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3話。セルヴィアの秘めたる想い

【セルヴィア視点】


「大丈夫でございますか、セルヴィアお嬢様。この後、歓迎の宴がございますが……」

「はい……歓迎の宴には、必ず出席します。しばらく、ひとりにさせていただけませんか?」

「はっ! 何かご入用でしたら、なんなりとお申し付けください」


 執事のランスロットは、ていねいに腰を折って、退出しました。


 案内された部屋でひとりになった私は、多少冷静さを取り戻しました。

 といっても、まだ気持ちが入り乱れています。


「まさかカイン兄様が、レオン王子に逆らってまで、私を守ってくださるなんて……」


 一度、婚約を解消した上に、偽聖女の烙印を押された私が、カイン兄様に受け入れてもらえるか、ずっと不安でした。

 

 それを快く歓迎してくれたどころか、レオン王子からの命令まで拒否してくれるなんて……


 駄目です。

 思い出すだけで、涙が止まりません。

 

 この後、シュバルツ伯爵家の家族一同が集う歓迎の宴に出るため、早急に心を鎮めなければなりません。


 私は周囲に人の気配が無いことを注意深く確認しました。

 どうやら大丈夫そうです。


「【パッションフラワー】召喚」


 念じると、私の手元に青と白の混じった美しい花が出現しました。

 強い鎮静作用のある植物【パッションフラワー】です。


 効能を強化したその香りをかぐことで、私はようやく平常心を取り戻しました。


 これが1年前に覚醒した【世界樹の聖女】の力。ありとあらゆる植物を意のままに召喚して、操る能力です。


『聖女セルヴィア、貴様の役目はアトラス帝国に凶作と破滅を。我が王国には豊穣と繁栄をもたらすことだ。そのために、余の婚約者にしてやったのだ。ありがたく思え!』


 王宮で私を迎えたレオン王子の第一声がソレでした。

 彼は【世界樹の聖女】の力を、敵国との戦争に利用しようとしていたのです。


 でも、そんなのは絶対に嫌でした。

 

 聖女の力は、すべての人々を救済するために神様から与えられたモノです。それを大量殺戮のために使うなんて、信じられません。


 なにより、私は愛するカイン兄様と結ばれたかった。

 だから、この1年間、何をされても決して【世界樹の聖女】の力を使わずに、王宮の者たちに自分を偽聖女だと思い込ませました。


 そうすれば、レオン王子に婚約破棄してもらえ、カイン兄様の元に帰れると考えたからです。


 やがて人々から、私はレオン王子をたぶらかした偽聖女だと罵倒されるようになりました。

 狙い通りです。


 しかし……


『セルヴィア。偽聖女とはいえ、お前は美しい。喜べ! 妃にすることはできんが、余の愛人として、余を愛することを許してやろう。子爵令嬢風情には、この上もない栄誉であろう?』


 レオン王子は、こともあろうに私を愛人にすると、言い出したのです。

 しかも、酔った勢いで、私を押し倒そうとしました。


『兄様! カイン兄様!』


 私は恐怖し、思わず絶叫しました。


『なんだ? 余が抱いてやろうというのに、他の男の名を叫ぶだと?』

『……!』


 私が愛しているのはこの世でただ1人、カイン兄様です、と叫んでやりたかった。

 でもそうすると、カイン兄様にも害が及んでしまう可能性がある……!


 私は、迫り来るレオン王子に対して必死で抵抗し、絶対にあなたには屈しないと全力でレオン王子を睨みつけてやりました。


『貴様ッ! 余を愚弄する気か!? せっかく余が温情をかけてやったというのに……ッ!』


 レオン王子にとっては、それは無価値な偽聖女に対する温情であったようです。


『……このような屈辱は生まれて初めてだッ! おのぇえええッ! 必ず後悔させてやるぞ、偽聖女め!』


 レオン王子は激高して、立ち去りました。

 その後、私は王宮のパーティで、レオン王子から偽聖女と断罪されて、婚約破棄を言い渡されました。


「……ごめんないカイン兄様、私がうかつだったばかりに」


 あの時、乱暴されそうになって、思わず、ずっと胸に秘めてきたカイン兄様の名前を叫んでしまいました。

 そのために、カイン兄様を巻き込んでしまうなんて……


 罪悪感に押し潰されそうになります。

 おそらくレオン王子は、カイン兄様の手で私を死に追いやることが最大の復讐になると考えたのでしょう。


 でも……嬉しかった。


 絶望と同時に、抑えきれない喜びが溢れてきます。

 だって、カイン兄様も、私を変わらずに愛してくださっていたのですから。


「あの時、カイン兄様に渡した私の手紙の意味は……ちゃんと兄様に伝わっていたのですね」


 レオン王子の婚約者として、王宮へと召し上げられる前日、私はカイン兄様に手紙を送りました。


 婚約者であったカイン兄様に会うことは許されなかったためです。

 当然、手紙の中身も検閲されるため、カイン兄様に直接想いを伝えることはできませんでした。


『カイン兄様、私はレオン王子の婚約者となります。どうか、いつまでもお元気で』


 そう書いた手紙の封筒に、かすみ草の白い花びらを紛れ込ませました。

 かすみ草の花言葉は【永遠の愛】です。


「カイン兄様。セルヴィアは何があっても、あなただけを永遠に愛します」

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