11話。セルヴィアと一緒に魔獣退治に行く
「はぁッ!」
振り下ろした剣が、鉄の芯入りの藁人形を両断した。藁人形は真っ黒い炎に包まれて、跡形もなく焼滅する。
剣技に闇属性ダメージを追加する俺のユニークスキル【黒月の剣】の効果だ。
「お見事でございます。カイン坊ちゃま!」
ランスロットの掛け値なしの賞賛がとんだ。
「やっぱり、剣術スキルと連動して【黒月の剣】も、パワーアップしているな!」
【黒月の剣】の威力が【剣術レベル3】を習得したことで、激増していた。
剣術スキルの効果は、剣技の攻撃力と命中率をアップさせるというものだ。もしや、この補正は【黒月の剣】の追加ダメージにもかかるのでは? と考えていたが、大当たりだった。
スキルは闇雲に習得すれば良い訳ではない。
その組み合わせによって、相乗効果を発揮するモノを習得するのが、強くなる秘訣だった。
「はっ、まさしくカイン坊ちゃまこそ、剣の申し子でございます!」
ランスロットは感嘆に声を震わせる。
「なにより、たった2週間で【剣術レベル3】に到達してしまわれるとは……ッ! 末恐ろしいお方です」
「ありがとう、これもランスロットのおかけだ」
スキルを効率良く習得するためには、そのスキルを所持している者に師事することだ。
すると、スキル熟練度の獲得効率が激増する。
俺は剣術スキルに適正があり、スキル熟練度の獲得効率が元々かなり良かったみたいだが、それに加えてランスロットという優れた師に恵まれたことで、短期間で【剣術レベル3】になれた。
本当にランスロットには感謝しかないな。
「カイン坊ちゃま! 心技体のうち、剣士にとっては心がもっとも重要です。あなたさまはその得難き高潔な心を持っていらっしゃる。あなた様のようなお方を弟子とできたことは、このランスロットの人生最大の誉れでございます!」
「そ、そんな大げさな……」
俺が頭を下げて礼を述べると、ランスロットはなぜかいつも感激していた。
ごく当たり前のことをしているだけなのに、訳がわからない。
「だけど、ここから先は実戦経験を積まなくちゃだろう?」
俺はランスロット相手に摸造刀を構えた。
次は、ランスロットとの模擬戦だ。
まだランスロットには、まったく勝てる気がしないが……
ゲームと違って自分の強さが、ドンドン向上していくのが実感できるのが楽しい。
これは前世も含めて、初めての体験だった。
「その通りでございます。しかし、Aランクの魔獣退治とは思い切りましたな」
「ランスロットが父上を説得するのを手伝ってくれて助かったよ」
正直、あそこまで強く推してくれるとは思わなかった。
「それは無論。カイン坊ちゃまが、あそこまでおっしゃるからには、勝算がお有りなのでしょう?」
「バレたか……」
ブラッドベアーは魔法が使えず攻撃パターンをあまり持っていないため、対処法を熟知していれば、それほど恐ろしい相手ではない。
にも関わらず、Aランクに分類されているため経験値が非常に美味しかった。レベルアップのためのボーナスモンスターだとさえ言えた。
しかも、今なら、おそらくあの超レアスキルの獲得条件も満たせる……
ここで一気に強くなるためには、多少のリスクを負っても倒しておきたい相手だった。
「私はカイン坊ちゃまこそ、真の英雄になるべく生まれてきたお方だと信じております。ならば、その覇道を阻むようなマネは無粋というもの。行ってらっしゃいませ!」
☆☆☆
次の日、準備を終えた俺とセルヴィアは、ブラッドベアーの巣食う森にやってきた。
「カイン兄様とデート。うれしいです」
「う、うんっ、そうだな……」
セルヴィアが俺にピタリと身を寄せてくるので、ドギマギしてしまう。今の彼女は、動きやすさを重視した軽装だった。
「それにしても、【世界樹の聖女】の力はすごいな」
「カイン兄様をお迎えすべく、みんなには道を開けてもらっています」
セルヴィアは得意げに鼻を鳴らした。
鬱蒼と広がる森は、本来なら歩きにくいことこの上ないんだけど……
セルヴィアの【世界樹の聖女】の能力により、森の木々や草花が、俺たちのために道を開けてくれていた。
「えへへっ、草木に囲まれていると、とっても心地良いです。森は私の味方なのだと、実感できます」
今、この森は冒険者ギルドによって立ち入り禁止区域に指定されているので、人が入ってくる心配はまず無い。
だから、【世界樹の聖女】の力を遠慮なく使うことができた。
植物を支配する【世界樹の聖女】は森の中では、まさに無敵の存在だ。
「それで、多分、このあたりに生えているハズなんだけど……」
「カイン兄様、何を探していらっしゃるのですか?」
「【森の破壊者】アルビドゥスの花って、知っている?」
「えっ? なんですか? それは……」
ふつうは知らないよな。ゲームでも見落としてしまいがちな採取アイテムだし。
「揮発性の油を出して自然発火する植物なんだ。それで自分ごと周囲の木々を焼き尽くす。でも、アルビドゥスの種は強い耐火性を持っているから、灰にした植物を養分にしてアルビドゥスは繁殖するんだ」
「そ、そんな他者との調和を無視した花があるんですね」
セルヴィアは絶句していた。
「うんっ。驚きだろう? ちなみに花言葉は【私は明日死ぬだろう】だ」
「トラウマになりそうな花言葉ですね……それで【森の破壊者】ですか」
「でも、これが火力特化型の【世界樹の聖女】ビルドの肝になってくる。あ、あった、アレだ!」
俺は森の中で、白い花弁に赤いアクセントが入った可憐な花を見つけた。
セルヴィアは植物を召喚することができるが、その条件として対象の植物について知っていなければならない。
それには実物に触れてもらうのが一番だ。
俺はアルビドゥスの花を手折ると、セルヴィアに渡した。
「い、意外ときれいなお花ですね。カイン兄様が贈ってくれるなら、どんなお花でも大歓迎ですが……」
恐ろしい逸話を聞いていたので、セルヴィアはやや及び腰だった。
「い、いきなり燃えたりしませんか?」
「もちろんだとも。この花は高温の環境にならないと自然発火したりしない」
ゲーム内では真夏になると、自然発火する演出が見られたが、幸い今はまだ春だった。
「なら安心ですね。ええっと、はい、このコも私の言うことを聞いてくれるみたいです」
セルヴィアはアルビドゥスの花をジッと見つめた。
「このアルビドゥスの可燃性ガスを召喚して、燃焼力を強化。火の魔法【プチファイヤー】で着火する。というのが、セルヴィアの戦闘スタイルになる。召喚するのは無色の気体だから、【世界樹の聖女】の能力を使っているなんて、誰にもわからないだろう?」
「なるほど、さすがはカイン兄様です! ちょっと扱いが難しそうなコではありますが、使いこなしてみせます!」
セルヴィアは瞳を輝かせた。
ゲームでのアルビドゥスの燃焼力は、すさまじいの一言だった。
これに初級魔法【プチファイヤー】と、スキル【高速詠唱】を組み合わせた特殊ビルドが、とにかく強かった。
なにせ、ほとんどMPを消費することなく、タイムラグも無しで、強烈な爆発を起こしたり、広範囲を焼き尽くす、といったことができるのだ。
さらに、これにあるスキルが加わると、とんでもないシナジーが……
その時だった。
少年の大きな悲鳴が聞こえた。