81話。武術大会の優勝決定
「もっとだ! もっと力を寄越せぇ、魔王ぉオォ!」
喚き散らすアベルの筋肉がさらに盛り上がり、口には牙が生えて、ますます人外じみた姿へと変貌していく。
凶悪な魔力がその身から放たれ、闘技場を激震させた。
「まだ、パワーアップしようというのですか!?」
「わ、悪足掻きを!?」
セルヴィアとアンジェラが声を震わせる。
さらに凶暴に力を増していくアベルに、観客たちから悲鳴が上がる。
「まだだ! 僕はこんなモンじゃ無いハズなんだぁああああッ! 何もかも失っても構わねぇから、僕に勝利をぉおおおッ!」
「もう終わりにしてやる勇者アベル!」
俺は突っ込んで行って、真向斬りを放つ。
「げぇはぁああああッ!?」
アベルは聖剣【カリバーン】を再び出現させて、ガードした。だか、俺の刀は聖剣を呆気なく断ち切って、ヤツの肩に深傷を負わせる。
「バ、バカなッ!? 奥義でもない基本技で聖剣を!?」
「ただの基本技じゃないぞ。この1年間、毎日欠かさず20万回以上、繰り返した技だ!」
【剣術スキル】は剣技の攻撃力を上昇させる。つまり、剣技の練度を上げれば基本技だろうと必殺技にまで昇華させることができるんだ。
「あ、有り得ない! さっきまでとは、技の威力とキレが段違いじゃないか!? 魔王の力を手に入れた僕の攻撃力を上回っているだとぉおおおッ!?」
「当然だ。俺は前人未到の境地、【剣術レベル6】に到達したんだからな!」
「なにぃいいい!?」
アベルの表情に初めて絶望が浮かぶ。
「おぉおおおッ! 素晴らしい! 剣に命を賭けてきたカイン坊ちゃまが、ついについに誰も到達したことのない剣の極地へと!」
「この土壇場で、カインはさらに強くなったのね!」
ランスロットがアンジェラと手を取り合って喜んでいる。
「カイン兄様、スゴイです!」
「お姉ちゃんも感激よぉおおおッ!」
エリス姉上は実況という立場を忘れて、感涙していた。
「一緒に屋敷の敷地をランニングしていた頃は、カインがこんなに強くなるなんて、思わなかったわ! ぐすぅうう!」
「エリス姉様、まだ終わっていません。最後まで応援しましょう!」
「うん! 私たちのカインが、最強の敵と戦っているんだものね!」
実況席まで降りてきたセルヴィアとエリス姉上が、声を枯らして応援してくれる。
彼女らの声が、俺になによりも力をくれた。
「うぉおおおおおおッ!」
俺はアベルにさらに斬撃を叩き込む。
今こそ畳み掛けるチャンスだ。
「舐めるなぁぁああああッ!」
アベルは強引に反撃に出ようとするが、血を流し過ぎたために、明らかに動きが悪い。
なにより、不死性を失ってしまったために、ヤツの剣の踏み込みが甘くなっていた。
そんな腰が引けた剣じゃ、この俺を殺すことはできない。
皮肉なことに不死身だからこそ、『決して砕けぬ勇気』を発揮して、勇者は強敵に立ち向かって行けたのだ。
【決して砕けぬ勇気】を失った勇者など、もはや恐れるに足りない。
「もっとだ! もっと力を寄越せ魔王ぉおおおッ!」
甚大なダメージを受けたアベルは、悲痛な声で叫ぶ。
「勇者アベル、最後の最後に他人を頼みとするようでは、戦士失格ですな」
ランスロットが憐れみの眼差しをアベルに向けた。
「な、なんだと、ジジイ!?」
「そもそも、勇者が魔王に頼ろうだなんて、恥ずかしいとは思わないの? あなたの存在意義って何?」
「アンジェラ、てめぇええええッ!」
勇者アベルは怒り心頭になる。
「僕は戦士の誇りも勇者の使命も、どうでもいい! 僕は僕のやりたいように生きるんだ! お前らこそ、勇者に頼るしかないクソゴミの分際で、偉そうに説教するなぁああああッ!」
「勇者アベル、お前がどう生きようが関係無いが……俺の敵として立ちはだかるなら叩き潰す!」
俺の刀がアベルの心臓を貫いた。
邪悪を祓う【世界樹の剣】が、【魔王の血】を浄化し、完膚無きまでに消滅させる。
「がぁあああああッ!?」
アベルの身体が急速にしぼみ、人間の肉体へと戻った。
「スキル【幻体】発動!」
俺はトドメに、今までアベルの前で決して使わなかったスキルを発動させた。これも切り札のひとつだ。
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【幻体】
自分とまったく同じ容姿、装備、能力を持つ分身を生み出すスキル。分身は、スキル使用者の意図した通りに動きます。効果時間60秒。クールタイム60分。
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「【音速剣】!」
出現した俺の分身が、アベルの死角となる側面から衝撃波を浴びせた。
魔王の力を失ったヤツは大きく弾き飛ばされ、場外に飛び出す。
一瞬の静寂の後──
「じょ、場外負けよぉおおおッ!」
実況のエリス姉上が大声を張り上げた。
同時に、大地が揺れるほどの大喝采が上がる。
「勝負有り! 勝者、カイン・シュバルツ!」
主催者の国王陛下が立ち上がって、俺の勝利を宣言した。






