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第25話 謎の少女5

「ふわぁ、よく寝ましたわ。おはようルシフェルト」


「……おはよう」


 ロリエが目を覚ましたのは朝日が昇って一時間程経った頃だ。

 ノースバウムの住民の生活サイクルから考えると寝坊とも言う。


 結局俺はあの後一睡もできなかった。

 眼は血走り、その下には深く大きなクマができていた。


「あら、顔色が悪いですわ。まだ若いからと言って無理をしては駄目。ちゃんと睡眠はとらないといけませんことよ」


「誰のせいだと思ってる」


「くすくす、どうしてかしらね……って、あら?」


 ロリエは急に真顔になって俺の上から降りると後ろを向き何かごそごそとしている。


「へえ……意外ですわね。少し自信をなくしましたわ」


「何がだ?」


「いえ、もう結構ですわ」


「?」


 ロリエはベッドを下りるとまるで自分の部屋のように自然に椅子に座り寛いでいる。


 眠れなかったとはいえ、一晩休んだ事で俺の黒魔力はある程度回復していた。

 俺はまず昨夜ロリエに壊された入口の扉を黒魔法で更に破壊して【破壊の後の創造】スキルで元通りに修復をした。


 落ち着いたところで改めてロリエに問いかけた。


「結局お前は俺の黒魔力が目当てで近付いてきたって訳か」


「ええ、噂通り極上の味でしたわ。私すっかり虜になってしまいましたわ。もうあんた抜きでは生きていられないかも。またご馳走になりに来ても宜しくて?」


 よく見るとロリエの周りにうっすらと黒魔力のオーラが漂っている。

 俺の黒魔力を吸収した事で彼女の身体に黒魔力が宿ったという事か。


 だとしたら俺の身体から黒魔力を吸収するまではかなりの長期間()()()()()()という事になる。

 美味しい物を食べに出かける前にできるだけお腹を空かせておくというのは良くある話だけど、黒魔力がすっからかんになるまで我慢していたとか極端すぎるだろ。


 でもそれは全て彼女の都合だ。

 俺が彼女の希望通り今後も黒魔力を提供し続けなきゃいけない理由はどこにもない。


「いや、もう来るなよ。大体どうして俺なんだ? 魔王とかその側近なら俺よりも多くの黒魔力を持っているんだろう? そっちを当たってくれよ」


「そんな事はありませんわ。確かに黒魔力の量だけならあんた以上のが何人もいますけど、問題は量よりも質ですのよ。あんた程純度の高い黒魔力を持っている人は魔界でも見た事がありませんわ。もっと誇りなさい」


 そんな物を持っていたせいで俺はアガントス王国から追放されたようなものだ。

 全然嬉しくない。


 しかしこれでロリエがしょっちゅう各地でトラブルを起こしている理由が良く分かった。


「お前はああやって夜な夜な黒魔力を持った人の寝所に忍び込んで黒魔力を吸収して回っているって訳だ。魔王さんが頭を痛めているのも当然だな」


「はぁ?」


 俺の言葉にロリエは不機嫌そうに顔を顰めた。


「人聞きの悪い事を仰らないで頂ける? 人様の黒魔力を頂戴した事なんて昨夜が初めてですわ。アデプトの周りにいる連中は不味そう人たちばかりですし。こちらから願い下げですわ。それに……」


「え? 初めてだったの? てっきり毎日……」


「ルシフェルトお兄ちゃんおはようございます! 朝ごはんを持ってきたよ」


「レミュウ……」


 タイミング悪くそこへレミュウがやってきた。

 レミュウは俺の部屋の中で寛いでいるロリエに気付いて困惑している。


「えっとどうしてロリエ様がお兄ちゃんの部屋にいるの? それに初めてってなんの話?」


「聞いて下さいましレミュウちゃん。私昨夜勇気を出してルシフェルトに会いに来たんですわ。食事をするだけのつもりでしたのに、この人はあんなに乱暴に激しく動き回って……」


「え? え? ルシフェルトお兄ちゃん、ロリエ様に何をしたの?」


「おいお前、誤解を招くような言い方はやめてくれないか。レミュウ、俺は決してロリエに何もしてないからね!」


 そう、昨夜襲われたのは俺の方であって、俺の方からはロリエに一切手を出していないぞ。


「あの状況で何もなかったのが問題なのですわ」


 ロリエがぽつりと呟いた。


「私、一度に多くの黒魔力を取り込みますとその直後に深い眠りに落ちてしまう体質ですのよ。昨晩ご覧になりましでしょ? お食事の後には長時間無防備な姿を晒すことになりますの……だから誰これ構わずに襲う訳にはいかないのですわ」


「そういえば全然起きなかったね」


「あんたの極上の黒魔力を堪能できるなら相応のリスクも……最悪寝ている間にレミュウちゃんに言えないようないやらしい事をされても受け入れる覚悟をして来ましたのに……あれから何もなかっただなんて逆に屈辱ですわよ。覚えていらっしゃい」


「ええ……」


 なんかものすごく理不尽な理由で怒られた気がする。


 ロリエは立腹しながら俺の家から出て行った。


 でもあの様子だときっとまた来るな。


「ルシフェルトお兄ちゃん、結局ロリエ様とは何があったの?」


 レミュウが俺の顔を覗き込んで質問を繰り返す。


「え? あー……なんて説明をすればいいのかな。掻い摘んで言うと、ロリエは黒魔力を食べる事ができる能力者で、俺は昨晩寝込みを襲われたんだよ」


「え? そんな事いくらロリエ様でも許せない! お兄ちゃん大丈夫だったの?」


 レミュウはぷんぷんと頬を膨らませている。


「でも別に黒魔力を奪われただけで怪我を負わされた訳でもないから大丈夫だよ」


「え……でも襲われたんですよね?」


 レミュウは納得いかないといった風に小首を傾げていたが、枕元に置かれていた魔瘴石を見てポンと膝を叩いた。


「そっか、魔瘴石の力を使ってロリエ様を返り討ちにしたんですね!」


「あ、いや……そうしようと思ったんだけど満腹になったロリエが寝ちゃったからそのまま朝まで放っといた」


「? ……お兄ちゃんの言ってる事良く分かんない」


「うん、俺も昨夜の出来事がまだ良く分からん」



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