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第4話 破壊の後の創造1


 一時間程谷底を彷徨った頃だった。


「いやあああああああああっ!」


 近くで少女のものと思われる悲鳴が聞こえた。


 子供が谷の中に迷い込んでいるのだろうか。

 さすがに捨て置けない。

 俺は声のする方角へ走った。


「こないで! あっちへ行ってよ!」


 黒い髪をしたひとりの少女が必死に石を投げる先には鷲の上半身に獅子の下半身を持つ巨大な魔獣が今にも飛びかからんと後肢を伸縮させているのが見えた。


 あの外見は間違いない、噂に聞いた魔獣の谷の主グリフォンだ。


 その横では同じく黒い髪をした少女の父親らしき男性が力無く横たわっていた。

 男性の脇腹からはとめどなく血が流れ続けている。

 どう見ても致命傷だ。

 もう長くは持たないだろう。


「レミュウ……お父さんの事はもう良い、お前だけでも逃げるんだ……」


「そんなの嫌! ずっとお父さんと一緒だもん!」


「レミュウ、お父さんはもう助からない。お願いだからお前だけでも生き延びてくれ……」


「嫌だ!」


 レミュウと呼ばれた少女の投げる石はグリフォンの身体に届く前に全身の体毛の弾力だけで跳ね返されている。

 さすが魔獣、凄い剛毛だ。

 当然グリフォンには何のダメージもない。

 無駄な抵抗とはまさにこの事だ。


 良く見ると二人の頭部には山羊のような角が生えている。

 人間ではなく魔族の親子のようだ。


 人間と魔族は長く争ってきた歴史がある。

 そう考えると人間である俺には二人を助ける義理は特にないのだが、魔族とはいえ幼い少女を見殺しにする程俺は冷酷ではない。

 どうにかして少女たちを救う方法がないかを考える。


 黒魔法で爆煙を発生させ、それに紛れて逃げさせる事ならできないだろうか。

 煙の中なら視界は勿論、グリフォンご自慢の鼻も利かないだろう。

 父親の方はもう手遅れだろうが、少女だけなら逃げられる可能性はある。


 よし、この作戦で行こう。


「グルルル……?」


 その時グリフォンが物陰から様子を伺っていた俺の存在に気付いた。


「グルルァァァ!!」


 グリフォンは興奮しながら魔族の親子を放置して一直線にこちらに向かってきた。


 その速さはまるで一陣の突風のようだった。

 次の瞬間にはグリフォンは俺の目前まで迫っていた。


「くっ……!」


 俺は咄嗟にグリフォンに向けて手を翳し迎撃態勢をとる。


「黒魔法、デストロイボール!」


 俺の掌から飛び出した拳大ほどの漆黒の魔力の塊はグリフォンに直撃した瞬間轟音と共に大爆発し辺りは爆煙に包まれて何も見えなくなった。


「ごほっ、ごほっ……効いたか?」


 グリフォンの突進に対して綺麗にカウンターが入った形になった。

 いくら魔獣の谷の主と言えどもノーダメージという事はないはずだ。


 俺は臨戦態勢をとったまま煙が晴れるのを待つ。


 やがて煙が晴れて目の前に見えてきたのは……バラバラに飛び散ったグリフォンの肉片だった。


「え? 一撃?」


 生き物に黒魔法を放ったのは初めてだ。

 どうやら俺の黒魔法は自分が思っていた以上に破壊力があったようだ。


 これはうかつに人間に向けちゃダメな奴だ。


 俺はその肉片がグリフォンの物である事を確認すると、ゆっくりと魔族の親子に歩み寄った。


「人間がどうしてこんな所に……? くっ、ここまでか……」


 魔族の親子が人間である俺を警戒するのは当然の反応だ。

 しかし俺は彼らを助けに来たんだ。

 まずは警戒を解いてもらうよう優しく声を掛けた。


「心配しないで下さい。俺はあなたたちに危害を加えるつもりはありません」


「……我々の敵ではないのですか?」


 最初は警戒心を露わにしていた二人も、俺に敵意が無い事を理解するとほっと胸を撫で下ろす。

 そして父親は息も絶え絶えに口を開いた。


「まさかこの谷の中で人間に助けられるとは思いませんでした。それにしても人間のあなたがこんな所で何を?」


「いろいろあってアガントス王国から追放されましてね。もう王国民じゃないから魔族と争う理由もないんです。そんな事よりあなたたちの方こそこんなところで何をしているんですか?」


「ごほっごほっ、はぁはぁ……私たちはこの谷を出た先にある村の者ですが、この谷には貴重な鉱石が……」


「お兄ちゃん、後ろ!」


「え?」


 魔族の少女の叫び声に後ろを振り向くと、先程バラバラになって息絶えたはずのグリフォンが元通りの姿で起き上がりこちらを見下ろしていた。


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