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9話。最強執事ランスロットから剣を教えてもらう

【執事ランスロット視点】


「ランスロット、スキルを習得できたぞ。約束通り剣を教えてくれないか?」

「本当でございますか? まだ1日しか経っておりませんぞ!?」


 カイン坊ちゃまからの申し出に、私は驚きを隠せませんでした。

 私はランスロット。シュバルツ伯爵家に仕える執事です。


 もはや20年ほど前の話となりますが、近衛騎士団に所属し、王国最強の騎士などと称されていたこともあります。


 今は引退し、かつて孤児だった私を拾い、剣を教えて下さった大旦那様──前シュバルツ伯爵様にご恩を返すべく、この家に仕えておりました。


「もちろん本当だ。ランスロットは、相手の保有スキルを見破り、その効果を半減させるユニークスキル【看破かんぱ】を持っているだろう? それで俺の保有スキルを調べてみてくれないか?」

「……はっ、では失礼します」

 

 ユニークスキル【看破かんぱ】を発動させると、カイン坊ちゃまの保有スキルが、目の前に光の文字となって表示されました。


=================

カイン・シュバルツの保有スキル


ユニークスキル

【黒月の剣】

 剣技に闇属性力が付与されます。


スキル

【矢弾き】

 飛び道具を弾く成功率が50%アップします。

=================


「スキル【矢弾き】!? こ、これは近衛騎士団でも習得できた者はほとんどいない、高度な防御スキルではありませんか!?」


 不覚にも卒倒しそうになりました。

 【矢弾き】の習得方法は、近衛騎士団で門外不出とされていました。国宝級の知識です。


 いえ、例え習得方法を知っていたとしても、自らに向かって飛んでくる矢を30回連続で弾くなど、剣を極めなければ不可能な芸当です。


 いったい、どうやってカイン坊ちゃまは【矢弾き】を習得したのでしょうか?

 も、もしかすると、全身鎧を着た上で、兵に矢を撃たせたとか……?

 だとすると、並大抵の覚悟ではありません。


「セルヴィア様をお守りするため、武術大会で優秀を目指すというのは本気でございますな?」


 私は正直、カイン坊ちゃまのことを軽蔑しておりました。

 このお方はレオン王子に気に入ってもらうために、セルヴィアお嬢様を屋敷の全員で虐待するぞ、などと笑いながら吹聴しておりました。


 相手はレオン王子を誑かそうとした偽聖女、遠慮など無用などと……


 しかし、突如カイン坊ちゃまは改心し、セルヴィアお嬢様を家族として迎え入れると、旦那様に認めさせました。

 もし本当にレオン王子に逆らってまでセルヴィアお嬢様を守り抜く決心なら、誠にご立派ですが……


 あまりのカイン坊ちゃまの変わりように、私は真意を測りかねていたところです。


「もちろん本気だとも」


 そう言って、私を見つめたカイン坊ちゃまの目には、強烈な意志が宿っておりました。

 やはり、伊達や酔狂で言っているのではないようです。


「では、まずは基本の型を教えますので、一日素振り1000本を一ヶ月続けてくださいませ」


 初心者なら一日100本の素振りが目安です。慣れないうちは体力の消耗が激しく、とても1000本の素振りなどできません。


 ですが、これくらいこなせなくては、1年後の武術大会での優勝など、夢のまた夢です。

 

「一日素振り1000本? 確認したいんだが、その程度じゃ、1年以内にスキル【剣術レベル5】を習得できないよな?」

「【剣術レベル5】ですと?」


 私は唖然としました。

 【剣術スキル】は、剣を使い続けることによって習得でき、レベルアップしていきます。


 最初は【剣術レベル1】。これは剣技の命中率と攻撃力が10%上昇するというものです。


 熟練の境地【剣術レベル5】に到達すると、剣技の命中率と攻撃力が50%上昇するという破格の効果が得られます。


 これは近衛騎士団でも、騎士隊長クラスでなければ到達できない、まさに剣の極みです。


「……はっ、おっしゃる通り、余程の才能が無ければ1年では不可能だと思います」

「じゃあ、俺は一日3000本の素振りをする。それなら、なんとか届くか?」

「なっ……!? 素振りはあくまで基本。それだけでは剣は極められません。それに加えて、私の教える技をすべて吸収し、かなりの実戦を経験していただかねばなりませんが……しかし、それでも1年以内となると……」

「わかった。じゃあ、まずは一日3000本の素振りを目標にするから型を教えてくれないか?」

  

 むむむっ……

 まさか、これほどまで熱心に剣術に打ち込むおつもりとは。

 やはり、セルヴィアお嬢様への想いがこのお方を変えたのでしょうか?


