case02 ある街角の一幕
以前書いた物の焼き直しと言った感じです。
主旨と言うか方向が少しずれてしまっていたように感じていたのでリベンジという事で。
※作中に女性蔑視と受け取られかねない発言が有りますが、表現の為に必要だったと御理解下さい。
また、『全ての女性』を揶揄する意図はありません。
※2021/7/9 ジャンルを『恋愛(現実世界)』⇒『ヒューマンドラマ』に変更しました。
―― なんでこんなとこに居るんだかなぁ ――
そんな事を考えながら目の前に座り、俺を睨みつけている女を無視してスマホを操作する。
事の起こりは十分ほど前に遡る。
――いや、そもそもの起点を考えるなら十日ほど前になるだろうか ――
§
「ちょっとあんた! 由香利の彼氏でしょ!」
本日、休日にして晴天なり。という事で、ここ最近の鬱屈した精神を払拭すべく、気晴らしに街を散策していた俺の腕が、そんな声と共に掴まれた。
―― 彼氏じゃなくて元カレ、な。情報古いぜ? ――
そんな不愉快な事を考えながら振り返れば、そこには憤懣やるかたないといった表情で俺の腕を掴んでいる一人の女。
なんとなく見覚えのある顔の様な気がして記憶を辿れば、アイツの連れだか友人だかで、何度か顔を合わせた事のある人物だと思い至る。
―― 確か、アイツからは『ミドリ』とか呼ばれていたっけ ――
「どちらさまですか?」
どう考えても愉快な展開にはなりそうにないので、無関係を装いそう答える。
「なっ!? 私はあの子の親友よ! 何度か会った事あるでしょ!」
それにしても一々声がでかいな。道行く人の幾人かが、何事かとこちらを振り返っている。
「そうでしたか、それで? 『あの子』とはどの子ですか? 俺にはこんな街中で人目も憚らずに大声で喚き立てるような知り合いを持った覚えは無いんですが」
そう言ってミドリの手を振り払う。
「とぼけないで! 由香利の事よ!」
手を振り払われて尚俺の前に立ちふさがるミドリとかいう女。
―― つくづくめんどくせぇのに絡まれたな ――
そう思いながら心の中で溜息を吐く。
「そうでしたか、貴方の言う由香利さんが『久保田 由香利』さんの事なら、先日晴れて他人となりましたので、その親友とやらでしかない貴女とはなんの縁も縁もありませんね。では失礼します」
―― 由香利だけに、縁も所縁も無いってか ――
そんな益体も無い事を考えながら踵を返す。
「ま、待ちなさいよ!」
そんな声と共に、俺の腕が再び掴まれる。
「こっちはアンタに話があんのよ!」
さっきより強めに掴まれた腕がそれなりに痛い。
「そうですか、しかし俺には貴女と話す事など何もありませんのでね、いい加減その手を放してもらえませんか」
そう言って手を振り払おうとするが、強く掴まれた手は解けない。
「こっちにはアンタに言いたい事があんのよ! いいからちょっと来なさいよ!」
そう言って俺の手を掴んだまま、目の前にある喫茶店へと引きずり込まれる。
―― なんでヒスってる女ってのは、こう人の都合って物を考えないのかね ――
ドナドナされる子牛の気持ちを慮りながら、そんな事を考えていた。
§
「さっさと座りなさいよ!」
店に入った途端、店員さんの案内も待たずに空いている席へと邁進するミドリ。
溜息を吐きながら対面へと腰を掛ける。
「いらっしゃいませ。御注文は――」
「こんな奴には水で十分です!」
注文を取りに来た店員さんの声を遮り、俺を指差しながら好き放題言ってくれる。
―― 無関係の人に八つ当たりしてんじゃねぇよ ――
いきなりえらい剣幕で捲し立てられた店員さんがびっくりしてしまう。
「えっと、何か一品注文して頂かないと……」
「俺はアイスティーでお願いします」
