第二章 七 『騎士の帰還』
七
ようやく話がまとまりつつある室内。
そんな室内に慌ただしい足音が外から響いてきたのは、それからすぐの事だった。
慌ただしい複数の足音や、鎧や剣の立てる硬質な音。それらは遠くから近づいてくると、部屋の前で一度止まった。
そして、室内にノックの音が響く。
コンコン
「失礼いたします。」
先程の責任者の騎士と思しき声が扉の向こうから響く。
責任者の声が持つ緊迫感に気圧され、室内の空気がピリついていく。
沢崎直もついにこの時が来てしまったと、覚悟を決めるしかなかった。
逃げる先も分からないため逃げることも出来ず、状況に全く理解が追い付いていないためうまい対処も出来ず、ただ流されてしまった現状に嘆くだけの時間に、きっとさらに追い打ちがかかる。
最後の審判を待つような気持ちで、沢崎直は扉の向こうから齎されるであろう情報に腹をくくる。
それでも、何も分からず手も足も出ない状況にはもどかしさしか感じなかった。
一瞬でありながら永遠にも感じられる時間の後、扉が外から開かれる。
扉から顔を出したのは、先程の責任者の騎士だった。
室内の人間を確認した後、責任者の騎士は扉の脇へと身を引いた。
それは、次の人間に道を譲るような、控えるようなそんな態度。
次に入ってくる人間が主役であるかのようなその挙動に、沢崎直の足は震えだしそうだった。
(……ああ、オワタ。私、乙。)
あまりの出来事に脳内の言語のボキャブラリーが貧困になっていることにも、沢崎直は気づくことすら出来なかった。
そして、後続の人間が室内に入ってくる。
沢崎直は、息を止めて目を閉じた。
やってくる厳しい現実に立ち向かうため、せめてでも心を落ち着けようと、心の中で呟く。
(押忍。)
両腕は気合を入れるために小さく動かした。室内の人間に不信感を持たれないように最小限の動きではあったのだけれど……。
室内に足音。
次いで、扉が閉まる音。
沢崎直はゆっくりと目を開けた。
そして、室内に光が溢れた。
後々、沢崎直は語る。
この時の出来事は神が齎した恩寵であったと……。
だが、その恩寵の前にも先にも苦難と悲しみが山のように積もり積もっており、沢崎直の行く手を阻み足を引っ張る。
その中で唯一の指針のように光り輝く希望でありながら、同時に、それは……。
沢崎直自身の心を苛む業火でもあったと……。