 しかし、口で言うだけなら簡単です。

 実際にやり始めたら、おそらくすぐに音を上げることでしょう。


 カイン坊ちゃまのこれまでの不摂生に満ちた怠惰な生活ぶりを見れば、火を見るよりも明らかです。


 そう思い、私は基本中の基本である真向斬りの型を教えました。敵の脳天に剣を振り下ろす技です。

 

「ありがとう、ランスロット。やってみるから、おかしかところがあったら、遠慮なく指摘してくれ」


 むっ、ありがとうですと……?

 まさかカイン坊ちゃまの口から、私に対する感謝が出てくるとは思ってもみませんでした。

 このお方にとって私など、取るに足らない存在だったハズですが。


 カイン坊ちゃまは、さっそく私のマネをして剣を振りました。

 その動作は……う、美しい!?


 型を極めると、その所作は美を宿すのですが、カイン坊ちゃまの剣は初心者とは思えぬ流麗さがありました。

 

 手直しを指摘する点は、恐るべきことに無かったのです。


「……カイン坊ちゃま、まさか、これまで剣術を習われたことが?」

「無いが……?」


 わかりきったことではありますが、質問せずにはいられませんでした。

 一度、私の型を見ただけで、これほどまでに完璧な動きを?

 いかに観察力に優れていようと、有りえないことです。


 本来は、最低でも年単位で地道な反復練習を繰り返して身に着ける型が、いきなりできてしまうなど、世の剣士たちが聞いたら卒倒してしまうでしょう。


「……あっ、熟練度がすごく入った。【剣術スキル1】を習得できたぞ!」


 さらにカイン坊ちゃまは、驚くべきことを言いました。

 まさか、たった一振りで【剣術スキル1】を習得したと?

 天才と呼ぶしかありません。


 ……いや、考えてみれば、カイン坊ちゃまのユニークスキル【黒月の剣】は、剣技に闇属性力が付与されるというもの。


 ユニークスキルは、その人物固有の特殊能力です。神の祝福だとされ、ごく一部の者しか持って生まれません。


 ならばカイン坊ちゃまは元々、武の神より愛されたお方なのでは……?


 私はそう思い至り、震えが止まらなくなりました。


「1動作ごとに、どんどん洗練されていくのがわかる! おもしろい、おもしろいじゃないか、剣術って!」


 カイン坊ちゃまの動きが良くなっていくのは、明らかでした。

 信じられません。異常な成長速度です。


 まさに怪物……私は今、何を目撃しているのでしょうか?

 しかも……


「ぜぇぜぇえええッ! ど、どうだ、やりきったぞランスロット……ッ!」

「お見事でございます、カイン坊ちゃま!」


 なんと3000本の素振りを最後までカイン坊ちゃまは、やりきったのです。カイン坊ちゃまは精根尽き果て、大の字になって倒れました。


 私は感動に打ち震えました。


 これほど剣の才能に恵まれた者が、剣への情熱を燃やしているのです。


 その日の夜、私は旦那様にカイン坊ちゃまに剣術を教えさせて欲しいと、土下座して頼み込みました。

 旦那様もそのつもりだったらしく、執事の仕事よりもこちらを優先して欲しいとのことでした。


「今のカインは、これまでのカインとは明らかに違っておる。おそらく、天賦の才が覚醒したのだ。ならば、ワシはその後押しをしてやるまで」


 旦那様はそのようにおっしゃられ、満足そうにしておられました。


 ああっ、これほどの才能を自分の手で育てられるとは……私は興奮を抑えきれませんでした。


 ユニークスキル【黒月の剣】を持つカイン坊ちゃまは、誰よりも強い剣士になれる可能性を秘めています。


 そして、驚くべきことに、次の日も、また次の日も、カイン坊ちゃまは一日3000本の素振りを続けられたのです。


 汗だくの疲労困憊になりながらも、手にマメができて潰れても、カイン坊ちゃまは剣を振るうのを止めませんでした。


「カイン坊ちゃま、なぜ、なぜ、そこまでされるのですか……?」

「ぜぇぜぇ……それはもちろん、最推しヒロインのセルヴィアと幸せに、なるためだ。それが俺の夢だ」


 フラフラのカイン坊ちゃまは、聞き慣れない言葉を使いました。

 はて? 最推しヒロインとは何でしょうか?


「なによりセルヴィアも今、火の魔法の修行をがんばっているからな。格好悪いところは、見せられないだろう?」


 カイン坊ちゃまは笑って応えました。


「それに剣術って、思った以上におもしろいな。剣先の風切音が鋭くなっている。ドンドン強くなれるのが、身体で実感できるなんて最高だな!」

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