第46話 呪われし者たち6
エルフの軍団が付近からいなくなったのを確認した後、魔王軍側の被害状況を確認する。
幸い殆どの兵士は呪いで操られていただけで人的被害は軽微だった。
俺が黒魔法で消し飛ばした魔王軍の兵士たちは【破壊の後の創造】スキルで創り直してあげた。
ここで少し引っ掛かったのが魔王アデプトがロリエに掛けた呪いについてだ。
アデプトを【破壊の後の創造】スキルで創り直すとアデプトがロリエに掛けた呪いも一緒に復活してしまう。
念のためにロリエに確認をしてみると二つ返事で直してやってくれと返ってきたので希望通り直してあげた。
ただ身内の情というよりはアデプトがいないと魔界を統治できる者がおらず再び内乱状態に戻ってしまうのが大きな理由だ。
「むう……俺はいったい何をしていたんだ?」
「さっさと起きなさいアデプト」
「ロリエ……はっ、そうだエルフ軍はどうなった!?」
「全員片付きましたわ」
「そうか、ロリエとルシフェルトに見せ場を取られてしまったか」
ロリエは「こいつは何を言っているんだ」ど言わんばかりに呆れ顔をする。
「まあそんなことよりもこんなところでぐずぐずしている暇はありませんわよ」
「そうだな、まだアガントス王国の連中が残っていた。よし、者ども出撃だ!」
アデプトは直ちに兵をまとめてアガントス王国軍の侵攻を受けている魔界東部の救援に向かった。
俺とロリエはアデプトには同行せず、ノースバウムの村人たちに勝利を伝える為に地下闘技場へ戻った。
地下への入り口の扉を開けると俺たちの帰りを待ちわびていた村人たちが安堵の表情を浮かべながら飛び出してきた。
「ルシフェルトさん、ロリエ様、必ず無事に戻ってくると信じていましたよ」
「ルシフェルトお兄ちゃん! どこか怪我してないですか」
ハッサムさんが俺の手を握りしめる傍らでレミュウが抱きついてきた。
俺はそんなレミュウの頭を軽く撫でてあげた。
「結構ぎりぎりだったけどね。黒魔力も全部使い切っちゃったし少し休みたいな」
「どうぞゆっくりしていって下さい。ここはルシフェルトさんの村でもありますから」
俺は自分の家に戻ると早速ベッドの上で横になった。
「私もヘトヘトですわ」
俺に続いてロリエもベッドに上がってきた。
ロリエもこの戦いでかなり体力を消耗しているはずだ。
お腹も空いている事だろう。
でも黒魔力が枯渇している今の俺では彼女の期待には堪えられない。
「悪いけど今の俺には黒魔力は残ってないぞ。お腹が空いたのなら村人からパンでも貰って食べてくれ。好き嫌いとかは言いっこなしだぞ」
「あんた私の事をそんなに食い意地が張った女だと思っていますの? 私も休みたいだけですわ」
そう言ってロリエは俺の隣で横になってそのまま目を閉じてしまった。
「すぅ……すぅ……」
瞬く間にロリエの寝息が聞こえてきた。
眠りたいのならわざわざ俺のベッドに潜り込んだりせず自分の家に行けばいいのに。
自分が女の子だという事を忘れているんじゃないだろうか。
そういう俺もロリエが食事をする度にそのまま俺の横で眠りに就くのでこの状況にはすっかり慣れてしまっている。
俺はロリエの寝顔を眺めながらバラートが言っていた事を考えていた。
俺は既に何者かによって呪われているという話は本当なのだろうか。
しかも俺に掛けられた呪いはロリエと同じ物──能力を奪う呪術──だという。
俺、他人に奪われるような能力持ってたっけ?
どうせならアデプトがロリエにしたみたいに黒魔力を奪ってくれれば良かったのに。
そもそも俺が能力を奪われたのっていつの話だ?
俺が物心つく前の話ならば呪いで何かを奪われていたとしても記憶に残っているはずがないが、そんな幼い子供の能力を奪おうとする人がいるとは思えない。
という事は俺がある程度大きくなってからと考えるのが妥当だろう。
俺はここ数年で自分の身体に何か変化がなかったかを思い出す。
「うーん、ずっと神聖魔法の練習ばかりしてた記憶しかないな……何せ俺は黒魔法しか使う事が……あれ?」
ここにきて俺は違和感を覚えた。
「俺っていつから黒魔法を使えるようになったんだっけ?」
子供の頃の記憶を思い起こしてみても俺が黒魔法を使ってた場面は思い浮かばない。
それどころか頭の中に浮かんできたのは俺が黒魔法ではなく神聖魔法を使っているあり得るはずがない記憶だ。
そしてその横では弟のアルゴスが一生懸命神聖魔法の練習をしているが失敗ばかりしている。
あまりにも神聖魔法の才能がない俺が弟の才能に嫉妬して浮かべた妄想か?
いや、妄想にしては神聖魔法を使った時の感覚が鮮明に残っている。
間違いない、俺は以前確かに神聖魔法を使っていた。
「そうか、そういう事だったのか」
点と点が線で繋がった。
「アルゴス、俺に呪いを掛けたのはお前だったのか……」




