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76話。試合開始。勇者アベルのスキル【剣士殺し】を破る

次の日の昼──


 武術大会は、すさまじい熱気に包まれていた。

 約5万人を収容できる円形闘技場は、試合開始の3日前から大行列ができており、開場と同時に満席になった。


 溢れた人々は、路上に設置された巨大水晶に映る闘技場の魔法中継映像を見つめている。


 もし勇者アベルが優勝しようものなら、この国は魔王以上の怪物であるヤツによって、好き放題に蹂躙されるだろう。


「カイン・シュバルツ様、どうか勝ってください!」


 そのため、俺の勝利を痛切に願う声で満ちていた。

 ……とはいえ、その期待と雰囲気に飲まれて、実力が発揮できないようでは困る。


 俺は肩を回して、努めてリラックスするようにしていた。


「そう言えば、ゲームではこの闘技場でオンライン対戦ができたんだよな」


 ふと、ゲーム時代を懐かしく思い出す。

 NPCとは異なる人間のプレイヤーは、あっと驚くような意外な行動を取ってきて、実に楽しかった。


 この石畳のリングを目の当たりにすると、あの興奮が蘇ってくるな。


「西よりカイン・シュバルツ選手の入場です!」


 名前を呼ばれた俺は、闘技場のリングに向かって歩き出した。

 割れんばかりの拍手と歓声と紙吹雪が、俺の頭上に降り注ぐ。


「伝説の騎士ランスロットから、たった1年で自分を超えたと言わしめたほどの剣の申し子! 竜殺しも成したその剣技の前では、魔法など無力ぅううううッ!」


 実況席から俺の紹介をするのはエリス姉上だった。音声を拡大する魔導具を使って、大声を闘技場全体に轟かせている。


 エリス姉上は試合の実況をしたいと、国王陛下に頼み込んで、実現してしまっていた。


「ちなみに、私の弟よ! きゃぁああああ! 結婚してカインィイイイ!」

「だ、大丈夫ですか、姉上……」


 なんとも偏った公私混同の実況だった。

 恥ずかしいから、10万人規模にブラコンぶりを披露するのはやめて欲しいのだけど……


「解説役として、元近衛騎士団副長のランスロットと、アンジェラ皇女に来ていただいています! じゃあランスロットから、何か一言!」

「うぉおおおおおっ! カイン坊ちゃま、がんばれぇえええ!」

 

 ランスロットは興奮して絶叫している。

 お、おい、これ、ちゃんと解説できるのか?

 これはアンジェラに期待するしかないな。


「アハハハハッ! 僕が来てやったぞぉおおおッ! 控えろ愚民ども! 僕こそが勇者アベル、この世界の頂点に立つ男だ!」


 リングの反対側の入り口から、勇者アベルが姿を現した。


「神とは誰だ!? 神とは俺だ! 伝説の光魔法の使い手にして、不死身の戦士! しかし、実態は悪逆非道な女好き! 東より、勇者アベル選手の入場です!」

「よく分かっているじゃないか、実況のお姉さん!  褒美に僕のハーレムに入れてやるぞぉおおおッ!」

「えっ? お断りです」

「ま、まさか、カインの姉にまで手を出すなんて、ホントに見境が無いのね、あの男は……」


 アンジェラが呆れ返っていた。

 解説席の声は、マイクのような音声拡大魔導具によって、会場全体に届くようになっていた。


「なにぃいい!? カインの姉だって!? アハハハハッ! おもしろいじゃないか! 僕は欲しいと思った女の子は、すべて手に入れる!」


 勇者アベルは解説席のアンジェラを指差した。


「この大会の優勝者は国王より望む褒美をもらえるんだよな! なら、カインに勝ったらヤツのハーレムメンバーは、すべて僕のモノだ! お前も僕の女にしてやるぞ、アンジェラァァァアッ!」

