第5話 破壊の後の創造2
グリフォンは何事もなかったかのように真っすぐに俺を見下ろしている。
全身がバラバラの状態から蘇ってくるなんて全くの想定外だ。
スライムを代表する不定形の魔物や、プラナリアのように再生能力に優れた軟体動物系の魔物もいるにはいるが、どう考えてもグリフォンはそういった類の魔獣ではない。
それとも不死の魔物──アンデッド──だとでもいうのだろうか?
考えていても仕方がない。
こうなったら乗りかかった船だ、俺の魔力が尽きるまで破壊し続けてやる。
「来いよ化け物、もう一度ぶっ飛ばしてやる!」
俺はグリフォンに手を翳し魔力を込める。
「どうした、さっさとかかってこい!」
「グルルル……」
しかしグリフォンは俺を見下ろすだけで襲ってこない。
先程とは打って変わって威圧感は感じられない。
いったいどういう事だろう。
この魔獣の谷は弱肉強食の世界だ。
魔獣達は自分よりも強い者に従う。
それはつまり俺の事を自分よりも強者だと認めたという事だろうか?
でもこれほどの再生能力があるのなら俺の黒魔法など脅威ではないだろうに。
「うん? もしかして……」
俺は一つの仮説に辿り着いた。
グリフォンが復活したのはグリフォン自身の再生能力ではなく俺のスキルによるものだったとしたら?
【破壊の後の創造】
俺がアガントス王国を追放される少し前に神様から授かったユニークスキルだ。
先程黒魔法でグリフォンを破壊した後、無意識の内にそのスキルによって俺がその肉体を創り直したのだとしたら辻褄が合う。
そしてもしグリフォンが俺の力を認めたのならば俺の言う事に従うはずだ。
試してみよう。
「……伏せろ」
ガバッ。
グリフォンは俺の命令通りに首を垂れ身体を地に伏せた。
思った通りだ。
グリフォンは俺の力を認め、俺の従魔となった。
魔獣の谷の主を従えたという事はこの俺が新たな谷の主となった事を意味する。
このグリフォンに護衛をさせればもうこの谷の中には俺に襲い掛かってくる度胸がある魔獣はいないだろう。
「はぁ、はぁ……凄いですね……魔獣の谷の主といわれたグリフォンを従える人間なんで聞いた事が無い……」
その一部始終を見ていた魔族の父親は苦痛で顔を歪ませながら言葉を絞り出す。
いよいよ限界のようだ。
「喋らないで、傷口が開きます」
「いえ、私はもう助かりません……それよりも……見ず知らずのあなたにこんな事を頼むのもなんですが……後生ですので、どうかレミュウを……娘を私達の村まで送り届けてくれないだろうか……がはっ」
魔族の男はそう言い終わるや否や大量の血を吐きだした。
脇腹に大きく空けられた傷口は肺まで達しているようだ。
いくら人間よりも生命力が強いといわれる魔族といえどもこの怪我ではもう助からないだろう。
「お父さんを置いて行くなんていやだよ。私もお父さんと一緒にいる!」
「はぁ、はぁ……レミュウ、聞き分けのない事を言うんじゃない……お父さんがもうだめなのは見れば分かるだろう」
「そんなの信じないもん!」
父親がもう助からないのは誰の目にも明らかだが、幼いレミュウにはそれを受け入れる事ができない。
しかし信じようが信じまいがその時はやってくる。
魔族とはいえまだ年端もいかない少女に肉親の死にゆく姿を見せるのは残酷過ぎる。
もし俺が神聖魔法の使い手だったのなら父親を治療してやれるのだが、生憎俺は黒魔法しか満足に使う事ができない。
一か八かで神聖魔法を試してみても、魔力が暴発して逆に父親の止めを刺してしまう結果になりかねない。
むしろそうなる可能性の方が高いと思われる。
もう彼を救う手立てはないのだろうか。
「待てよ……」
その時俺の脳裏に一つの考えが浮かび上がった。
「がはっ、がはっ……」
父親は大量の血を吐き出した。
もう考えている時間は無い。
俺はそんな父親に向けてひとつの提案をした。
「苦しそうですね。今の俺に出来る事はあなたを楽にしてやる事ぐらいです」
「はぁ、はぁ……介錯をしてくれるのですか……頼みます、もうこの苦痛に耐えられない」
「分かりました」
俺は父親に向けて手を翳して魔力を込めた。
「そんな、馬鹿な事は止めて!」
レミュウは驚き俺にしがみついてを止めようとするが、少女の力では何の抵抗にもならない。
「危ないから離れてて」
俺はレミュウをできるだけ優しく振り払うと、父親に向けて一気に魔力を放出した。
「……デストロイボール!」
ドォン!
俺の掌から放たれた魔力の球は父親の身体を一瞬で粉々に吹き飛ばした。