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第9話 天贈の儀2


 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。


 気がつけば俺は教会の入り口に置かれた長椅子の上で仰向けになっていた。


 その横では父上と神父様が話をしている。


 どうやら天贈の儀は終わったらしい。


「ようやく目を覚ましおったかこの軟弱者め」


 俺が目を覚ました事に気付いた父上の口から出た最初の言葉は不甲斐ない俺への叱責だった。



「それで神父どの、こやつにはどんなスキルが与えられたのだ?」


「ほっほっほ、そんなに慌てなさるなエバートン侯爵。どれ、ルシフェルトどのが目を覚まされた事だしスキルの確認を行わせて頂こうか。……リサーチ」


 神父は俺の額に手を翳して鑑定魔法の呪文を詠唱した。

 俺の額の上に魔方陣を模した幾何学模様と文字が浮かび上がる。

 神父は「ふむふむ」と頷きながらその文字を読んでいる。


 手に入れたスキルによって俺の進退が決まる。

 俺は祈るような気持ちで鑑定結果を待った。


「むむむ……!?」


 徐々に神父の顔が強張っていくのが見えた。

 その異常を察した父上が神父を問い質す。


「神父どの顔色が悪いですぞ。何か良からぬ結果でも見えましたかな?」


「う……はっ!?」


 神父は父上の言葉ではっと我に返った。

 そして身体を震わせながら俺に人差し指を突き付けて言った。


「あ、悪魔だ……誰か早くこの者を殺せ!」


 普段の温厚な人柄からは考えられないほど豹変した神父の様子に教会の中がどよめく。


「神父どの突然何を言い出すのだ。疲れているのですか?」


「わ……私は正気ですよエバートン侯爵。この者はこの世界に破壊をもたらす悪魔……いや、破壊の権化だ……生かしておけば世界の災いとなるであろう」


「神父どの、いったい息子に何を見たのです?」


「はぁ、はぁ……この者が授かったスキルは……【破壊の後の創造】じゃ……なんと禍々しい……」


「【破壊の後の創造】だって?」


 父上は連れてきた使用人たちと顔を見合わせた後、じっと俺の顔を覗きこんだ。

 それはとても血肉を分けた実の息子を見るような目ではなかった。

 まるで恐ろしい化け物を見るような目だ。


 破壊の後の創造。

 全てを破壊した後に己の望んだままの世界を創り上げるという概念だ。

 かつてアガントス王国はそのスローガンを掲げた魔王の侵略によって滅亡の危機に瀕した歴史がある。

 その単語を耳にすれば普段は豪胆な父上でも冷静ではいられなかった。


「馬鹿な、落ちこぼれとはいえこの私の息子が悪魔の化身だと言うのか?」


「そうです。エバートン侯爵にも心当たりがお有りでしょう」


「むう……確かにこやつは神聖魔法も碌に使えないばかりか、逆に黒魔法を使って私の屋敷の中を破壊した事は一度や二度ではない……」


「さあさあ、この世に災いを振りまく前に殺してしまいなされ!」


「ぐ、ぐむ……しかし我が身内からそのような者が現れるなど信じられぬ……」


 当事者である俺の意思を余所に目の前で物騒な会話が続けられている。

 このままでは俺は侯爵家を勘当されるどころの話ではなくなる。


「父上、神父様、俺は世界の破壊など考えた事もありません。どうか俺の話を聞いて……」


「お前は黙っていろ!」


 俺は必死で弁明の言を振るおうとしたけど、父上がそれを許さなかった。


「神父様、エバートン侯爵、どうなされました!」


 騒ぎを聞きつけた教会の警備兵たちが礼拝堂の中になだれ込んできた。


「こやつは悪魔の化身だ、ひっ捕えろ!」


「ははっ!」


 警備兵たちは神父の指示で無抵抗の俺を乱暴に取り押さえ荒縄で縛りつける。


「なんだなんだ?」

「あれはルシフェルトじゃないか?」