「ふん、まさか……皇帝たる俺の前で、アンジェラを呼び捨てにして口説くとは。まさに傲岸不遜を絵に描いたような男であるな」


 実況席の後に設けられた貴賓席に座った皇帝シグルドが、顔を不快そうにしかめた。


 その隣には国王陛下とセルヴィアが座っており、彼らの声も闘技場全体に届く設計になっていた。ランスロットとアンジェラは、実は国王陛下たちの護衛も兼ねている。


「アハハハハッ! 当然だぁ! 王国の美少女だけでなく、帝国の美少女もすべて僕のものだぁああああッ! アトラス帝国の皇帝シグルド! お前の後宮の美女も全部僕のモノにしてやるぞ! ギャハハハッ!」

「おおっと、勇者アベル選手、なんとシグルド皇帝に喧嘩を売ってしまいましたぁ! なんという傲慢! なんという思い上がり、これが勇者よぉおおおおッ!」


 帝国の民たちからブーイングが一斉に上がる。だが、勇者アベルはまるで聞く耳を持たない。

 それにしても、エリス姉上は超ノリノリだな……


「ふんッ、見るも不快な汚物であるな。これが神に選ばれた勇者とは嘆かわしい。俺はカイン殿の勝利を切に願わせてもらおう!」

「それはワシも同じであるぞ。こともあろうに、我が娘リディアを自分のモノとし、王国を乗っ取ろうとした大罪人。貴様の命運もここまでぞ、勇者アベル!」


 シグルドと国王陛下は、勇者アベルを腹立たしげに睨みつけた。


「カイン兄様、どうか勝ってください!」


 セルヴィアは心配そうに祈りを捧げている。


「もちろんだ」


 俺は剣を抜いて構える。

 俺の力は、この日のために鍛え上げたモノだ。勝って、俺はセルヴィアとの幸福を掴む。


「はっ! 国王も皇帝も聖女も、しょせんは人任せか! 他人に頼るしかないクソどもが。僕は欲しいモノは、すべて自分の力で奪い取る!」


 勇者アベルも白刃を鞘から抜き放つ。


「僕は神によって最強と定められた勇者。凡人がいくら努力しても、届かないと思い知れ!」

「欲しいモノは、すべて自分の力で奪い取るか。その心意気だけは立派だと思うが、お前は勇者を……いやRPGロールプレイングゲームというものをわかっていないな?」

「なに……?」


 勇者アベルは顔を訝しげにしかめた。


「勇者は万能で最強だけど、剣では騎士に敵わないし、魔法ではエルフに勝てないし、特殊能力では聖女やソフィーのような人間に劣る。1人では実は何も成せない器用貧乏が勇者だぞ」

「はっ、何かと思えばお説教か? うぜぇ」

「お前の敗因の話だ。お前は総合力では最強だけど、すべてにおいて最強じゃない」

「それでは、決勝戦、初めぇえええッ!」


 エリス姉上の一言で試合が開始された。

 

「おもしろい! 僕は相手の視覚を狂わせるスキル【剣士殺し】を持っている!」


 勇者アベルが嘲笑を上げながら突っ込んでくる。


「何が敗因だ! どんなに剣を極めようとも、お前が僕に勝つなんて、最初から不可能なんだよぉおおおッ!」

「もちろん。剣士ではお前に勝てないことは、ランスロットから聞いて、良く知っているさ」

 

 スキル【剣士殺し】は、敵の視覚を狂わせて、剣筋や予備動作を見切らせないようにする効果がある。


 剣の勝負とは、達人級になると先の読み合いに終始する。神速の剣は、見てから防御したのでは、間に合わないからだ。


 相手の視線や足運びといった予備動作から、攻撃を先読みして、対処する。そこにフェイクを織り交ぜて相手を騙し、攻撃をヒットさせる。


 そういった虚実織り交ぜての攻防が、剣の達人の勝負だ。

 

 その前提を覆し、先読みを無効化するスキルが【剣士殺し】だった。


「だから、俺はお前に勝っている能力と仲間の力で、お前に挑むんだ」

「なにぃいいい!?」


 俺は勇者アベルの剣を紙一重でかわして、カウンターの斬撃を浴びせる。


「【剣士殺し】が通用しないだと!?」


 勇者アベルは右肩を斬り裂かれて悲鳴を上げた。

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