14話。ブラッドベアーを倒して新スキルGET
ドスドスと地響きを鳴らして、巨大な熊──ブラッドベアーが姿を現した。
どうやら、好物の血の匂いをたどってアッシュを追ってきたらしい。
「ああっ!? ね、姉ちゃん!?」
アッシュが心が張り裂けるような悲痛な声を上げた。
ブラッドベアーは少女を乱暴に抱えていたのだ。怪力によって、少女は失神してしまっている。
「こ、こいつは……まずいな」
人質がいるなど想定外の事態だった。
やはり、現実となった世界では、ゲームではあり得ないような状況が起きる。
アッシュの姉を巻き込んでしまうためセルヴィアの【アルビドゥス・ファイヤー】で、ブラッドベアーを攻撃する手は使えない。
なにより……
「カイン兄様、あの娘が血を吸われています!」
ブラッドベアーの背中より伸びた触手が、少女の身体に巻き付いて刺さっていた。ドクドクと脈打つその管によって、吸血しているのだ。
このままではアッシュの姉は、あと数分で命を落とすだろう。
さらにマズイことに、吸血行為によって、ブラッドベアーのステータス値にバフがかかり、強さが跳ね上がってしまっていた。
ぐぉおおおおおおん!
ブラッドベアーが片手を振りかざすと、爪を弾丸のように飛ばしてきた。【飛爪】という特殊攻撃だ。
「ふたりとも、下がれ! コイツは俺が相手をする!」
俺はセルヴィアとアッシュを庇うべく前に出た。
俺のスキル【矢弾き】は、飛び道具を弾く成功率を50%アップさせる。
これに剣技の命中率を30%上昇させるスキル【剣術レベル3】を組み合わせれば、飛び道具による攻撃を、ほぼ確実に無効化できた。
「はぁああああああッ!」
俺は剣をぶつけて、ブラッドベアーの爪を弾き飛ばす。
「なにぃいい!? あ、あんた、すげぇ剣士だな!」
「あんたじゃなくて、カインだ」
「ああっ、カイン……!」
アッシュが感嘆の声を上げるが、俺はそれどころじゃない。
ブラッドベアーが、咆哮と共に突っ込んでくる。
ゲームとは比べ物にならない迫力だ。ランスロットとの模擬戦を経験していなかったら、完全に呑まれていただろう。
セルヴィアとアッシュを守るために、俺は勇気を振り絞って迎え撃った。
「カイン兄様、無茶です!」
「大丈夫だ、やれる!」
ブラッドベアーの行動パターンは、敵が遠くにいれば【飛爪】。接近した場合は、初手で右腕の打ち下ろしを高確率で放ってくる。
これを躱すには、ブラッドベアーの左側に回り込むように動くのが最適解だ。
がぁあああああッ!
まともに喰らえば即死するであろう剛腕が放たれたが、俺は難なく避けることができた。
「ふんッ!」
そのままブラッドベアーの脇腹に斬撃を叩き込む。
鎧のように分厚い毛皮に阻まれるも、闇属性の追加攻撃によって、ヤツの脇腹が焼けただれた。
ブラッドベアーが苦悶の声を上げる。
「マジかよ、すげぇ!」
俺は追撃を叩き込むために、剣を振りかざした。狙うのはブラッドベアーの弱点部位である胸部だ。
ここに攻撃を当てればクリティカルヒットになる。
だが、その瞬間、予想外のことが起きた。ブラッドベアーが少女を盾にしたのだ。
「ぐぅっ!?」
俺は剣を強引に急停止する。
そこにブラッドベアーの剛腕が叩き込まれて、視界がブレた。
意識が霞むような衝撃。吹っ飛ばされた俺は、地面をボールのようにバウンドして転がる。
ヤバい。
「兄様!」
セルヴィアの悲痛な声が聞こえた。
ブラッドベアーが、俺にトドメを刺すべく突っ込んでくる。
その時、ブラッドベアーの身体に、無数の植物の蔦が絡みついた。
「カイン兄様を殺させはしません!」
セルヴィアの【世界樹の聖女】の力だ。
周囲の植物を操って、ブラッドベアーの突進を止めようとしてくれていた。
「はぁ!? まさか、植物を操っているのか!?」
アッシュが素っ頓狂な声を上げた。
「詠唱もなし、ユニークスキルの域も超えている! これって、まさか……!?」
どうやらセルヴィアの正体には勘づかれてしまったみたいだ。
くそぅ、俺が不甲斐ないばかりに……
朦朧としながらも、俺は【強化回復薬】(エクスポーション)を腰袋から取り出して飲んだ。全身に活力がみなぎり、致命的だったダメージが嘘のように回復していく。
ブラッドベアーが、力任せに植物を引き千切って迫ってきた。
「くぅううううッ!」
セルヴィアは全力を尽くしているが、まだ聖女の力を完全には使いこなせておらず、パワー負けしていた。
だが、ブラッドベアーの動きは、蔦の拘束によってかなり鈍っていた。
よし、これならやれるぞ。
「はぁああああああ──ッ!」
俺は地面を蹴って、猛然と突撃した。
ブラッドベアーは瀕死の俺が、突如元気になったため、完全に意表を突かれたようだ。
俺はブラッドベアーの背後に回り込みながら、吸血触手を斬り裂く。
ごぉあああああっ!
ブラッドベアーが剛腕を振り回すが、かいくぐって、落下した少女をキャッチした。
ブラッドベアーのこの攻撃モーションは、下に回避するのが正解なのだ。
「セルヴィア、この娘を頼む!」
「はい!」
セルヴィアの操る植物の蔦が、少女を優しく包んで連れ去った。
「姉ちゃん!」
アッシュが感激の声を上げる。
「さあ、これで人質はもういないぞッ!」
俺は無数の斬撃を、ブラッドベアーに浴びせた。もう何の遠慮もいらない。
ごぁああああああッ!
ヤツは必死に反撃するも、攻撃パターンと攻撃モーションを見切っている俺には当たらない。
ブラッドベアーの身体のアチコチから闇の炎が噴き上がって、肉体が崩壊していく。生命を蝕む闇の力の真骨頂だ。
「セルヴィア。手を貸してくれ、トドメだ!」
「はい、カイン兄様。【アルビドゥス・ファイヤー】!」
俺の意図を察したセルヴィアが、ブラッドベアーの全身を猛火で包んだ。
苦痛にのたうちまわるヤツは、弱点部位である胸部に対するガードを解いた。
俺は渾身の刺突を、ブラッドベアーの胸部にお見舞いした。【黒月の剣】による闇の力が、ヤツの心臓を蝕み、破壊する。
ブラッドベアーは断末魔を上げて、大地に倒れる。
「やりました! カイン兄様ぁああッ!」
セルヴィアが歓声を上げる。
俺とセルヴィアが力を合わせて掴んだ勝利だ。
『レベル差30以上の魔物に勝ちました。
おめでとうございます!
スキル【ジャイアントキリング】を習得しました。
レベルが上の敵と戦う際、HPが半分以下になると攻撃力と敏捷性が100%上昇します』