戸惑っている店員さんを落ち着かせるように、平坦にオーダーを伝える。
そして、注文した品が出て来るのを待ちながら今に至る、と。
§
「お待たせしました」
そう言いながら店員さんが注文した品をテーブルへ置いて軽く一礼して立ち去るのを見送り、ミルクとガムを注ぐと軽くかき混ぜ一口含む。
「で? 人の都合も考えない非常識な人間が一体俺に何の用だよ」
口調を取り繕う必要も無いと判断し、いつもの口調で俺を睨みつける女に声をかける。
「わかってるんでしょ? 由香利のことよ!」
「久保田さんの事が何か?」
「とぼけんじゃないわよ! 由香利の事フッたんでしょ!」
―― まぁ、コイツと俺に関係のある話と言えばそれしかないよなぁ ――
予想はしていたが、改めて言われるとなんだかなぁという気分になる。なんで気晴らしに出かけた街角であの話を蒸し返されにゃイカンのよ。
「そうだけど? それがアンタになんか関係ある?」
「そうだけどって何よ! 由香利はあんなに悲しそうなのに、なんでアンタそんな平然としてんの!? 友達が悲しそうにしてたら助けるのが親友じゃない! 当り前でしょ!」
―― あぁ、話に聞いてた『めんどくせぇタイプ』の人間かコイツ ――
「悲しそう?」
「そうよ! この前由香利に会った時、なんだか元気が無いから話を聞いたのよ。最初は渋ってたけど、アンタとの事を教えてくれたわ」
―― 『教えてくれた』、ねぇ。何をどこまで聞いてるやら ――
「話聞いてるなら、なんで別れたのか理由も聞いてんだろ?」
「聞いたわよ、全部由香利が教えてくれた!」
―― 『全部』、と来たもんだ。全部聞いて尚噛みついてくるって事は、コイツやっぱ『そういう』手合いか ――
「全部聞いてるなら俺と話す事なんて無くね? お互い話し合って決めた事だ。さっきも言ったけど他人が訳知り顔でしゃしゃり出て来んなよ」
「だから他人じゃないわよ! 親友よ! 大体アンタさ、あの子と三年も付き合ってて、なんとも思わないの? あの子にも事情が有ったって知ってるんでしょ? それなのに良くそんなにあっさりして居られるわね、情ってモンが無いの!?」
―― 『あっさり』だと? ――
「本当にアイツから『全部』聞いててそんな口がきけるなら、アンタの耳か脳は欠陥品だな。今直ぐ病院に行く事をお勧めするよ」
「な、何よ! 恋人だったら事情も汲んであげるのが男ってもんじゃないの? アンタだってあの子がお金に困ってたのは知ってるんでしょう。自分だけ被害者みたいな顔してるんじゃないわよ!」
―― ついさっき『平然としてる』と言っておきながら、今度は『被害者面』と来たもんだ ――
「被害者面も何も、この件において俺は間違いなく被害者側なんだが? そんな事も理解出来ないでアンタは口を開いてるのか?」
「なっ!?」
「まぁ、なんとなく大変そうだなとは思っていたよ。随分と飯も奢ったし、金を貸した事もあった」
―― 一回も返ってきてないけどな ――
「だったら、なんであの子を助けてあげなかったのよ!」
「金に困っている風だったのには気付いていたが、まさかそこまでだったとは思わなかったからな」
―― 自分の恋人が生活に困って裏で売ってましたなんて誰が想像できるかね? ――
「彼女が困ってるのにも気付かなかったくせに、それで良く恋人面出来たわね!」
「家賃がキツイってんなら、同棲する事だって吝かじゃなかったさ。学費がヤバいなら割のいいバイトを一緒に探すなり奨学金薦めるなりしたさ。だがな、こちとらエスパーじゃねぇんだよ、必要な事は言ってくれなきゃわかんねぇだろうが。言ってくれれば一緒に考えたさ。それともあれか? 『一緒にリンゴを買いに行って欲しいの』とでも言うつもりか?」
