47話。3人の美少女、皇女、王女、聖女から取り合いをされる
「父上、ただいま戻りました」
「まあっ、カイン様、お久しぶりでございます! わたくしを覚えておいでですか?」
父上の執務室に入ると、なぜかリディア王女が駆け寄ってきて俺に抱き着いてきた。
ゲームでもファンが多かった輝くようは美貌は、リアルになるとさらに磨きがかかり、目が離せなくなるような魔力がある。
「こ、これはリディア王女殿下、わざわざこのような辺境にまでご足労いただき、恐悦至極です。一体、どのようなご用向きでしょうか?」
俺は内心の動揺を押し隠して尋ねた。
押し付けられる柔らかい感触もさることながら、リディア王女の来訪は【闇鴉】の報告に無かったことだ。
これは極秘での来訪ということだ。その目的は見当もつかないが……
「感激です! あまりお話したことは、ありませんでしたが、わたくしのことをちゃんと覚えていてくださったのですね!」
「それは、もちろんです」
ゲームの勇者パーティの1人であるリディア王女のことを忘れるなんて、有り得ない。
この世界のカインは、リディア王女とあいさつを交わしたことがある程度の付き合いだったけど。
「ああっ、やっぱり、わたくしたちは運命の赤い糸で、結ばれているのですわ!」
「え……?」
「今回、わたくしがシュバルツ伯爵家にやってきたのは、わたくしとカイン様の挙式のためです!」
「「「なぁっ!?」」」
俺とセルヴィアとアンジェラの驚愕の声が重なった。
「ゴードン様より、お聞きしました。アンジェラ皇女の【死霊騎士団】を打ち破り、真に王国を救って下さったのはカイン様! あなた様をおいて、我が王国を救えるお方はおりません! どうか、わたくしの夫として新王として即位し、邪悪なる勇者の手より、アルビオン王国をお救いください!」
リディア王女は真摯な表情で訴える。
こ、これはゴードンのヤツ、リディア王女に秘密をすべてバラしていたのか?
俺の名前を出すなと、あれ程言っておいたのに……
しかも、挙式とか新王として即位とか、どういうことなんだ? 意味不明すぎる。
「……恐れながら、俺にはすでにセルヴィアという婚約者がおりますが?」
「その通りです。リディア王女殿下、どうか兄様から離れてください」
セルヴィアが固い表情で告げる。
あっ、これは一見はわからないが、声に棘があるし相当怒っているな。
俺は失礼にあたらないように、リディア王女の肩を掴んで引き離した。
「まさか、カイン。アルビオン王国の姫君からも、求婚されていたの?」
アンジェラも唖然としっぱなしだった。
「あ、あなた様は、まさか! アンジェラ皇女──お目にかかれて光栄です。シュバルツ伯爵家当主、フリッツでございます!」
父上はアンジェラに対して、胸に手を当てて最上級の礼をした。
「ええっ!? ア、アトラス帝国のアンジェラ皇女ですか?」
リディア王女も敵国の皇女の出現に、肝を潰している。
しかも、相手は1万5000のアンデッド軍団を操っていたような破格の【死霊使い】だ。
「お初にお目にかかりますわ。リディア・アルビオン王女殿下、それにシュバルツ伯爵フリッツ様。アトラス帝国の皇女アンジェラと申します」
アンジェラは気品のある所作で、お辞儀した。
「シュバルツ伯爵家に、お父様──皇帝ジークフリート陛下より正式な手紙が届いていませんでしたかしら?」
「手紙?」
「そ、それは……皇帝陛下から、アンジェラ皇女とカインの結婚のお申し出がございましたが……」
「「「はぁ!?」」」
今度は俺とセルヴィアと、リディア王女の声がハモった。
「ちょ、ちょっとどういうことなんだ、アンジェラ? 俺はそんな話は聞いていないぞ!」
「【闇鴉】を通じてお父様に、カインはレオン王子を倒して、王位を奪うつもりだと伝えたのよ。そしたら、なぜか、そんな感じに……」
アンジェラは困ったように肩を竦めた。
「まさか、アンジェラ皇女、【闇鴉】を通じて皇帝陛下を動かし、兄様の婚約者の座を狙おうと!?」
セルヴィアの瞳に怒りの火が灯った。
「そんなつもりはないわ。カインの狙い通り、これで私は正々堂々とシュバルツ伯爵家に協力できる立場になれたのだから、願ったり叶ったりだと思うけど?」
「ちょ、ちょっと待て。俺はそもそも王位なんて狙っていないって、アンジェラには説明したハズだろ!?」
そんな風に皇帝から誤解されては、困る。
【闇鴉】を俺の直接の支配下に置かなかった弊害が出てしまったな。
情報操作の仕方を誤れば、帝国が介入してくるなど、事態が思わぬ方向に転ぶ恐れがある。
おそらく魔王復活の噂のおかげで、これは防げるとは思うが……
「えっ? 違うのですか? ゴードン様から、カイン様のお望みは王位だとお聞きしましたが?」
リディア王女はキョトンとしていた。
「な、なぜ、そんな間違った話が、両国のトップに広まっているんだ!?」
「カイン坊ちゃま、致し方ありませぬ。大きな手柄を立てた武人とは、そのような色眼鏡で見られるモノでございます。たとえ野心なくとも、王位を奪うえる力がある、その一点だけで政争に巻き込まれるモノでございます」
ランスロットが腰を折った。その言葉には重みがあった。
「私は別にカインと結婚したい訳じゃないけど……お父様のご命令なら、仕方ないわ!」
アンジェラはそう言って、俺にしがみついてくる。
「いや、アンジェラ、お前はこれからはお母さんとふたりで暮らすんだろ!?」
「で、できればお母様とカインと3人で暮らせれば、良いかなぁって……」
「はあ?」
アンジェラがボソッと何か聞き捨てならないことを言った気がした。
「困りますカイン様! わたくしは勇者アベルから、『僕の女になれ』と言い寄られて困っているのです。どうか形だけでも、婚約者としての契りを……!」
「カイン兄様の婚約者は私です! おふたりとも、何をおっしゃっているんですか?」
「ちょ、ちょっと、アトラス帝国皇帝の命令は絶対なのよ! 私はカインと結婚しなくちゃならないの!」
3人の美少女が俺を奪い合おうと、俺をもみくちゃにしてくる。
いや、なにこれ、ど、どういう状況?
「俺の婚約者はセルヴィアだ!」
とりあえず全力で主張した。
「「うっ……!?」」
アンジェラとリディア王女は気圧されて、一瞬動きが止まる。
「カイン兄様!」
セルヴィアが満面の笑顔で抱き着いてきたので、俺は頭を撫でてやった。
「お取り込み中、失礼します。カイン様、勇者アベルから追放されたソフィー嬢が、ご到着されました。カイン様に協力してくださるそうです」
その時、【闇鴉】の一人が、入室してきて告げた。






