に思っていることが十分に伝わる愛に溢れた内容であった。
手紙に目を通した後、沢崎直は従者のヴィルへと質問する。
「あの、ロバート兄さん?とは仲良しなのですか?」
質問の意図が明確なようでいて不明瞭な質問ではあるが、ヴィルはちゃんと真意を組んで答えてくれる。
「ロバート様とアルバート様は、実に仲の良いご兄弟です。もちろん、一番上の兄君であられるマクシミリアン様も、お二人のことを大切に思っておられます。」
(次兄、長兄共に仲はいいのか……。アルバート氏は末っ子だから、可愛がられてたんだよね、多分……。)
手紙の文面や、ヴィルの説明から沢崎直には、仲良し兄弟の様子が想像された。
(……一年も失踪して行方不明だった可愛い末っ子が見つかったなら、会いに来たくなるもんか……。)
「駆けつけたいって書いてあるんですけど……、兄さんはいらっしゃいますか?」
「あの方はいらっしゃいますよ、近いうちに。すぐに来られないのであれば、その旨を手紙にしたためられます。」
今、確認した手紙には、そんなことは一言も書いていなかった。
(……ということは、そのうち次兄と会うことになるのか……。)
そう思った沢崎直だったが、すぐに一つの可能性が心の中で頭をもたげた。
(……えっ?待って?そんなに仲良しだったら、記憶喪失じゃなくて、中身が別人だってバレたりする?それって、拙いんじゃない?)
今まで何とかこの異世界でアルバート氏として過ごしてきた沢崎直だが、またしてもピンチの予感である。
(大事な末の弟の身体に別人が不法占拠してるってなったら、袋叩きとかにあったりしないよね?いや、まあ身体はアルバート氏だから、物理的には袋叩きはしないか……。でも、待って。魔法的な、何か精神攻撃的な袋叩きとかってあるの?)
一度、気になり始めたら、全てが気になって脳内があらゆるピンチの可能性で占められてしまう。ただでさえ異世界は沢崎直にとって未知の世界だ。過去に見たファンタジーの知識を総動員して、あらゆる最悪の事態を想像してしまう。
手紙を握り締めたまま、沢崎直は固まっている。脳内は想像力がフル稼働しているせいで外界の情報が遮断されていた。
だから、沢崎直は気づかなかった。
目の前にいた従者のヴィルの美しい紫の双眸が一瞬翳っていたことを……。
それは、本当に刹那の事だったので、思考の波からようやく引き戻された沢崎直にはその余韻すら捉えることは無理であった。
優秀な従者は、主人を煩わせるようなことはしない。
それが、たとえどんなことだったとしても……。




