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第29話 謎の少女9


 ドカッ!


 バキッ!


 ロリエと魔獣たちの戦闘が始まり、地下闘技場内が激しく揺れ動いた。


 そして数分後に地下闘技場内を照らしていたフェニックスの炎が消えた頃、地下は再び暗闇と静寂に包まれた。


「やれやれ、私も見くびられたものですわね。でも今後もいちいち邪魔されるのも面倒ですわ。いっその事私の従魔にして差し上げようかしら」


 ロリエの圧倒的な力の前に魔獣たちはなす術もなく叩きのめされていた。


 魔界は力が全ての世界だ。

 今でこそ魔獣たちはルシフェルトに従っているが、もしロリエがルシフェルトを叩き伏せその力が上だと示せば魔獣たちはロリエに従うようになるだろう。

 ロリエがルシフェルトを狙う理由が増えた。


「ここが出口ですわね」


 ロリエは闘技場の先に登り階段を発見した。

 階段を上るとそこはルシフェルトの寝室の隣の部屋に繋がっていた。


 ロリエは再びルシフェルトの寝室に戻ってきた。


「もうトラップはありませんわよね? 同じ轍は踏みませんわよ」


 ロリエは周囲を警戒しながらルシフェルトが眠っているベッドに向かう。

 それは杞憂だったようで、全てのトラップは既に作動済みだった。


 ベッドを覗き込むと、ルシフェルトが仰向けになって眠っていた。


「てっきり待ち構えていると思いましたけど随分と無防備で眠ってらっしゃいますのね。トラップや魔獣ごときで私を止められると思っていたのかしら? それとももう諦めたのかしら」


 「ぐぅー」とロリエのお腹の虫が催促の音を上げた。

 そろそろロリエの空腹も限界だ。

 ルシフェルトの身体から溢れる黒魔力がロリエの食欲を更に掻き立てた。

 ロリエはベッドに上りルシフェルトに馬乗りになる。


「それでは頂きますわ……」


 ペロッ。


 ロリエはルシフェルトの首筋から胸元に掛けて舌を這わせる。


「!? 違う、これはルシフェルトじゃない!」


「引っ掛かったな、それは人形だ!」


 その時天井に隠れてロリエの様子を窺っていた俺はロリエの背中の上に飛び降りた。


「ルシフェルト! 謀りましたのね!」


「さすがに食事する時なら油断をすると思ってね。この瞬間を待っていたんだ」


 俺はロリエの背に跨りながらゼロ距離から黒魔法を放つ。


「くらえ、雷電魔法サンダーブリッツ!」


「きゃあああああああっ!?」


 俺の掌から放出された電撃がロリエの体内に流れる。

 ロリエは感電して身動き一つできなくなっている。


「どういう事ですの!? 確かにベッドの上で眠っているこの偽物からはあんたの黒魔力を感じましたのに……この私が味を確認するまで偽物だと気付かないなんてありえませんわ!」


 答えは簡単だ。

 ベッドの上で眠っていたように見えたのは魔瘴石を【破壊の後の創造】スキルで俺そっくりに創り変えた等身大の人形(フィギュア)だ。


 魔瘴石は魔界の瘴気──黒魔力──を吸収する性質を持っている。

 予め俺の黒魔力を魔瘴石に吸収させておいた事でロリエは俺本人だと誤認してしまったという訳だ。


「これしきの魔法で……まだですわ!」


「こいつ、まだ動けるのか!?」


 ロリエの食に対する凄まじい執念が、感電して動かないはずの身体を動かした。

 俺は更に黒魔法で電撃を放出する。

 一瞬でも気を抜いたら脱出されてしまう。


 俺の黒魔力とロリエの体力、どちらが先に尽きるかの勝負だ。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「ああああああああああああああ!」


「いい加減諦めろよ! このままだと本当に死ぬぞ」


「死んでも諦めませんわ! あんたこそ諦めて私の物におなりなさい! 悪いようにはいたしませんわ!」


「それこそお断りだ! 俺の黒魔力は俺の物だ!」


「いくら話しても平行線ですわね。でしたら魔界の掟に従っていただきますわ」


「弱肉強食、強い者が正しい……望むところだ!」


「決まりですわね、恨みっこなしですわよ!」


「でも勝つのは俺だ! 電撃魔法サンダーブリッツ、出力全開放!」


「こんなもの、耐えてみせますわ!!」






 そんなやり取りが三十分程続いた後ようやく決着がついた。


「うう……無念ですわ……」


 俺の中の黒魔法が空っぽになったのと同時にロリエは気を失った。

 空腹による体力の低下もあったのだろう。

 まさに紙一重の勝利だった。


「ふ、ふ、ふ……勝ったぞ……もうこれで二度と俺の黒魔力を奪おうだなんて思わないこと……だ……」


 そして全ての黒魔力を使い尽くした俺もそのまま意識を失った。






◇◇◇◇





 朝、目を覚ますとロリエが俺の隣で横になりながら頬を膨らませていた。


「おはようロリエ。昨日は俺の勝ちだったな」


「……あんた程の馬鹿は見た事がありませんわ。昨日のは絶対におかしいですわ」


「は? 負け惜しみはよして貰おうか。どう見ても俺の完全勝利だ」


「確かに私の負けは認めますわ。でもそんな話ではありませんことよ。あんたが私を拒む理由は何かもう一度言って御覧なさい」


「何度も言ってるだろ、お前に黒魔力を奪われたくないからだよ。黒魔力は俺にとって生命線だからね」


「それで、今あんたにその生命線がどれだけ残っていますの?」


「そりゃ勿論……あっ」


 俺は昨夜ロリエを倒す為に全ての黒魔力を出し尽くしてしまった。


 一晩休んだ事である程度は回復しているものの、全快には程遠い。


「黒魔力を守る為に黒魔力を全部使うだなんてそれこそナンセンスですわ」


「うぐ……言われてみればそうなんだけど……あれ? でもどうして黒魔力が残ってるんだ? 俺が寝ている間に奪い取ろうとしなかったのか?」


「私にもプライドがありますわ。敗れた以上そんな真似はしませんわ」


「そっか、じゃあもう諦めてくれたんだな」


「何を言っておりますの? 昨日は負けましたけど、また今夜にでもリベンジに来ますから覚えていらして」


「ええ……」


 どうやら俺に安息が訪れる日はやってこないようだ。


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