第三章 十四 『騎士の来訪』
十四
室内に一人残された沢崎直。
誰もいなくなった室内で、沢崎直がようやく自我を取り戻したのは騎士団の責任者の人がやって来る直前だった。
コンコン
「失礼いたします。アルバート様。騎士団の方をお連れしました。」
「あっ、はい。」
ノックの音とともに、超絶イケメン改めヴィルの声が響く。
素早く深呼吸を繰り返して意識を整えると、お客様を迎えるために沢崎直は立ち上がり扉の方角に身体を向けた。
すぐに扉は外から開かれる。
扉の向こうには、ヴィルと責任者の騎士の人が並んでいた。
騎士の人の派手ではないが実直そうな顔を観察しながら、沢崎直は先日の詰め所での記憶を掘り起こす。
「ようこそ、いらっしゃいました。」
出迎えの挨拶を口にして、握手をするための手を差し出す。
「先日は本当にお世話になりました。まだ先日のお礼にも伺えず申し訳ございません。」
責任者の騎士の人は、その手を友好的に握りながら微笑んだ。
「いえいえ。そのようにお気を遣わずとも大丈夫ですよ。困っている方を助けるのは、騎士として当然のことです。それよりも、お加減の方は如何ですか?見たところはお元気そうですが……。」
大人同士の社交辞令として完璧な会話を交わしながら、沢崎直と責任者の騎士の人は握手を交わして微笑み合う。本音はどうだとしても、ちゃんと建前で話が出来るというのは大人として大切なことだ。
沢崎直は会社員時代に身に着けた社交マナーが、ちゃんとこの異世界でも役立ちそうなことにほっとしていた。
「どうぞ、お掛け下さい。」
椅子を勧めながら、ホストとして出迎える。
責任者の騎士の人が椅子に座る頃には、執事のリヒターがお茶を用意して室内にやってきていた。
沢崎直がソファに座ると、ヴィルは定位置のように沢崎直の後ろに立ったまま控える。
テーブルの上に、応接セットが並べ終えられたところで、沢崎直はしっかりと客である責任者の騎士の人に向き合った。
「本日は、どのようなご用件ですか?至急の用と伺ったのですが……。」
「ああ、はい。先日のことで、少しお尋ねしたいことがございまして。」
時間を無駄にせず、騎士の人は口を開く。
沢崎直は先を促した。
「私に答えられることでしたら。」
「では。」
お茶を一口含み、喉を潤すと、すぐに騎士の人は話題を切り出した。
「森の中で、ワイルドベアーに遭遇されたんですよね?」
「はい。」
「その時の状況を、詳しく教えていただいてもよろしいですか?」
(どうしようかな……?)
この騎士の人にはかなりお世話になったので、出来るだけ協力したいとは思っているのだが、本当に全てをありのまま話してもいいのだろうか?
沢崎直の心に一抹の不安がよぎった。
(何か、ふわっとさせといた方がいい気がするんだけど……。)
言葉を慎重に選びながら、口先で濁すことに沢崎直は方針を決めた。
「えーっと、そう言われても……。記憶がないので……。何と答えたらいいか?……あっ、そういえば、あのワイルドベアーはどうなったんですか?」
困惑した態度を取りながら、巧みに話題もすり替えてみる。
騎士の人は、沢崎直の言葉に特に不信感も抱かずに、質問に答えてくれた。
「実はですね。こちらに伺ったのは、そのワイルドベアーのことが原因なんです。」
「原因ですか?」
「はい。あの後、騎士団総出で森を警戒していたのですが、森の奥でワイルドベアーを発見しました。」
(あっ、あのクマさん、いたんだ。)
沢崎直は森の中で遭遇したワイルドベアーの姿を思い出していた。
騎士の人は、そこで重要なことを言うために一度、言葉を切って間を取った。
「ですが、奇妙なことに、発見した時にはワイルドベアーは何者かに倒された後だったのです。」