「『お金に困ってる』なんてそんな恥ずかしい事を恋人に言える訳無いでしょ! 少しは察しなさいよ!」
―― どうやったらそんな事を察する事が出来るのか、後学の為に是非教えて欲しいもんだ ――
「はっ、つまり知らないオッサンに股開くより、彼氏に金が無いって言う方が恥ずかしかったって訳だ。随分とぶっ飛んだ倫理観だなぁおい」
ことさら馬鹿にしたように言い放つ。そうやって強がってでも居ないと結構キツいんだわ。
「そ、そんな言い方しなくても良いじゃない! 大体、女が好きでもない男に抱かれるのがどれだけ辛いかアンタにわかるの? リスクだって女の方がはるかに大きいんだよ?」
―― こいつは本当に馬鹿なのか? 辛さ選手権でもやってんのか? なら俺とは関係の無い所でやってくれ ――
「あぁ、つまりその『辛さ』や『リスク』とやらを加味してもなお、彼氏に金が無いって一言いうよりそっちを選んだって事だよな。ますます理解出来ない価値観だわ」
「だからそんな言い方って……」
「それにしても、女は良いよなぁ? 金に困ったら下着でも体でも売れば金になるんだから。下着なんて幾らでも仕入れられるし、体なんて元手はタダだぜ? しかも何回でも売却可能。原価率一体どれだけなんだろうな? で、自分から『売った』くせに、自分達は『買われた』なんて被害者面する頭の悪さはいっそ感心すらするね。それに比べて男なんて不便なモンだぜ? 売れるものと言ったら内臓位しかねぇよ。それも一回こっきりだ」
「あ、アンタ最低ね」
「どこがだ? 俺はアイツに教わったこの世の真理って奴を話してるだけだぜ? それを最低だってんならそんな男と別れられて寧ろラッキー。お互いwin-winだろうが。まぁ、『国でも親でも売り払え、ただしなるべく高く』なんて言葉もあるしな、自分の体まで商品にしたアイツにはそれなりに商才があったって事じゃねぇの?」
―― まぁ、割と最低な事を言っている自覚はある ――
全国の『そうではない』女性の方々に、心の中で猛虎落地勢の構えを取る
「そ、そりゃアンタの気持ちもわかるけど、あの子だって辛かったのよ? それに、今時『パパ活』なんて誰でもやってる事だし、そんなに目くじら立てる必要無いじゃない。あの子ももうやらないって言ってたし」
―― だから、『辛かった』と言えばなんでも許されるみたいな考えは別の所で披露してくれ ――
「つき合ってる最中は別の男に股開いて、別れてから操を立てますとか馬鹿にしてんのか? どんだけ頭沸いてんだよ。それと、パパ活とか言って言葉を軽くするのは止めろ。パパ活だろうが円光だろうがやってる事はただの売春だ」
そこで言葉を切り、目の前の女を正面から見据える。
「な、なによ……」
「アンタ今付き合ってる男居るのか?」
突然脈絡のない事を問われたとでも思ったか、些か驚いたようではあるが、
「い、いるけどそれが何よ……」
バツの悪そうな顔をして目を背けながら答える。
「だったら今直ぐその彼氏に電話して、『私はパパ活してますって』言ってみろよ」
「はぁっ!?」
予想だにしていなかったのか、素っ頓狂な声をあげる
「な、何でそんなことしなきゃいけないのよ!」
「『誰でもやってる』って事はアンタもやってんだろ? 『そんなに目くじら立てる必要無い』なら、アンタの彼氏は笑って流してくれんだろ? 自分の発言には責任もって、それが正しい事を証明してみせろよ」
「わ、私はパパ活なんてしてないし!」
―― 論理の破綻が早すぎるだろ ――
「だったら『誰でも』なんて言葉を軽々しく使って罪悪感薄めるような事言ってんじゃねぇよ。さっきも言ったが、アンタみたいな頭の悪い女のせいで一緒くたにされるマトモな女性が気の毒だ」
