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三題噺もどき2

現実

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくさんじゅうなな。

 


 ゆっくりと。

 しかし確実に。

 現実へと引き戻されていく感覚。

 ここがどこかは知らないし。

 なぜここに居るのかは分からない。

 でも。それでも。

 現実よりは遥かにマシなんだ。

 だから、だから。

 だから――



 ―――っ!!」

 びくりと体が跳ねたのが分かった。

 その時、手に持っていた何かを手放し、落とした。

 かなり寝苦しかったのか、ジワリと汗をかいている。

 もしかしたら、急に体温が上がったのに体がなんとか反応を返しているだけなのかもしれない。耳にまで響いてくるこの音は、心臓が打つ音だろう。

 身体が跳ねたときに心臓もはねたのかもしれない。

 逆かもしれないけど。

「……」

 というか、いつの間に寝ていたんだろう。

 よく見たら、ベッドの上に寝転がっていすらいない。

 自室の床に座って、頭と腕だけをベッドの上に乗せた状態で落ちていたようだ。

 フローリングの床に直に座っていたので、股関節のあたりが痛む。

 元々ここは痛みやすいのだが、今日は格段に痛む。

 一体何分寝ていたんだ…いや、何時間か?

「……」

 未だ、早鐘を打ち続ける心臓の音を聞きながら、ゆっくりと頭を起こす。

 首も痛い……。

 幼い頃、事故に巻き込まれたせいで、首を回すなと父に言われ続け早数十年。

 こうやって寝ることもあれば、猫背なこともあり、首の痛みは日々酷くなっている。

 …とはいえ、日常生活に支障はないし、こうして酷使じみたことをしない限り、酷くはならない。違和感は残れども。

「……」

 その事故だって、乗っていた車に後ろから追突されて、首を痛めたと言うだけで、さして酷いものでもない……と私は思っている。

 まぁでも、痛むときは痛むし。それこそ、首を回した時に骨が削れたんじゃないかという程の音が鳴ったりするときもあるにはあって。その後はまぁそれなりに気分は悪くなる。

 その体調不良も、数分で治まるが。

「……」

 ま、ようは気にする必要性はあれども、そこまで神経質に気にするほどではないということだ。

 ……私は、そうやってきている。よくないだろうけど。

 自分の身だ。

 好きにする。

「……」

 しかし、視界が霞んでいるというか、ぼんやりしている。

 はっきりとモノが見えない……。

 頭を上げた視界の先に、左腕があるようだが、ぼんやりとした輪郭しか見えない。

 何を落としたのかも確認したかったが、それも見えない。

「……」

 ちなみに、右腕は指先が固いヒヤリとしたものに触れている感覚がしているので、床の上に落としているんだろう。

 ということは、左腕を枕にして、落ちたのか。

 どうりで、左ひじが痺れている上に、痛い。

「……」

 ちょっと寝ただけでこの有様だ全く……ちょっとではないかもしれないが。

 自分の身とは言え、好きにしすぎだよなぁ。

 ただでさえ、関節は弱いと言われて、体力もないし、筋力もないしで、痛いみやすいのに。

 だからと言って、大事にしようとか、気を付けて動こうとか思わないあたりが、私なのだけど。

「……」

 ようやく、心臓の音が耳から遠のいてきた。

 色々と少し落ち着きを取り戻しつつある。

 節々の痛みもまぁ、割とマシになってきた。痛いのに変わりはないが。

「……」

 しかし、視界がいまだに戻らない。

 頭はとうの昔に起きているし、体なんてたたき起こされたようなもんだろう。

 普段クリアに見えているものが、未だに見えないのはなんだ……。

「……ぁ」

 眼鏡かけていないな、私?

 基本的には、コンタクトをつけているんだが、今日は特に出る予定もなかったので眼鏡のままだったはずだ。

 予定がなくとも、眼鏡をかけた自分の顔が嫌いで、コンタクトをするようにはしているが、今日は気が乗らなかったのだろう。

 それを、どこかに置いたか、落としたか……。

 眼鏡をどうにかすると言う理性はあったのに、ベッドに入ると言うのは働かななかったなんだな。

「……」

 しかしどこだ……。

 かなり視力が悪いので、探すのにも一苦労だ。

 置いた記憶も落とした記憶もないからな……。

「……」

 とりあえず、眼鏡を探ろうと思い、ベッド上に置いてあった左腕を伸ばしながら。

 シーツを撫でるように腕を滑らせていく。

 お気に入りのさらさらシーツである。

 んー……。

 …………。

 あ、あった。

「……」

 伸ばした腕の先に当たったつるを手に取り、レンズを触らないようにしながら、持ってくる。

 片方だけが折りたたまれていたそれを、開き、レンズが見えるように間近に見せる。

 レンズが汚れていないかを確認……ん、まぁ大丈夫だろう。

「……」

 つるを耳にかけながら、鼻あてを文字通り鼻先に当てる。

 それをそのままに、鼻筋に沿うように持ち上げていく。ピタリと止まるところまで。

 ズレていないことをなんとなく確認して、手を放す。

「……ぁ」

 そこでようやく視界がクリアになり。

 目の前に広がる惨状と。

 直前までの記憶がよみがえる。

「……っ」

 それを待ってましたと言わんばかりに。

 右腕に痛みが走り、ピクリと跳ねる。

 床に触れた指先が、ぬるりと何かに触れる。

 これのせいで落ちたのか。

 はたまた、単純に眠かっただけなのかは、定かではないが。

「……」

 ベッドの上には、起きた瞬間に手放したのであろう。

 カッターがころりと、落ちている。

 出された刃先は、少し黒ずんでいる。

 ま、安物だし。すぐサビるんだろう。

 ……こんなことしてりゃ尚更。

「……」

 ズキズキと痛む右腕を動かし、視界に入れる。

 止まっているようなので、もう動いても平気だろう。

「……ふぅ」

 それり、喉が渇いて仕方がないのだ……。

 そういえば、冷蔵庫に買い置きのミルクティーがあったはずだ。

 こういう時は、好物を口に入れて気を紛らわせるに限る。






 お題:ミルクティー・現実・カッター

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