第三章 六 『食事』
六
「どうぞ、お召し上がりください。」
一頻り笑った後、笑顔になったメイドさんはテキパキと沢崎直の前に美味しそうな料理を並べてくれた。
超絶イケメンの言葉通り、料理は凝った作りではなく食べやすさを重視したもののようだった。この異世界での食事マナーはよく分からないが、あまりにも空腹だったことを思い出した沢崎直は料理に突撃するように食べ始めた。
「いただきます。」
食べ始めると、メイドさんはすぐに飲み物を注いでくれる。
食材も料理も、前の世界とそこまで変わっている物はなく、味も沢崎直の口に合わないものではなかった。
空腹でいると気分が沈む。お腹を満たせば気分も上を向きはじめる。
美味しい料理に舌鼓を打つ沢崎直の顔には笑顔が戻り始め、心も少しだけ軽くなっていた。
「ごちそうさまでした。」
腹の虫を納得させた沢崎直は、生き返ってから初めての食事に感謝を心から捧げた。
(……あのまま死んでたら、もうご飯も食べられなかったもんね。男でも女でも、ご飯が美味しいことには変わりないし……。)
少し前向きな心持ちになった沢崎直は、一切合切の問題を一旦棚上げすることにした。
「……あのアルバート様?」
「……へっ?あっ、私?」
まだ全く馴染みのない響きの名前でメイドさんに呼ばれて、沢崎直は反応が遅れる。
その返答に、メイドさんは心配そうにこちらを見つめていた。
「……その、こんなことをお聞きしていいのか……。」
「?」
酷く聞きにくそうに、気を遣いながら口を開くメイドさん。
沢崎直は、首を傾げながら次の言葉を待った。
「一年もどちらにいらしたのですか?」
「一年?」
(……そういえば、何か探されてたよね、アルバート氏。)
超絶イケメンとアルバート氏との再会の場面を特等席で見ていた形の沢崎直は、先程の騎士団の詰め所での会話を思い出していた。自分の事であって、他人事。それは、没入型のRPGにも通じるものがある。ただ、鳥瞰視点選択が出来るゲームとは違い、完全に一人称視点だけの一蓮托生で魂没入型ではある。
「皆さんも、特にヴィルヘルムさんは、本当に心配して、世界中を探されていたのですよ?……あっ、今、どこかお怪我をされていたりしますか?」
「………。」
(……あの超絶イケメンが、アルバート氏を追って世界中!?)
突然齎された推しのスペシャル情報に、沢崎直の心が湧いた。
推しへの萌えの気持ちが熱く高ぶり、脳内で想像力の翼が広がっていく。
山を越え、野を駆け、海を渡る超絶イケメンの冒険譚。全ては一人の男を探し求めて。その使命感の尊さに、沢崎直の魂は震えた。
コンコン
室内にノックの音が響く。
扉から現れたのは、まさしく沢崎直の推し、ヴィルヘルムその人だった。
「グスタフ先生がいらっしゃいました。」
淡々と告げ、後に控えていた壮年の男を室内へと誘導する。
メイドさんは、それを切っ掛けに会話を切り上げると、食事の後片付けを始める。
何だか妄想を続ける雰囲気ではないことを察して、沢崎直は思考を中断した。




