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第43話 呪われし者たち3


 魔王軍の兵士たちは剣や斧を手にエルフの軍団に向かっていくが、ゴーレムたちが往く手を遮った。


「このっ、どきやがれ!」


 魔王軍の兵士たちはゴーレムに斬りかかるが、土でできた人形であるゴーレムはどれだけ斬られても直ぐに修復されてしまう。


 魔王軍の兵士がもたついている隙にゴーレムの後ろからエルフの射手たちが一斉に矢を放った。


 魔王軍の兵士たちが堪らずに後退を始めるのを見て魔王アデプトは怒りに満ちた表情で魔道部隊に攻撃命令を下した。


 魔王配下の魔道部隊はいずれも黒魔法の使い手である。

 まずは水を操る魔道士たちが前に出た。


 ひとりひとりが魔法で水を作り出し、やがてその水が集まって濁流となりゴーレムを飲み込んだ。


 身体が土でできているゴーレムはドロドロに溶けて野末の土となったところで後退をしていた魔王軍の兵士たちは踵を返しエルフの射手に向かって突撃をする。


 ゴーレムという壁を失ったエルフの射手は一気に形勢不利となって逃げ惑う。


 しかしエルフの射手の後ろには呪術師たちが控えていた。


 敵陣内に深入りをした魔王軍の兵士たちは呪術によって途端に身体が重くなる。


 ついさっきまで逃げ回っていたエルフの射手は再び息を吹き返して魔王軍の兵士に矢の雨を降らせる。



 戦況が二転三転する中、俺とロリエは戦闘に加わる事もせずにノースバウムの村に戻って村人たちの避難を手伝っていた。


 ノースバウム村の地下には以前俺が作った闘技場がある。

 この中なら安全のはずだ。


 俺は松明を手に村人たちを地下へ誘導する。


「ちょっと暗くてじめじめしていますけど、皆さん戦闘が終わるまでこの中でじっとしていて下さい」


「ルシフェルトさんたちはどうするんですか?」


「俺とロリエは外の様子を見てきます。魔王軍が勝てば問題はありませんが、エルフ軍が勝った場合はちょっと不味いのでそうなれば俺とロリエも戦わざるを得ないでしょうね」


「そうですか……私たちにも戦う力があれば良かったんですが」


「いえ、ハッサムさんはここでレミュウちゃんやエンペルさんを守っていて下さい。それでは行ってきます」


「はい、ご武運を!」


「ルシフェルトお兄ちゃん、無事に戻ってきてね」


「ああ、直ぐに戻ってくるから心配はいらないさ」


 俺は手を振りながら地上への階段を上った。

 地上に出ると地下への出入り口を黒魔法で破壊し、エルフ軍に見つからないように【破壊の後の創造】スキルで地上からは入口がただの床にしか見えないような隠し階段に創り変えた。


 これで万が一エルフ軍が勝利して俺とロリエに何かがあったとしても村人たちがエルフ軍に見つかる心配はないだろう。


 俺とロリエは村を囲む城壁に登って戦況を確認した。


「うわあ……凄い事になってる」


「そんな気はしましたわ」


 目の前で繰り広げられていたのは、エルフの呪術によって操られ同志討ちをしている魔王軍の姿だった。


 その中には魔王アデプトの姿もある。


「弟とはいえ情けないですわ。さすがにこれは見て見ぬふりはできませんわね」


 そう言ってロリエは城壁から飛び降りてエルフの軍勢に向かって単騎で向かっていった。


「ロリエ、ひとりで大丈夫か?」


「少し気分が悪いですけど、既に呪われている私でしたらエルフの呪いで操られる心配はありませんわ。あんたは操られないようにそこで見ていらっしゃいな」


「分かった。気をつけてね」


 ロリエは操られて襲いかかってくる魔王軍の兵士たちを蹴散らしながらエルフの軍団の中に飛び込んだ。


「な、なんだこの女は」


「気をつけろ、こいつが魔王の姉のロリエだ!」


「道を開けて頂けるかしら?」


 ロリエは立ちはだかるエルフの兵士たちに強烈なストレートをお見舞いした。


「ぐはっ!」


「ば、化け物か!?」


 ロリエが拳を振るたびに大気が震え、エルフの兵士たちはダース単位で吹き飛んでいく。

 ロリエは無人の荒野を行くが如く瞬く間に敵陣深くまで突き進み、呪術師部隊の目の前まで迫っていた。


 状況から魔王たちに呪いを掛けたのはエルフの呪術師たちで間違いない。

 ロリエが呪術師部隊を倒せば魔王軍に掛けられた呪いは解け、一気に形勢は逆転するだろう。


 俺はその様子を城壁の上から「もう全部ロリエひとりで良いんじゃないかな」と思いながら見守っていた。


「さっさと終わらせて頂きますわ。あんたたちの呪術が漂っているこの空気、本当に不快ですのよ」


「ひいっ……」


 ロリエが怯える呪術師たちに一撃を加えようとした刹那、ロリエの動きが止まった。


「うっ……なんですの!?」


 ロリエの足下を見ると、地面から生えてきた植物のつるのような物がロリエの足に巻きついている。


「気持ち悪いですわね。これもあんたたちの呪術かしら?」


 ロリエは無理やり足を前に出し、強引にそのつるを引き千切った。


 しかし次の瞬間、足元の地面から更に多くのつるが伸びてきて再びロリエの足に巻き付いた。


「しつこいですわね。こんなものこうして……」


 ロリエはもう一度つるを引き千切ろうとするが、今度はつるがミシミシと音を立てるだけで千切れる事はなかった。


「ふはははは、一本のつるは簡単に千切れても、三本のつるは簡単には千切れないという我らエルフの諺があってな」


 不敵な笑みを浮かべながらロリエの前に現れたのはエルフの軍団の長であるバラートだ。


「小賢しいですわ。こんなものこうしてしまえば……!」


 ロリエは両手で足に巻きついているつるを掴み、引き千切ろうと力を込めた。


「そうはいかんよ」


 バラートが指をパチンと鳴らすと、それを合図に地面から更に多くのつるが生えてきて今度はロリエの両腕に巻き付いた。


「くっ……!」


 ロリエは完全に身動きができなくなっている。


 つるはそのままロリエの身体を空中に持ち上げた。


 身動きができないロリエはまるで晒し者のようになっている。


「ははは、我らエルフは森の民、植物を操る力こそが呪術の真骨頂なのさ。こうなってしまえば自慢の馬鹿力も役に立つまい。魔王軍によって傷つけられた我らが同胞の恨み、その身体で償って貰おうか」


 バラートはニヤリと歪な笑みを浮かべた。




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