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17話。セルヴィアはカインにキスしてもらいたくて堪らない

【姉エリス視点】


「今日も楽しかったわね! こんな毎日が送れるのもカインのおかげだわ! お姉ちゃん、ちょっとというか、かなり妬けちゃうけど、セルヴィアには大感謝しているわ! だって、カインが変わったのは、セルヴィアが戻って来てくれたおかげだものね!」

「えっ? いえ、特に私は何も……カイン兄様は、そんなにお変わりにならたのですか!?」


 街からの帰りの馬車で、私はセルヴィアの手を取って感謝を伝えた。

 セルヴィアは戸惑ったように目を瞬いている。

 

「そうよ! カインってば、別人みたいに剣術に打ち込みだしてスゴイ魔獣をやっつけちゃうし、薬売りの商売にも成功して、領内の評判も鰻登り! やっぱり愛の力は偉大よね!」


 カインは見た目も痩せて格好良くなった。

 そして、屋敷の使用人にもやさしくなって、今では、メイドの間でファンクラブまで結成されているわ。


 くぅうううううッ! 正直、血の繋がった姉弟でなければ、私がカインと結婚したいところよ。


「あまりにもうれしくて御用商人相手に、弟自慢大会を開いてしまっているわ! ……ところで、あなたたち、もうキスとかしたの? したのよね。どうだったのぉおおおおッ!?」


 私はズイッとセルヴィアに身を寄せた。

 ふたりの仲を取り持つためにも、ぜひとも聞いておきたいところだわ。


「いえ、そ、それが……カイン兄様は私にご自分から触れようとはなさらず、そういったことは一切ありません」


 セルヴィアはかなり気落ちした様子だった。


「緊急事態で、お姫様抱っこをしていただいたことがあったくらいです。後は、ううぅっ……」


 あっ、あちゃー。

 これは聞いてはいけないことを聞いてしまったかも……

 私はすぐさまフォローに回る。


「えっ? だってカインってば、セルヴィアとの仲をレオン王子に認めさせるために、日々頑張っているよね?」

「その通りなのですが……カイン兄様は、まだ自分はセルヴィアにふさわしい男になっていないと仰せで。それまでは、私に触れるようなことは決してしないと。そんなことは絶対に無いのに……」

「へ、へぇ〜っ」


 婚前交渉をしないのは、セルヴィアを大事に想ってのことだから、良いことだと思うけど……

 キスも無しだと、セルヴィアを不安にさせちゃうじゃないの?


「……この前、薬師のリルに【服を絶妙に溶かす魔法薬】を作ってもらって、カイン兄様に私を縛った上で、かけてくださいと要求したのが、イケなかったのでしょうか?」

「うっ、それはちょっと、踏み込み過ぎちゃった?」


 カインって、意外と純情なのよね。

 逆にセルヴィアは目的のために、周りが見えなくなるところがある気がするわ。


「あ、明らかにキスより、数段上の要求よね?」

「虐待ごっことして、最適だと思ったのですが。これで距離を詰めたかったのに、し、失敗しました……」


 セルヴィアは暗く沈んでいる。

 うぉ。ヤバい! 私の余計な一言で、ふたりの恋路を邪魔しちゃったら、大変だわ。


「だ、大丈夫よ。それくらい! カインのあなたへの愛は本物だわ! だって、早朝マラソンも素振り3000本の剣術修行も毎日欠かさせず行っているのよ。これって、もう愛が無ければ絶対に不可能だわ!」

「ありがとうございます。そ、そうですよね……」

「だから、変に不安に思うことも、焦る必要もないわ! だって、あなたたちは……!」


 『相思相愛』と言おうとして、私は言葉を飲み込んだ。


「はい。私は不安になっているのだと思います。もしレオン王子に私たちの関係がバレたらと……」


 セルヴィアはスカートをギュッと握った。

 セルヴィアがカインと、焦って距離を縮めたがるのも無理が無かったわ。


 何かの拍子に、ふたりはまた引き裂かれてしまうかも知れないのだもの。不安にならない方がおかしいわよね。


「それは……うん、大丈夫よ。偽の報告をレオン王子に送っておけば、バレっこないわ!」


 今のところ、レオン王子から不審がられている気配はないわ。

 以前、カインがレオン王子に思い切り媚を売っていたのが、功を奏しているみたいよ。


 なにか、三流の小物悪役みたいに、以前のカインはヘコヘコしていたのよね。アレもセルヴィアを守るための計算の内だったとしたら、すごいわ。


「はい。なにから何までありがとうございます!」

「街で素敵なドレスも買えたし! 帰ったら、さっそく着てみましょう。きっとカインってば、セルヴィアのかわいさに鼻血を吹き出すわよ!」

「クスッ……そうだと良いですね」


 そう言ってセルヴィアは微笑んだ。

 もうカインってば、せっかくセルヴィアが望んでいるんだから、キスくらいしてあげればいいのにね。


 よし、ここはお姉ちゃんである私が、一肌脱ぐしかないわ。

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