12話。セルヴィアの火力特化型ビルド
「まさか立ち入り禁止のハズの森に、子供がいるのか!?」
「……はい、カイン兄様。木の精霊が教えてくれました。ここから北に約400メートルのあたりで、ブラックウルフの群れに少年が襲われているようです」
セルヴィアが木の精霊から情報を聞き出してくれた。
【世界樹の聖女】である彼女は、草木の精霊たちと意思疎通でき、その加護を得られるのだ。
俺は考えるより先に行動していた。
「きゃ!? カイン兄様!?」
セルヴィアをお姫様抱っこして、駆け出す。向かうは少年の救出だ。
「出たとこ勝負で悪いセルヴィア。魔物が見えたら、【アルビドゥス・ファイヤー】を決めてくれ!」
魔獣の群れを相手にするなら、剣でチマチマ攻撃するより広範囲殲滅力の高い、【アルビドゥス・ファイヤー】の出番だ。
少年が肉食のブラックウルフに襲われているなら、一刻の猶予もない。
「たとえ倒せなくても、敵の注意をこちらに引き付けることができればいい。そうすれば、俺がなんとかする!」
「は、はい。わかりました。ぶっつけ本番ですが、やってみます!」
セルヴィアが俺にしがみつきながら頷いた。
「ああっ、頼む! 少年に火炎を当てないようにだけ注意してくれ! アルビドゥスの花の精霊と意思疎通ができれば、制御できるハズだ!」
「はい!」
俺は疾風となって森を駆け抜ける。
毎日、走り込みを続けたかいがあった。体力と脚力が確実に向上していた。
やがて、視界が開けた場所に出ると、狼型の魔獣の群れに少年が取り囲まれていた。
「いきます【アルビドゥス・ファイヤー】!」
セルヴィアが手をかざすと同時に、【プチファイヤ】の小さな火球が飛ぶ。それが召喚されたアルビドゥスの可燃性ガスに引火し、爆発的に燃え広がった。
「なっ、なななんだ!?」
12歳ほどの少年は、腰を抜かしていた。
自分に牙を向けていたブラックウルフたちが、突如、業火に包まれたのだから無理もない。
「……こ、これは。予想以上の火力ですね」
セルヴィア自身も驚きに目を瞬いてる。
「おい、お前らの相手はこっちだ!」
俺は突っ込んで行って、セルヴィアが討ち漏らした敵を片手で叩き斬った。
ぎゃぅうううん!?
ブラックウルフどもは、血飛沫を上げると同時に、漆黒の炎に包まれた。俺の【黒月の剣】による闇属性の追加ダメージだ。
奴らは、骨も残さずに消滅する。
「す、すげぇ!?」
少年は目を丸くしていた。
「Bランクの魔獣ブラックウルフを片手で一撃ですか……カイン兄様の剣技はすごいです」
「いや、今回はセルヴィアのお手柄だろ?」
俺はセルヴィアをゆっくりと地面に下ろす。
今さらながらに、セルヴィアの柔らかい身体の感触を意識して、俺はドギマギしてしまった。
「はぅっ。できれば、カイン兄様にもっと抱っこされていたかったです」
「い、今のは緊急事態だったから……」
そういえば、女の子をお姫様抱っこをするのなんて、前世を含めて初めての体験だった。しかも、リアルに降臨した最推しヒロイン相手にやってしまうなんて……
ヤバい、悶絶してしまいそうだ。
「でしたら、緊急事態も悪く無いですね」
セルヴィアはうれしそうに微笑んだ。
「ちょ! あ、あんたらなんだよ!? すげぇ魔法と剣……凄腕の冒険者か!?」
少年は尻餅をついたまま叫んだ。
「いえ、冒険者ではありません。私はセルヴィア・フェルナンド。貴族です」
「同じく、俺はカイン・シュバルツ。ここの領主の息子だ」
少年に手を差し伸べながら、俺は名乗った。
「なんだって、この森に入っていたんだ? ここは今、危険な魔獣が出るんで立ち入り禁止になってるんだぞ」
「カイン・シュバルツ? あ、あの評判の悪い……!?」
少年は目をパチクリさせながら、俺の手を取った。
評判が悪いか……
今までの俺は、屋敷の使用人や領民に当たり散らしたりしていたからな。この評価は仕方がない。
苦笑しながら、俺は少年を立たせてやった。
風体からして、多分、流れ者だろう。
そのため、俺を過度に恐れる必要は無いらしい。
まあ、そっちの方が俺も気楽で良いが……
「むっ、カイン兄様に助けていただいたのに、その物言いは失礼ではないですか?」
セルヴィアが不機嫌そうに眉根を寄せた。
「カイン兄様は世界一格好良くてやさしい、この世で最高の男性なんですよ」
「うおっ!?」
俺はびっくり仰天した。
初対面の相手にのろけ過ぎじゃないか? う、うれしいけど。