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28話。セルヴィアはカインと身体の洗いっこをしたくて堪らない

【聖女セルヴィア視点】


 この遠征に出る際に、私はエリス姉様より、ある提案を受けました。


『戦で汚れたカインの身体をセルヴィアがキレイにしてあげたら、どうかしら!? きっとカインってば大感謝&大興奮して、いい感じの雰囲気になってセルヴィアとキスしてくれるに決まっているわ! もしかすると、その先にも行っちゃうかもね!』

『……ご、ごく。そ、それは妙案ですね』


『そうよ! 戦で殺伐としたカインの心と身体を癒してあげるのよ! 女の子に身体を洗ってもらうと、男の人はすごく喜ぶってカインの部屋にあった薄い本に書いてあったわ!』

『そ、そうなのですね。わかりました。カイン兄様に喜んでいただけるのなら。誰かの身体を洗ったりした経験はありませんが、がんばります』


 カイン兄様の部屋にあった書物の情報なら、間違いないことだと思います。

 兄様は、魔法、戦術、魔物の知識にも精通していらっしゃいます。きっと、そういった学術書の類なのでしょう。


 カイン兄様に喜んでいただけるなら、私はどんなことでもしたいです。


 ただ、キスどころか、これで完全に一線を踏み越えてしまうかも知れませんが……

 そう思うと、ドキドキしてしまいますね。


「どうですか? 兄様、気持ち良いですか? もっと、特別にキレイにして欲しいところとか、ありますか?」

「……い、いや、特に無いかな、ありがとう」


 しかし、現実はなかなかうまくいきません。


 3日前から毎晩、私はカイン兄様のたくましい身体を、こうやってタオルで拭っているのですが、特に何もしてこられる様子が無いのです。

 

 や、やっぱり、私のことを妹としてしか見てくださっていないのでしょうか?


 むむっ……恥ずかしいですが、兄様と距離を縮めるには、私から更に踏み込むしかありません。


 普段なら言えないような大胆なことでも、身体を清潔にするという大義名分があれば言えます。虐待ごっこで学びました。


「そ、そうですか? 今日はズボンも脱いでいただけませんか? だいぶ(汚れが)溜まっていらしゃるのでは?」

「いや、いい! ちょっと元気になりすぎているから、そこは絶対に触らないでくれ!」


 カイン兄様は絶叫しました。

 な、なぜ、そんなにも嫌がるのか、わかりません。

 兄様との間に、少し壁を感じてしまいました。


「子供の頃は、一緒にお風呂に入ったこともあったのに……」


 足を洗うことは、させていただけないのでしょうか?

 戦で酷使した兄様の両足は、パンパンになっているようです。


「できれば、私の手で硬くなった箇所をマッサージして差し上げたかったのに……」

「まっ、まままま、マッサージ!? どこを!? うっ、そんな傷ついた顔をされると……いや、絶対にダメだ! もう子供の頃とは、違うんだよぉおおおッ!?」


 兄様は両手をバタつかせて、慌てふためいています。


「そ、それにセルヴィアだって、自分の裸を他人に見られたりしたら、嫌だろ?」

「カイン兄様になら、まったく嫌ではありませんが……? そうだ。子供の頃、お風呂でやったように、身体の洗いっこしませんか?」

「えっ?」


 カイン兄様は、ピタリと硬直しました。

 私もかなり恥ずかしいですが、カイン兄様は真の英雄です。


 いずれ、兄様のすばらしさを知った女の子たちが、兄様の恋人になりたいと殺到して来るに決まっています。


 そうなる前に、兄様と最低でもキスできる関係になっていなくては、安心できません。

 婚約者といっても形式上の話で、幼馴染み以上、恋人未満なのが、現状なのだと理解しています。


 キスをするためには、まずはお互いのボディータッチを増やしていくことだと思います。そのためには、身体の洗いっこが一番です。


 そう思うと、だんだん興奮してきてしまいました。


「では、まずは背中……」

「む、無理無理無理無理ぃいいッ!」


 カイン兄様は全身全霊、全力で拒否しました。

 

「むっ……では、足だけとかでは?」

「足って、太もも? まさか、スカートをめくる……ッ!? いや、ダメダメ! エッチなのはイケないと思います! そ、そうだ! 頭だけとかは!?」

「頭はいつも兄様に、なでなでしてもらっていますが……」


 な、なかなかガードが硬いです。

 それに好きな人から無理とか言われると、やっぱりちょっと傷つきますね。


 でもこれで、カイン兄様と身体の洗いっこをした既成事実ができます。

 まずは少しずつ距離を詰めて、キスしていただけるようにがんばらなくては。


「わかりました。ではシャンプーをお願いいたします。あとで、屋敷のメイドたちに、カイン兄様と身体の洗いっこをしたと自慢しますね」

「うっ、そんな変な自慢は……まっ、まあいいか、ちょっと待っていて」


 兄様は立ち上がって、染髪剤を探し出しました。

 私は、ここでピンと閃きました。

 普段、持ち歩いていたあの薬を兄様に差し出します。


「兄様、これが染髪剤です」

「あっ、サンキュー」


 兄様は何の疑いもなく、【服を絶妙に溶かす魔法薬】を私の頭にかけました。

 ぐいっ、と身体を前に出して、私は薬液が身体全体にかかるようにします。


「えっ……ひゃあぁああッ!?」


 カイン兄様は顔を真っ赤にして、悲鳴を上げました。

 私の服が溶けて、下着と肌が露出します。


 虐待ごっこ用に作ったこの薬は、服がボロボロになって、見えそうで見えないギリギリの姿になるように絶妙な調整がされているのです。


『カイン様に大興奮していただけますぉおおッ! きっと、キスしてもらると思います!』


 と、開発者のリルは太鼓判を押していました。


「ほら私は兄様に、肌を見られても嫌じゃありません。むしろ、うれしい……って、あれ?」


 胸を張って、よく私の姿を見てもらおうとしたのですが……

 気づけば兄様は、鼻血を噴いて気絶してしまっていました。

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