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8話 天使に甘い女神様

 篠原が俺を家に誘った理由は、ぬいぐるみの件でどうしても俺に直接お礼がしたいと結奈ちゃんに懇願されたからとのこと。

 結奈ちゃんのお願いは絶対に叶える篠原の性格を知っている俺は、その事情を聞いた時に断れないと悟った。

 もし断って結奈ちゃんが悲しんだら……篠原に何をされるか分かったもんじゃないからな。

 

「……着いたわ。ここが私のお家よ」


 閑静な住宅街を歩くこと約20分、篠原の家に着く。

 ゲームで何度も見た、二階建ての一軒家。


 篠原が扉を開けると、中から可愛らしい足音と共にクマのぬいぐるみを抱いた結奈ちゃんが出迎えてくれた。


「おねぇちゃん、おかえりー!」

「ただいま、結奈」


 篠原が結奈ちゃんの頭を優しく撫でる。

 えへへー、と結奈ちゃんは嬉しいそうに笑い、それを見た篠原も頬を綻ばせた。


「おねぇちゃん。となりのおにいちゃんはだぁれ?」

「結奈が会いたがっていた、クマのぬいぐるみを取ってくれたお兄さんよ」

 

 その瞬間、結奈ちゃんは花が咲いたような笑顔を浮かべて俺に抱きついた。


「クマのおにいちゃんっ!」

「えっと……初めまして、結奈ちゃん。俺は早河晴哉。よろしくね」

「うん。よろしく、はるやおにいちゃん!」


 そして、結奈ちゃんは抱いていたぬいぐるみを俺に見せて言う。


「はるやおにいちゃん、ぬいぐるみありがとう! たいせつにするね!」


 ……可愛すぎない?

 本当に俺の妹になって欲しいぐらいだ。

 まぁ、篠原の前では絶対に口にできないけど。

 後が怖いので。


「あらあら。あなたがぬいぐるみを取ってくれたお兄さんね」


 奥からエプロン姿の女性が顔を出した。


 篠原沙奈。

 お姉さんと言われても信じるほど若々しい見た目の超絶美人。

 さすが篠原と結奈ちゃんの母親だ。

 遺伝ってすごい。


「初めまして、早河晴哉です」

「初めまして、篠原沙奈です。娘達がお世話になってます。……玲奈。晴哉君にお茶を出してあげたら?」

「そうね。早河君、ソファに座って待っててもらえるかしら」


 俺が頷くと、篠原は台所の方へと歩いていく。


「お邪魔します。……ん? どうしたの、結奈ちゃん」


 結奈ちゃんが俺の制服の袖をなぜか引っ張っている。


「はるやおにいちゃん。そっちじゃなくて、こっち!」

「え、でもリビングは向こうじゃ———」


 結奈ちゃんに引っ張られるがまま階段を登って2階へ。

 そして、そのままとある部屋へと案内された。


 あれ、この部屋って……

 見覚えのある部屋。

 誰の部屋か気づくまで、時間は掛からなかった。


「結奈ちゃん。ここってお姉ちゃんの部屋……だよね?」

「うん。そうだよ」


 ……俺、勝手に入ったらダメじゃね?


 しかし、時既に遅し。


「ねぇ、早河君。私、ソファに座って待っててって言わなかったかしら?」

「し、篠原。これは……」

「はぁ。分かっているわ。結奈に連れて来られたんでしょ?」

 

 俺は頷く。


「……まぁ良いわ。早河君、そこに座って。お茶にしましょう」

「え、良いのか?」


 てっきり追い出されるかと。


「……早河君なら、良いわ」

「えっ?」

「な、なんでもないわ」

「おねぇちゃん、かおあかいよ。どうしたの?」

「あ、赤くないわ。変な事言ったらダメよ、結奈」


 とりあえず部屋に入っていいとの事なので、お言葉に甘えさせてもらう。


「あれ、そう言えば……結奈ちゃん。どうして、ぬいぐるみを取ったのがお姉ちゃんじゃないって分かったの?」


 ふと、すごい今更な疑問が思い浮かぶ。


 実はあの日の別れ際、ぬいぐるみは自分で取った事にして欲しいと篠原に頼んでいた。

 その方が結奈ちゃんが喜ぶだろうと思ったからだ。

 篠原が自分でバラしたのか……?


「わかるよ。だって、おねぇちゃんゲームヘタだもん!」


 結奈ちゃんはあっけらかんと言ってのける。


 篠原がゲームがあまり好きでない理由は、上手でない自覚があるからだが……


「……」


 篠原は笑っているが、若干笑顔が引き攣っていた。

 

 しかしどうやら続きがあるらしく、でもね、と結奈ちゃんは続ける。


「でもね、それでもおねぇちゃんはいつもいっしょにゲームしてくれるの! そんなおねぇちゃんが、ゆいなはだいすき!」


 苦手と自覚しながらも、嫌な顔一つせず結奈ちゃんとゲームで楽しく遊ぶ篠原の姿が容易に想像つく。


「ふふっ、ありがとう。私も結奈の事が大好きよ」

「えへへー」


 本当に仲の良い姉妹だ。

 ……尊い。

 

「あとね、はるやおにいちゃんもだいすき!」

「……」


 篠原の笑顔が一変し、鋭い嫉妬の視線を向けられた。

 ……感情の起伏が激しすぎませんか、女神様?

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