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第41話 呪われし者たち1


「どうも様子がおかしいですわね。人の気配はするんですけど、同時に嫌な気配を感じますわ」


 ロリエは心底不快な様子で顔を顰めた。


「とにかく中に入ってみよう。ロリエ、頼めるかい?」


「お安いご用ですわ」


 ロリエは入口の巨大な門に右手を置き、前に押し出した。


 ギギギ……と重い音を立てて門が開く。


「これで入れましてよ」


「有難う」


 ロリエの馬鹿力を見慣れている俺は平然としているが、それを知らない魔王配下の兵士たちはあんぐりと口を開けたまま棒立ちしていた。


 俺は「おーい」と村人たちを呼び掛けながら村の内部に足を踏み入れた。

 少し遅れてロリエも俺の後に続く。


 村の中には異様な気配が漂っていた。


「うっ……確かにこの気配は……」


 俺は急速に胸が苦しくなった。

 ロリエが顔を顰めていた気持ちが分かった。


 俺は昔これと同じ気配をどこかで経験したような気がする。


 それがどこだったのかまでは思い出せないが。


「フーッ……フーッ……」


 建物の蔭から誰かの息遣いが聞こえてきた。


 物凄い殺気だ。


 エルフの刺客だろうか。


 だとしたらお粗末な刺客である。

 これだけ強い殺気を放っていたら隠れていてもすぐに気付かれてしまうだろう。


 俺はいつでも迎撃できるように両手に魔力を込めた。


「があああああああああっ!」


 そしてそれは物陰から飛び出して襲いかかってきた。


 動きは遅くて単調。

 どう見ても戦いの素人だ。

 その手に握られている短刀は俺の身体にはかすりもしない。


「悪いけど倒させて貰うよ」


 俺はその人物に向けて魔力を放とうとした。


「うっ!?」


 俺は俺に襲いかかってきた少女の顔を見て咄嗟に魔力を込めた手を下ろして後ろに飛び下がった。


「レミュウ、何をするんだ!?」


「が……があああああ!」


「ぐるるるる……!」


 レミュウの唸り声に呼応するように、物陰から次々とノースバウムの村人たちが飛び出してきた。


 ハッサムさん、エンペルさん、クロームさん。

 全員が虚ろな目で口から洩れる声すら言葉になっていない。


 全員正気ではないのは一目瞭然だ。


 ロリエが気分が悪そうに胸を押さえながら答えた。


「この嫌な気配……呪術で何者かに操られているのに違いありませんわ……私も呪われている身だからこの嫌な空気を感じることができますの」


 そう言えば俺もさっきから気分が悪い。


「はぁ、はぁ……」


 時間と共に動悸が激しくなってきた。


 親しかった村人たちをこんな目にあわされたのだから気分が悪くなるのも当然だと考えたが、今の俺が感じている気持ちの悪さは明らかに異常だ。


 呪われている者は別の呪いに敏感になるというのなら、それはつまり……。



「俺も……既に何者かの呪術を受けているのか?」



 俺はぽつりとつぶやいたが、直ぐに考えを改めた。


 俺が既に呪われているのなら普段からロリエと一緒にいられるはずがない。

 お互い呪われている同士、近付くだけで気分が悪くなっているはずだ。


「考えすぎか……そんな事よりまずは村人たちをなんとかしないと」


 俺は一旦村の外まで後退して策を練る事にした。

 村人たちは村の外までは追いかけてはこず、再び建物の裏に隠れていった。


「はぁ、はぁ……」


「ルシフェルト大丈夫ですの? 顔色が悪いですわよ」


「大丈夫、村の外に出てから少しずつ気分が楽になってきたよ。ロリエの方こそ大丈夫?」


「ええ、私も大分落ち着いてきましたわ。何者かによってノースバウム村そのものに呪いが掛けられているのは間違いありませんわ」


「村人たちを救う方法はないのか?」


「そうですわね……私はあまり呪術の事は詳しくありませんですけど、ここに一人詳しそうな人がいましてよ?」


「それは誰だい?」


「ほら、そこにいらっしゃいますわ」


 俺だけでなく魔王配下の兵士たちもロリエが指差す先にいる人物に注目した。


「……俺か」


 魔王アデプト。

 ロリエに対して黒魔力を奪い取る呪術を掛けた張本人である。


「ほら、さっさと知ってる事を全部吐き出してしまいなさいまし」


「そ、それはだな……ごにょごにょ」


「なんですの? この期に及んで隠し事は許しませんわよ。三秒以内に言わないとぶん殴りますわ」


「うぐ……分かった、言う。呪術を解くには呪術を行った本人を消してしまえば良い」


「へえ、つまりあんたが死ねば私も呪いが解けて元通りになるという事ですわね」


 ロリエは右手を強く握りしめて今にもアデプトを殴りつけんとばかりにその拳を後ろに引いた。


「ま、待て……兵が見ている前で冗談は止めてくれ……だから言いたくなかったんだ」


 さすがの魔王もロリエの前ではたじたじである。


「ふん、今更黒魔力なんて返してもらわなくても結構ですわ。しかし厄介ですわね。ノースバウムの村人たちを呪った人が誰なのか分からない以上その手は使えませんわね」


「別の手を考えよう」


 俺とロリエは頭を捻って次の手を考える。


 その時魔王アデプトは俺とロリエを横目に村の入口の前まで歩き出した。


「まったく、今にもエルフの軍勢が攻めてくるかも知れないのに、このような小さな村一つで何を迷っているのだ。こうすれば早いではないか」


 そう言いながらアデプトは右手に魔力を込める。


「おい、何をする気だ!?」


「呪われた村など消してしまえば良い。大事の前の小事、いちいち気にしていられるか」


 アデプトは村ごと消し飛ばそうとその強大な魔力を解き放とうとする。


「馬鹿な事は止めろ! ……デストロイボール!」


「な、何をする!?」


 アデプトの魔力によって村が消される直前、俺は無意識の内にアデプトに向けて破壊の黒魔法を放っていた。


「う……うわああああああああああ!!」



 ドオオオォォォン!!



 俺の手から放たれた漆黒の魔力の球がアデプトに命中して大爆発を起こした。


「ま、魔王様あああああ!?」


 ノースバウムの地に魔王と兵士たちの悲鳴が響き渡った。





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