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13話。薬師の少年アッシュを助ける

「って、なんでアンタは、首輪なんてしているんだッ!?」


 少年はセルヴィアの姿に怪訝そうな顔をした。


「……それはセルヴィアが、俺に虐待される奴隷だからだ」


 レオン王子を欺くため、俺はセルヴィアを虐待していることにしていなければならなかった。

 そのため、セルヴィアには鎖付きの首輪を着用してもらっていた。


「はい、私はカイン兄様のモノです。この前は、縄で縛っていただきました。ちょっと痛かったですけど、すごく楽しかったです」

「いや、人に誤解されるようなことは!? 誤解じゃないけどぉおおッ!?」

「は、はぁ!? こんなかわいい姉ちゃんを奴隷に? や、やっぱ、お前は悪徳貴族じゃねぇか!?」

「違います。カイン兄様は世界一格好良い、私の兄様です。悪徳貴族なんかじゃありません。訂正してください!」

「はぁ!? いや、アンタ、虐待されているんだろ!?」


 セルヴィアの主張に、少年は面食らっていた。

 うん、まあ、俺も訳がわからないが……これで一応、レオン王子の命令に従っている体裁は整うから、良しとしよう。


「い、いや、それよりも! 俺の姉ちゃんが魔獣ブラッドベアーに捕まっているだ! 領主は領民を守るのが仕事だろ!? 助けてくれよ!」

「姉ちゃんだって?」


 ブラッドベアーは人間の生き血を吸う魔物だ。

 すぐに救出しないと、殺されるぞ。


「姉弟で、立ち入り禁止の森に入っていたのですか?」


 セルヴィアが咎めるような目を向けた。


「悪いかよ? 俺たちは薬師なんだ。薬草を切らしちまったら、おまんまの食い上げだ。魔物から身を隠しながら薬草を採取する心得くらい持ってら。でも、ヤツの嗅覚が予想以上に鋭くて……くそぅ!」


 少年は悔しそうに歯軋りした。

 それから、俺に向かって必死に頭を下げる。


「もし、姉ちゃんを助けてくれたら、なんでもする! アンタの奴隷にでもなんでもなってやるから! だから頼む、姉ちゃんを助けてくれ!」 

「奴隷になんかなる必要はない。俺たちは元々、そのブラッドベアーを退治しに来たんだ」

「そうです。私たちに任せてください」

「ほ、本当か!?」

「それで、どこで姉さんは捕まったんだ?」


 俺は少年に【強化回復薬】(エクスポーション)を渡しながら尋ねた。


 俺にもエリス姉上がいるから、彼の気持ちは良くわかった。きっと、姉弟で助け合いながら生きてきたんだろう。

 なら、絶対に助けてやらないとな。


「き、貴族が施しをくれるのか!?」

「怪我をしているんだから、当然じゃないか?」


 少年の身体には、ブラックウルフの爪で引き裂かれた痛々しい傷があった。

 今は興奮のあまり痛みを感じていないようだが、すぐに治療する必要がある。


「あ、ありがてぇ! 姉ちゃんは2時間くらい前に、この先の川辺で! 俺ひとりで逃げて、クソォオオオ!」

「気持ちは痛いほどわかります……でもカイン兄様に対して名乗りもしないのは、失礼ではありませんか?」

「わ、悪い。俺はアッシュだ、って……は!?」


 【強化回復薬】(エクスポーション)を飲むと、アッシュの傷が一瞬で消えた。


「な、なんだコレ!? この強烈な回復効果は……マンドラゴラの成分が入っているのか!?」


 アッシュは薬師だけあって、【強化回復薬】(エクスポーション)の成分を一発で見破ったようだ。


「入手難易度Sランクの超高級素材だぞ! それを、こんなポンと施してくれるなんて……まさかマンドラゴラを大量に持っていたりするのか!?」

「なかなか詳しいですね……」


 セルヴィアが困ったように俺を見上げる。

 まさか、【世界樹の聖女】の能力で召喚したものです、とは言えない。

 アッシュは驚きと興奮に身を震わせていた。


「詳しいのは当たり前だ。俺は薬師だぞ。自慢じゃないが、【薬師レベル4】のスキルを持ってる! で、いったいマンドラゴラをどこで手に入れんだ!? この森に生えているのか!?」

「それは……」


 まいったな。まさか、そこに食いついてくるとは思わなかった。

 【薬師レベル4】とは、子供と思えない達人だ。それで、薬の素材について並ならぬ関心があるのか。


「この回復薬は成分はすごいが、作り手はまるでダメだな! 俺と姉ちゃんなら、もっと効能が高い回復薬が作れるぜ! なにしろ、俺たちはこの道80年の大ベテランだからな! だから、一刻も早く姉ちゃん助けてくれよ!」

「この道80年だって? まさか……アッシュたちはエルフか?」


 アッシュの顔は人とは思えぬほど端正で、帽子から覗く耳は尖っていた。

 それは森で自然と調和して生きる種族エルフの特徴だ。


「うっ、まるでダメとは……カイン兄様への愛を込めて作ったのに」


 セルヴィアは、軽いショックを受けていた。


「その通りだぜ。姉ちゃんは、もっとすごい【薬師レベル5】だぞ!」

「なに!?」


 だとしたら、幸運だった。最高品質の回復薬が作れるじゃないか。

 

 その時、森を震撼させる雄叫びが轟いた。

 その雄叫びには、ゲーム時代から聞き覚えがあった。魔獣ブラッドベアーだ。

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