 教会の中がこれだけ騒がしくなれば次々と野次馬も集まってくる。

 そして少し遅れてやってきたのはシスターフローラだった。


「えっ……ルシフェルトさんがどうして……神父様、これはいったいどういう事ですか?」


「フローラ、やはりこやつは世間の噂通り悪魔の化身だった」


「そんなはずはありません! ルシフェルトさんはいつも人々の為に苦手な神聖魔法を覚えようと努力されてたんですよ!」


「フローラ、君は少し先の未来を予測することができる魔法が使えましたね。それでこやつの未来を映し出してみてくれぬか」


「はい……ルシフェルトさん、大丈夫ですよ。すぐに誤解が解けますからじっとしていて下さいね。……ビジョン!」


 フローラは俺の額に手を当てて念じると、目の前の空間に映像が浮かび上がった。

 皆がその映像に注目する。


 そこに映っていたのは傷を負っている子供と俺だった。


 映像の中の俺は子供たちに向けて手を翳した。

 その顔は薄っすらと笑みを浮かべているようにも見える。


「何をするつもりだ?」

「まさか……」


 次の瞬間、俺の手から放たれた漆黒の魔力は子供たちを一瞬にして吹き飛ばした。


「きゃああああ!?」

「こ、これは……う……うえぇぇっ」


 あまりにも酷い光景に皆目を背け、中には嘔吐をする者もいる。


「もういいフローラ、映像を消しなさい!」


「は、はい……」


「これではっきりしましたな。ビジョンの魔法で映し出されるのはこのまま時が流れれば必ず起きる未来。それを阻止する為には元凶であるこやつを排除するしかない」


「ルシフェルトさん……信じていたのに……」


 今この場にいるすべての人間が……フローラですら俺に恐れと軽蔑の眼差しを見せる。


「違うんだフローラ、俺は絶対にこんな酷い事をするつもりはない! これは何かの間違いだ!」


「ルシフェルトさん……でも……私の魔法は絶対なんです……」


「悪魔の言葉に耳を貸す必要などない、連れて行け!」


「神父様!」


 俺は一切の弁明も聞き入れられないまま連行され、牢獄に繋がれる事になった。


 瞬く間に世論は俺を危険人物そして排除する意見一色に染まった。


 そしてその後裁判にかけられ国外追放の判決を言い渡された結果今に至ると言う訳だ。



 【破壊の後の創造】スキルの効果を理解した今なら分かる。

 あの時ビジョンの魔法で映し出されたのは俺が怪我をした子供を【破壊の後の創造】スキルで治療している場面だ。

 途中で映像を消さずにちゃんと最後まで見てくれれば分かって貰えたのに。


 俺の話を静かに聞いていたハッサムとレミュウは、俺の身に起きた理不尽な出来事をまるで自分の事のように怒りを露わにする。


「酷過ぎる……それってただの誤解じゃない」


「【破壊の後の創造】ですか。以前私達魔族を支配していた王がそのようなスローガンを掲げて人間の国を侵略した事もありましたね。彼の者はそういったスキルを持っていたという事ではなく、あくまで人間を滅ぼした後に力で自らが望むままの世界に創り変えようと企てていただけですが。だとしたら申し訳ない、ルシフェルトさんが人間たちに危険視されたのは我々魔族にも責任がある」


 ハッサムさんは深々と頭を下げるが、古の魔王の所業なんて今の彼らには何の関係もない話だ。

 俺はゆっくりと首を横に振って彼の手を取った。


「あなたたちのせいではありません、頭を上げて下さい」


「しかしこのままでは私たちの気が済みません。そうだ、この後行く当てが無いのでしたら私たちの村にいらっしゃいませんか? 大したおもてなしはできませんが、歓迎させて頂きます」


「本当ですか? それは助かります」


 願ってもない申し出だった。

 俺は二つ返事でその提案を受けた。


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