48話。勇者パーティを追放された美少女ソフィーから惚れられる
【勇者の幼馴染ソフィー視点】
私はソフィー、何の取り柄もない15歳の女の子。
ううん、何の取り柄もないどころじゃないわ。何をやらせても平均以下の能力しかなくて、その上……
「いった〜いッ!?」
馬車から降りた私は何も無いところで、盛大にすっ転んだ。
私はユニークスキル【転倒】を持って生まれた。効果は『何も無いところで転ぶ』という完全に外れスキルだわ。
幼馴染のアベルは、子供の頃はおもしろがってくれたけど……
アベルが勇者に選ばれてからは、ゾッとするような白い目で『うぜぇ』と舌打ちされるようになった。
魔物と戦っている時に転んだ時は、『役立たずの外れスキル女』と言われたけど、聞こえないフリをして笑って誤魔化した。
だって、アベルは本当は優しい人だと信じていたから。
でも、まさか英雄像に叩きつけられて追放されるなんて……
頭を強打した私は、一歩間違えれば死んでいた。
「大丈夫ですか、ソフィー殿?」
私を治療して、この辺境の地まで連れてきてくれた恩人の男性が、手を差し伸べてくれた。彼はこの辺境の領主シュバルツ伯爵に仕えているのだという。
「あっ、はい! 私は元気だけが、取り柄ですから……!」
そう言って無理に明るく、笑う。
笑っていないと、あまりにも自分が惨めになってしまうから。
「あの、今でも信じられないんですけど……シュバルツ伯爵家の御子息様が、私なんかの話を聞きたいって、どういうことなんでしょうか? しかも、職まで世話していただけるとか?」
一瞬、人さらいかと疑ったけど、人さらいが、こんな手の込んだマネをするとは思えない。
もしお金目当てなら、私を治療した後に即、奴隷商人に売り払えば良いだけだということは、世間知らずの私にもわかった。
それにシュバルツ伯爵の御子息カイン様は、あの【不死殺しの英雄】エドワード様の義理の息子で、数々の危険な魔獣を討伐している英雄らしかった。
「もちろん。命の恩人のお願いなら、なんでもお答えしたいと思いますけど……」
「ソフィー!? おおっ、やっぱりソフィーだ!」
その時、御屋敷より、立派な身なりをした少年が飛び出してきた。鍛えられた身体をした目つきの鋭い美男子だった。
そんな彼が、なぜか私を見て感激したように目を輝かせている。
思わず、ドキリとしてしまった。
「ソフィー殿、こちらのお方がカイン・シュバルツ様です」
「ええっ、あ、あなた様がカイン様ですか!? 助けていただき、ありがとうございました! お会いできて光栄です!」
私はペコペコ頭を下げて、必死でお礼を述べた。
「頭を上げて、楽にしてくれ。俺もソフィーに会えてうれしい!」
「えっ?」
私に会えてうれしい?
そんなことを男性、しかも英雄と称えられるような貴族様から言われたのは、初めてだった。
「勇者アベルについて聞きたいんだけど、アベルは勇者に選ばれた後も、剣の修行を続けていたか?」
カイン様はものすごい真剣な表情でそんなことを聞いてきた。
「ふぇ……? し、していなかったと思います。レベル99の勇者になった僕は最強だ。もう地道な剣の素振りなんて、やっていられるか! って……」
「そうか。やっぱりな。いや、ありがとう。それを直接聞けて良かった!」
カイン様は、なぜか大喜びしてくれた。私なんかの話でこんなに喜んでくれるなんて、うれしい。
それに、カイン様に見つめられていると、胸がなんだかドキドキする。
「ところでソフィーは、勇者アベルが王都で何をしているか、知っているか?」
「えっ、そ、それはもちろん知っています。気に入った女の子を次々に拉致して、手籠めにしているとか……ひ、人殺しも平気でしているとか」
私の胸がズキンと痛んだ。
アベルはすっかり変わってしまった。
王都は勇者アベルに対する怒りと憎しみで溢れているわ。
でも、勇者の力はすさまじく、誰もその暴走を止められなくて、アベルの残虐行為は日に日にエスカレートしていっている。
「俺はその勇者アベルを倒すつもりでいる。ソフィーには、俺の私設兵団の部隊長として部隊を率いて一緒に戦ってもらいたんだけど、どうだろうか?」
「はぁあああっ!? わ、私が軍隊の部隊長ですか!? そ、そんなの絶対に無理です!」
私はひっくり返りそうになった。
一体カイン様は何をおっしゃっているんだろう?
「大丈夫だ。ソフィーには才能がある。そのユニークスキル【転倒】こそ、この国最強の近衛騎士団をも打ち破る究極のスキルだ!」
カイン様は私に手を差し伸べた。
「俺と一緒に勇者アベルを倒してくれないか? ヤツの暴走は止めなくちゃならない!」
「アベルを!? そ、そそそんなの、逆立ちしても不可能です! 私のスキルが近衛騎士団を打ち破るって、何を言って、痛い!?」
慌てまくった私はさらにここで、すっ転んだ。
スカートがめくれて、パンツが丸見えになる。
そんな私には、いつも嘲笑が浴びせられていたけど、カイン様はくすりとも笑わなかった。
「ソフィー、頼む。俺にはお前が必要だ! 大丈夫だ、俺がソフィーを最強にしてみせる!」
「ふ、ふぇ!?」
私の心臓が大きく高鳴った。
「も、もちろんアベルがひどいことをしているなら、幼馴染として、なんとしても止めたいと思いますけど……ホントに私なんかで、良いんですか? 私なんかを部隊長にしたら、カイン様がみんなにバカにされて笑われますよ? 私は無能で何の取り柄もない……」
「何を言っているんだ? ソフィーは無能どころか、『もしかしてコイツ、聖女よりスゴくね? 最強じゃね?』と、話題になるほど強くなれるんだぞ!」
「わ、私が聖女様よりスゴイ?」
信じられない言葉だった。
「ソフィー殿。今こそ明かしますが、【不死殺しの英雄】の正体とはカイン様なのです。エドワード様もゴードン様もカイン様を盟主として、忠誠を誓っております」
「そ、そんな……!」
もはや、仰天して私は声も出なかった。
そんなスゴイお方が、私の才能を認めて必要としてくださっている?
「頼むソフィー、俺に力を貸してくれないか?」
カイン様はさらに私に頭を下げる。
貴族様というのは、みんな偉そうにしてふんぞり返っているモノだけど、カイン様は違った。
アベルに捨てられた私だけど、カイン様の元でなら、きっと生まれ変われる気がする。
「わ、わかりました。こんな私で良ければ喜んで!」
私は意を決して、カイン様の手を取った。
「ありがとうソフィー! じゃあ準備ができ次第、【ドラゴンゾンビ】ボス討伐マラソンだ。ソフィーにはレベル75の最強アンデッド【ドラゴンゾンビ】を倒しまくってもらう。俺と一緒に一週間で人類最強を目指すぞ!」
「ふ、ふえっ……?」
目をキラキラさせて、カイン様は理解不能なことを叫んだ。






