第三章 四 『確認』
四
腹の虫は相変わらず不定期に鳴り続けていたが、沢崎直は一人残された室内で着替えに挑戦していた。
とりあえず用意された衣服をベッドの上に広げてじっくりと観察し、まずは構造の理解を図る。
超絶イケメンに用意された衣服は、超絶イケメンが自身で着ていたものとは違い、もう少しゆったりとした感じがするものだった。おそらくかっちりとした外出用というよりは、部屋着のようなくつろぐタイプの物なのだろう。医者を呼ぶと言っていたし、医者に見せなくてはならないような人間に身体を休める用の衣服を用意したとしてもおかしくはない。そう判断して、沢崎直は想像力を働かせながら着替えを始めることにした。
(……多分、服なんだから、私が知ってるモノとそこまで変わらないでしょ。)
とりあえず、今着ている服を脱いでみる。
洞窟や森などで、沢崎直が無茶をしたせいで、服はところどころ破れていた。脱いだ服は簡単にたたみ、近くのソファの上に置いていく。少しずつ露わになる肌には、服が破れているのと同様、あちこちに打撲や擦り傷が出来ていた。
(……借りものなんだから、大事にしなくちゃだめだよね。)
沢崎直が現在間借りしている感じのアルバート氏という身体には、ちゃんとした元の持ち主がいる。見慣れない身体の点検をしながら、沢崎直は改めて実感していた。
(何でこんなことになっちゃってるんだか、全然分かんないけど……。一応、今、この身体の監督責任は私にあるみたいだし……。)
そして、パンツのような下着のような物を一つだけ身に着けた姿になったイケメンの沢崎直は、とりあえず室内にあった鏡の前に立ってみた。
鏡に映っているのは、まぎれもないイケメン。
パンツ一丁の姿でも、イケメンはイケメンであった。
しっかりと引き締まった身体は、元の持ち主が少なくとも何かしらの鍛錬をしていたことを感じさせ、甘く整った美貌は輝きを放つ。
鏡の前で、転生して初めて全身を確認してみたが、なるほどこれならその辺の女性が熱を上げるのも仕方ないと沢崎直は改めて納得した。甘く柔らかく見える整った顔面に、すらりと伸びた手足。引き締まった身体と柔らかい物腰。その上、いいとこのお坊ちゃまとそこまで揃えば、女性にとっては優良物件を超えて、すごくいい餌のようなものだ。
(……私、これから大丈夫かな?)
今後のイケメン人生を考えて、沢崎直は憂鬱になった。
沢崎直が生まれた時から男で、転生してこの身体を手に入れたというのならまた感想は違ったのだろうが、そう上手くはいかないのが現実だ。女性として生きてきた時間が、いい餌を前に群がる血に飢えた女性たちの姿を容易に想像させる。それは、結構壮絶な光景だ。後宮やらハーレムやら、男ってどうしてあんな陰惨なものを作りたがるのか、その気がしれない。
(イケメンも気苦労が多くて大変なのかもしれない……。イケメンとして選ばれてイージーに人生を渡り歩くには、血も涙もないくらいになんなくちゃ無理なのかも……。)
今まであまりにも世界が違い過ぎて、一度も想像したことはなかったが、イケメンや美人などの他人に選ばれながら生きるカースト上位の人たちも、実は大変な思いをしている人もいるのかもしれないな。イケメンになって、沢崎直は見識の幅が広がっていた。
その後もしばらく鏡の前でイケメンを観察していたが、こんなところを誰かに見られては変態だと思われかねないと、ハッとして気づく。
(早く服を着ないと。)
慌てて服が広げられているベッドへ向かい、服を手に取ろうとして、沢崎直はふと手を止めた。
服を着る前に、しなくてはいけないことを思い出したのだ。
今まで、どうしても心のどこかで認めたくなくて、ずっと避けていたのだが、多分これ以上は避けて通れないだろう。
そして、沢崎直は覚悟を決めた。
そーっと、下着の腰の部分を引っ張り、今まで布に隠されていた部分を上から薄目で覗き込む。
(……やっぱり。)
分かってはいたし、ぶら下がっている気も何となくしていたので、驚きはない。
だが、分かってはいても、がっかりする気持ちは止められなかった。それは、沢崎直の心に決定打のように現実として突き刺さる。
沢崎直は思わず天を仰いだ。
「……ついてる。」
見たことがないわけではないが、見慣れないモノがついているという事実は、必要以上に沢崎直の心を打ちのめした。




