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第22話 謎の少女2



 俺は少女に翳した手に力を込めた。

 もしこの子が変な動きを見せたら俺は躊躇いなく黒魔法を放つ。


「いいですわ、撃ってごらんなさい」


 俺がどれだけ凄んで見せても少女は一向に臆する素振りも見せない。


 彼女は俺以上の黒魔法の使い手で、俺程度が使う黒魔法なんて通用しないとでも言うのだろうか。


 それにしてはおかしい。


 黒魔法の使い手は、常時微量ながら全身が黒魔力で覆われているものだ。

 特に臨戦態勢状態ならば周囲の人間でも感じ取れる程の黒魔力が放出される。


 それがどうだろう。

 目の前の少女からは一切の黒魔力を感じる事ができない。


 人間は得体の知れない存在に恐怖を覚えるものだ。

 俺は完全に彼女の雰囲気に飲まれていた。


「魔法を撃たないのならこちらから行きますわよ」


 少女がゆっくりと俺に近付いてきた。


 こうなったら破れかぶれだ。

 俺は少女に向けて黒魔法を放──








「え? あっ、あなたはもしかしてロリエ様ではありませんか? どうしてこのようなところへ?」


 そこへハッサムさんが通りがかった。


「え? ハッサムさん、この人と知り合いなんですか?」


 俺は魔法の使用を中断し、ハッサムさんに問いかける。


「いえ、肖像画を見た事があるだけで実際にお会いするのは初めてですが。間違いありません、この方はロリエ様と申しまして魔王アデプト様の姉君でいらっしゃいます」


「魔王の姉!?」


 どう見ても見た目は十代前半と言ったところだ。

 魔王が何歳なのかは知らないけど、その姉ともなればいったいいくつなんだろう。

 俺は思わず年齢を聞こうとしたけど古今東西女性に年齢を聞く事はトラブルの種と相場が決まっている。

 俺は好奇心をぐっと堪えた。


 そんな事より彼女がここにやってきた理由の方が重要だ。


 俺はハッサムさんのにロリエについて知っている事を聞いてみたが、魔王の姉であるという以上の事は何も知らないらしい。


 まるで何者かが意図的に隠蔽しているかのように彼女に関する情報はないそうだ

 ならば丁度本人がいる事だし、直接問い詰めるしかないな。


「……それでその魔王の姉がこの村に何しに来たんですか。俺を襲うつもりはないって言いましたけど、今日のところは宣戦布告でも伝えに来たとだけでも言うんですか?」


 ロリエはきょとんとした表情で答えた。


「え? どうしてそんな事する必要があるのかしら? 私はアデプトとは無関係よ。ちょっとした暇つぶしに来ただけですわ」


「魔王の姉が無関係という事はないでしょう。惚けるのは止めてくれませんか」


「嘘ではありませんわ。だってアデプトの手先というのならあそこにいるじゃないですか」


「あそこ?」


 ロリエは俺の背後を指差す。


「後ろに何が……いや、その手には乗らないぞ」


 危ない危ない、これは後ろを向いた瞬間に背後から不意打ちを食らわしてくるパターンだ。

 俺はロリエの一挙一頭足を注視する。


「疑り深いですわね。それでしたらよくよくご覧あそばせ」


 ロリエは足元の石ころをひとつ拾った。


「何をする気だ」


「そんなものこうするに決まっていますわ」


 ロリエは左足を高く上げながら右足一本で立ち、俺から背中が見えるくらい上半身を捻った。


 そして次の瞬間、勢いよく左足を前方に下ろし、上半身をこちら側に回転させながら思いっきり右腕を振り下ろした。


 なんという美しい投球フォームだ。


 俺の顔の真横を矢のような勢いで石ころが飛んでいった。


 ドガッ!


 ガラガラガラ……。


 背後で何かが崩れ落ちる音がした。

 何の音だ?


「ほら、ご覧下さいまし」


 ロリエは俺の横を通って城壁の方へ進んだ。

 俺はロリエに視点を定めながらそのまま後ろを振り返ると城壁の一角が崩れ落ちていた。


 彼女の投げた石ころは俺が【破壊の後の創造】スキルで強化していたはずの城壁を軽く破壊してみせたのだ。


 魔法を使った様子はなかった。

 単純に物理的な力だけで城壁を破壊したとしか考えられない。

 魔王の姉という肩書は伊達ではないという事か。

 もし正面から彼女とやり合えば、俺の黒魔法を駆使しても良くて相打ちか……いや、あるいは……。


 全身に戦慄が走る。


「何をボーっとしていますの? あそこですわ」


「はっ!?」


 そのロリエの声で我に返った俺は、彼女の指差す先にひとりの黒装束を着た男の姿を見た


 ロリエの投げた石に当たったのか、腕から血を流して横たわっている。


「え? 何だあいつは!? 他にも魔王の手先が潜り込んでいたのか!?」


 ロリエは深く溜息をつきながら言った。


「だから私はアデプトの手先ではありませんわ。そもそもあの男が監視していたのはあんたじゃなくてきっと私の方ですし」

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