第三章 二十七 『盛り上がらないお茶会』
二十七
応接室に到着した煌びやかな一行。
その中にありながら、沢崎直は何だか疎外感を感じていた。
イケメンでありながらモブ女であるという負い目のせいか、はたまた本当の婚約者でも男でもない魂のせいか……。
とにかくこの集いを一刻も早く切り上げたくて仕方なかった。
(……心配してきてくれたこのご令嬢には悪いけど……。)
ホストとして客をもてなす立場であるのは重々承知ではあるが、ご令嬢のもてなし方など全く分からなかったし、何より向こうはこちらを知っていて、こちらは向こうを全く知らないという世にも不可思議な状況である。せめてこちらが客でもてなされる側だったら、状況はもう少し違っていたし、沢崎直の心持ちも変化していたはずだ。
もし沢崎直の気持ちだけで決めていいなら、今頃体調不良を理由に追い返していてもおかしくはない。けれど、悲しいかな、沢崎直は真面目だ。どんなに迷惑な状況でも客である以上、もてなしてしまう悲しい性に振り回されてしまっていた。そのため、どれだけ心で思っていても早く帰ってくれとは口が裂けても言えない。京都的な婉曲な言い回しでも無理だ。
今の状況は沢崎直にとっては、迷惑極まりない急な来客と言っても過言ではない。沢崎直が身体の持ち主のアルバート氏に気を遣っていて、ご令嬢が婚約者を心配するのは尤もだと共感したから、一応もてなしているだけだ。
そのためどうしても口は重くなる。
目の前に出されたお茶をすすりながら、会話の糸口を探してみるが、あまりうまく行かず気まずい時間だけが流れていく。
「あ、あのー……。美味しいですか?」
「はい。リヒターの淹れるお茶はいつも素晴らしいですね。」
ご令嬢は会話の盛り上げには協力してくれない。ただ、何か話しかければ微笑みながら淡々と返してくれるだけだ。
(……何か気詰まりだな……。やっぱり、この美人と結婚生活なんて考えられないよ……。)
美人過ぎる婚約者は完璧な身上書までお持ちなのだろうが、沢崎直が目指したい結婚生活の理想とはかけ離れている人材のようだった。この美人との未来を想像して、沢崎直の気はより重くなる。
気が重くなる一方の状況に、何とか好材料を探したくて、沢崎直は目の前に座る美女を観察し始めた。
メイドさんのウワサ話にあった通り、明らかに肖像画より美しい。その輝かしい功績は分からないけれど、全く隙のない振る舞いは侯爵令嬢としての日頃の教育と鍛錬のたまものなのだろう。
(こういうのって、女子力高いのかな?あんまりにも近づき難いんだけど……。)
ウワサ話を聞いていた段階では、もう少し親しみやすさがあったり、あざとさのようなものとかもあるのかと思っていたが、何だか凄すぎてよく分からない。だが、この世界の基準における女子力の判断材料が良妻賢母であることに尽きるのだったら、これは女子力の理想形が服を着て歩いているようなものなのだろう。
結局、こちらの世界に転生したところで、『女子力』という曖昧模糊とした力については何も分からないままだ。まあ分かったところで、イケメンになっている現在の沢崎直に必要な力なのかもわからないが……。
(……聖女様か……。)
せめて、分かりやすく口の端にでもクッキーの欠片を付けてくれていた方が、沢崎直にとっては距離を縮めやすかった。
例えそれが、故意による可愛さを演出しようとしたものであってもである。
ただ、出来れば天然でクッキーが付いちゃう方が、沢崎直の心に安寧をもたらしてくれただろう。
しかし、眼前の婚約者様は、楽しいんだが楽しくないんだかすら分からない微笑みを湛えたまま、クッキーすら召し上がらずにお茶で口を湿らせているようだ。
(全く同じ人間に思えん……。)
婚約者に抱く感想ではない感想を抱いた沢崎直は、誰にも気づかれぬようにこっそりと溜息を吐くのだった。




