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転生したらついてましたアアアアア!!!  作者: 夢追子(@電子コミック配信中)
第三章 『SUR(スーパーウルトラレア)級モンスター 女子力の化身、襲来‼』

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第三章 十五 『異世界の常識』

     十五


「ですが、奇妙なことに、発見した時にはワイルドベアーは何者かに倒された後だったのです。」

 怖い話のオチのように、たっぷりとした間を取って告げられる事実。

(……ああ、うん。そっかぁ。)

 沢崎直は心の中だけで納得していた。

 そんな沢崎直の心中も知らず、騎士の人は続ける。

「それも、奇妙なのはそれだけではないのです。ワイルドベアーは確かに倒されているのですが、何というか倒された状況が理解不能なのです。剣ならば太刀傷が残るでしょうし、魔法ならば何かしらの魔力の痕跡が残るはずです。ですが、あのワイルドベアーからは、そのような痕跡が見つからなかったのです。」

「そ、そうなんですか?」

(……何か、おかしいのかな?この異世界の常識が分からないから、何とも言えないけど……。何か言った方がいいのかな?)

 内心の焦りを隠し、騎士の人に話を合わせる沢崎直。

「他に何か痕跡はなかったのですか?別の魔物がいたなどということは?」

 ずっと傍に控え、沈黙を通していたヴィルが口を開いた。

 騎士の人は、唸りながら続けた。

「いえ、別の魔物の痕跡はありませんでした。いや、だからこそ奇妙なのです。……何と説明したらいいか……。俄かには信じられないことですが、体術のような痕跡があったことにはあったのです。いや、といっても、そうとしか考えられないと言うだけで、本当のところは分かっていないのですが。しかし、そうなると……。あのワイルドベアーを、魔法ではなく武器でもなく、素手で倒した何者かがいるということになりかねません。そんなことは可能でしょうか?」

「………。」

 質問を向けられ、ヴィルは考え込むようにして黙り込んだ。

 その反応に勢いづけられるようにして、騎士の人は畳みかける。

「そもそもワイルドベアーは、騎士が束になっても倒せるかどうかわからないほどの強敵です。それを、素手で?正気の沙汰とは思えません。」

(………そ、そうなの?)

 沢崎直は、ものすごく不安になっていた。

(この異世界にも体術とか、格闘技とかあるはずでしょ?体術専門のモンク的な修行僧とかって、いないの?力自慢の格闘家とか!?)

「そこで、ワイルドベアーと対峙していた場にいらした貴方に、詳しいことをお聞きしたいと参りました。どうですか?何かほんの些細なことでもいいのです。覚えていらっしゃいませんか?心当たりのようなものは?」

 異世界の常識が分からない以上、余計なことを口にしたらマズイ。

 沢崎直の本能が、危機を知らせている。真実を告げた際に訪れるであろう状況は、必ずしも沢崎直に優位に働くとは限らない。それどころか絶対にヤバそうな匂いしかしないので、沢崎直は記憶喪失を前面に押し出した。

「そ、そう言われても……。記憶が、曖昧で……。」

「何でもいいのです。」

 だが、騎士の人も簡単に諦めてくれそうにない。職務的にも状況的にも、理解不能で詳細不明という結論は受け入れ難く、すぐに諦められるものでもないのだろう。

 しかし、沢崎直的にはこれ以上のことを口に出すことは躊躇われる。いや、躊躇われるというか、自分の身に何も不都合がないと確信できるまでは絶対に言いたくない。モブ女は知っているのだ。出る杭は打たれるということを。妙な目立ち方をして叩かれた人間を傍観者として数多く見てきた経験が、沢崎直の口を堅く重くしていた。出来ることを素直に表に出して、無条件に褒められるのは子供の頃だけなのだ。

(……いや、子供でも鼻につくと嫌われるし怒られる。)

 変に悪目立ちしないように周りに溶け込み、周囲から浮かないように常に空気を読むというモブに必要なスキルを二十五年の人生でしっかりと身に着けた沢崎直は、しらを切り通しこの場を逃げ切ることに全力を注ぐことを決めた。

 この場で逃げ切るための自分の手持ちの武器は記憶喪失であるということ。だが、それをただ主張するだけでは弱い。

 そこで、沢崎直は違う手を繰り出すことにした。

「あ、あのっ!私と一緒にいたご令嬢は、何かおっしゃっていませんでしたか?」

「ハンプシャー伯爵家の御令嬢ですか?」

「は、はい!」

 騎士の人は沢崎直が会話中に撒いた疑似餌に、しっかりと反応してくれる。

「それが……。あの方も、何も見ていないと……。」

「そ、そうなんですか?」

 脳内をフル回転させて会話を表面上取り繕いながら、沢崎直は口を開き続ける。

 不毛なだけの曖昧な会話しか続けられないのは心苦しいが、こちらにもこちらの切羽詰った事情がある。ただでさえこちらは見知らぬイケメン貴公子になって日も浅く、まだ異世界に全く溶け込めていないというのに、これ以上の面倒事はもう懲り懲りだった。

(ごめんなさい。騎士の人。これ以上は、言えません。)

 哀れな転生者沢崎直には、最後に残った良心で、心の中で全力の謝罪を職務に忠実な騎士の人に向けることしかできなかった。


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