71話。皇帝と国王がカインに味方する
「そんな、第一皇子シグルド様!?」
リディア王女が驚きに声を震わせる。
皇帝を名乗ったシグルドは、元々リディア王女との政略結婚の話が進んでいた相手だった。
「まさか、皇帝ジークフリートは倒された!?」
「しかり! 我が父、ジークフリートは魔王復活などという、愚かな計画を進めていた。故に、親愛なる帝国臣民を魔王の脅威より守るため、俺は父上を討ち、至尊の座に就いたのだ! 俺こそアトラス帝国の皇帝である!」
俺の疑問に、シグルドは強い信念のこもった声で応える。
シグルドは元々正義感の強い皇子で、ゲームでは魔王を復活させた父親に反逆して殺されてしまうカッコいい悪役だった。
勇者アベルとシグルドが、共に手を取って魔王と戦うシナリオを熱望するファンの声もあった。
できればシグルドを味方にしたかったのだが、皇帝ジークフリートが魔王を復活させようとしている証拠はなかったため、それは難しいと考えていた。
シグルドは証拠も無いようなデマに踊らされる人物ではないからだ。
「貴殿が、カイン・シュバルツ殿か!? 【闇鴉】どもを引き込んで、父上が魔王復活を企んでいるなどというデマを撒き散らした時は、なんと卑劣な策謀家かと怒りを感じたものだが……」
険しい顔をしていたシグルドは、突如、豪放磊落に笑いだした。
「黒死病の治療薬と予防法を、帝国にも無償で提供していただけるとは、恐れ入った! そこで、ことの真偽を確かめるため、話にあった【ラストダンジョン】の入り口を調査したところ。まさに父上が魔王復活の儀式を執り行っているところに出くわしたという訳だ!」
「それで、シグルド殿下……いえシグルド陛下は、父君を討たれて、皇帝の座に就かれたのですね」
「しかり! そして、帝国の恩人たるカイン殿が、勇者を名乗る逆賊と戦っておられると聞いたのでな。これは捨て置けぬと、すぐさま援軍に駆けつけた次第だ!」
シグルドの乗る飛竜が、火炎を吐いてレオン王子の取り巻きどもに浴びせた。
「え、援軍!? アトラス帝国の皇帝自らが、カイン・シュバルツに助太刀だとぉおおおッ!?」
レオン王子は狼狽のあまり、馬から落ちそうになっている。
「ハハハハハッ! 聞けばカイン殿は、リディア王女を娶られ、次期、アルビオン国王になられるとか? ならば、俺自らが恩を売っておいて損はあるまい!」
これはなんとも快活で、裏表の無い男だな。
ゲームシナリオ通りの快男児だった。
「俺もシグルド陛下とは、ぜひよしみを結びたいたと考えています!」
戦争なんかに明け暮れていたら、とてもセルヴィアとの生活を満喫するどころじゃないからな。
「うむ! 貴殿は、我が愛しのリディア王女の心を奪った小憎らしい男ではあるが。恩義には恩義で報いるのが帝国の流儀だ。皇帝親衛隊、総員突撃! 我が盟友カイン殿の敵は、我が敵であるぞ! 蹴散らせぇえええッ!」
「はっ!」
空を駆ける皇帝親衛隊が、一斉に急降下してきて近衛騎士団に襲いかかった。
「て、帝国が後ろ楯にいるという話は本当だったのか!?」
「皇帝自らが援軍だとぉおおおッ!?」
王国軍全体が、これにはうろたえた。
嘘が真実になってしまった。
「まあシグルド様! わたくしの未来の夫、カイン様のために戦っていただけるなんて、うれしいです!」
「シグルド陛下! 俺にはすでに婚約者がいて、リディア王女と結婚する気は、まったくありませんが……!」
リディア王女がここぞとばかりに歓声を上げているので、慌てて訂正しておく。
アトラス帝国の皇帝に、そんな誤解をされては困る。
「ひぎゃああああッ!? た、助け! 余は、余は死にたくない!」
「殿下!?」
皇帝親衛隊の攻撃を浴びて、レオン王子が不様に落馬し、地面に這いつくばった。
ガレスがランスロットの追撃を振り切って、レオン王子の守りにつく。
最後に立ちはだかるのは、やはりこの男か。
「お兄様、それでは今すぐ降伏してください! わたくしが命だけは保証いたします!」
「ふざけるなリディア! 妹の分際でこの兄の上に立つというのか!? 不遜であるぞ! 貴様こそ、余の前にひれ伏せ!」
「お兄様!?」
レオン王子は子供のように駄々をこねた。
見下していたリディア王女に降伏するなど、プライドが許さないようだ。
「最後の温情を拒否したな!? なら、この俺が引導を渡してやる!」
俺は叫びながら、レオン王子に向かって突撃した。
レオン王子の首を取るのは、俺の役目だ。
「こいカイン・シュバルツ! 近衛騎士団長ガレスが相手となろう!」
ガレスが剣を振りかざして、俺を迎え撃とうする。
「待たれよ、カイン・シュバルツ殿! この戦はそなたの勝利! レオンは廃嫡し、国外追放とする!」
「こ、国王陛下!?」
その時、魔法によって増幅された声が戦場に響き渡った。
威厳に満ちたその声に、みなが手を止める。
天馬に乗った国王陛下が、戦場に突入してきた。






