第二章 九 『アルバート様』
九
「あのー、少しよろしいですか?」
今までドアの傍に控えていた責任者の騎士が、室内の状況を見るに見かねて口を挟んだ。
超絶イケメンは、その声に背後へと振り返った。
沢崎直はその男の美しいうなじと首筋に見惚れた。
「先程お話しした通り、お探しの首飾りに似たものを着けていらしたのは、そちらの人物です。しっかりとご確認ください。」
「へ?首飾り?」
沢崎直の口から、イケボが残念になるほどの間抜けな声が出た。
イケメンが残念になるくらいのアホ面で、沢崎直は首飾りに手を触れる。
そこで、ようやくこの騎士団の詰め所にやって来てからの一連の流れを思い出した。
「こ、これ?」
その首飾りを一瞥しただけで、超絶イケメンは大した確認もせずに力強く頷いた。
「はい。この首飾りの意匠は当主一族にしか身に着けることが許されぬものです。」
「当主一族?」
聞きなれない言葉に、首を傾げて見せる沢崎直。
だが、そんな沢崎直の疑問に答えてくれるものは室内には存在しない。
「お探ししておりました、アルバート様。」
それどころか、超絶イケメンが沢崎直の前に跪いた。
切なげで蕩けそうなほどの笑みを浮かべ、超絶イケメンは跪いた姿勢のまま見上げてくる。
「御身に何かあったのではと、ずっと心配しておりました。こうして再びお会いできて、本当に嬉しく思います。」
沢崎直は、超絶イケメンの破壊力に卒倒寸前だった。
「アルバート様?」
だが、ほんの少しだけ残された意識の中で、沢崎直は考えていた。
(……良く考えたら、この人。さっきから私にしか話しかけてないよね?あっちのご令嬢は口も挟めないみたいだし……。)
途端に不安になった沢崎直は、自分の顔を差して率直に尋ねてみた。
「アルバート様?」
「はい。」
さも当然のように超絶イケメンは答える。
沢崎直は念を押すように再度尋ねた。
「人違いではないですか?」
「俺が貴方の顔を見間違えるはずがございません。」
(何だ、コイツは!?ちくしょう、人の心を弄ぶつもりだな?)
跪いたままの超絶イケメンの返答に、沢崎直はよく分からない感想を持った。そんなふうに悪態でも無理矢理ついていないと、会話をする術すら忘れてしまいそうだった。
とりあえず助けを求めるように室内に視線を巡らす。
すると、責任者の騎士と目があった。
責任者の騎士はやれやれといったふうに肩を竦めて助け舟を出してくれた。
「えーっと、どうやらそちらの方は記憶喪失のようですよ。」
「はぁっ!?」
超絶イケメンが一気に緊張した空気を纏って立ち上がる。
その一瞬の空気の変化はすさまじく、沢崎直どころか責任者の騎士も思わず身構えてしまうほどだった。
「……記憶、喪失?」
信じられないといった様子で、沢崎直に尋ねる超絶イケメン。
沢崎直は、今度は超絶イケメンに見下ろされながら、自信なさげに頷いた。
(記憶喪失っていうか、魂が別人になっちゃってんだよね、これが。)
「………。」
超絶イケメンは無言で天を仰いだ。
その姿は像として建ててしまいたいほど美しかった。