―― 全くもって、『女の敵は女』とは良く言ったもんだ。……ちょっと違うか ――
「それとこれとは話が別じゃない! 今はアンタと由香利の話をしてるんでしょ!」
―― なら大事な事をお話しましょうかね ――
「ならさ、アンタさっき俺の気持ちがわかるって言ってたよな?」
「そ、それが何よ」
「だったら教えてくれよ。アイツが知らないオッサンに肩を抱かれてラブホテルから出てくるのを見た時の俺の気持ちはどんなだった? 俺と付き合ってるその裏で、俺に愛を囁いたその口で知らないオッサンのモノを、それこそ上の口でも下の口でも咥え込んでたと知った時の俺の気持ちはどんなだった? 俺の気持ちがわかるんだろ? 今直ぐ教えてくれよ」
「そ、それは……」
「わかんねぇだろ? 俺の『別れたい』って気持ちがわかんねぇから『別れるな』とかほざけるんだろ?」
「で、でも、あの子は本当に辛そうで……」
―― まだ言うかコイツは…… ――
「大体さ、さっきから俺の事をえらい悪し様に言ってくれてるけど、アイツの親友を自称するアンタはどうなんだよ?」
「えっ……?」
虚をつかれたように言葉が止まった女に言葉を続ける。
「だからさ、アイツの力になれなかったと俺の事を悪し様に罵ってくれてる御立派な親友様のアンタは、アイツの為に何をしたのかって聞いてるんだよ。人に御高説垂れ流す位だ、さぞや大層な事をしてんだろうな」
「わ、私は……あの子の相談にのってあげたり、悩みを聞いてあげたり……」
―― だよね、所詮その程度だよね ――
「で? アンタに相談した結果何か解決したのか? 何か具体的な解決策を提示したのか? 悩みを聞いたら運気が好転して皆ハッピーになったのか?」
「そ、それは……」
―― うん、何も変わってないよね、変わってないからこんな事になってんだから ――
「相談つったって、どうせ『わかる~』やら『つらいだろうけどがんばろうね~』とか『なんとかなるよ~』、そんな毒にも薬にもならない様な事しか言ってないんだろ? 『話をするだけでも楽になるよ』なんて無責任な事言ってたんだろ?」
「な、なんでそんな事……」
―― 昭和の『うそ~ほんと~?カ~ワイ~』から何の進歩もねぇって事だよ。言わせんな恥ずかしい。……言わないけど ――
「アンタみたいな頭の悪い手合いの言いそうな事は大体一緒なんだよ。さっき自分で言ってたじゃねーか。相談にのって『あげてた』、悩みをきいて『あげてた』上から目線で他人の為に何かして『あげた』。そうやって自分を持ち上げて、呼ばれもしないのに他人の事情に首を突っ込んではおせっかい気取り。その実クソの役にも立ってない、場をかき回すだけの、ただただ迷惑なだけの存在だ」
「な、なんでアンタにそんな事言われなきゃいけないのよ!」
―― 言う資格のある者は、言われる覚悟のある者だけなんだよ ――
「自分は人を一方的に悪し様に言うくせに、自分が言われるとヒス起こすとか、典型的な頭の悪い女だな、アンタは」
「なんでアンタごときに女を馬鹿にされなきゃいけないのよ!」
―― 勝手に対象を全体に広げてんじゃねぇよ ――
「さっきも言ったろ? 女性を馬鹿にしてるんじゃない。アンタみたいに手も金も出さず、クソの役にも立たない口だけ出して、さも自分は素晴らしい事をしたと、他人の事情をオナネタにして悦に浸るような恥知らずを馬鹿にしてるんだよ。一緒くたにするな、大多数のマトモな女性に対して失礼だ」
「あぁもぅ! ああ言えばこう言う! 今はアンタとあの子の話をしてるんでしょ!」
軌道修正されたので、この機会にアイスティーを一口含み、乾いた喉を潤す。
「そもそも俺がそんな話を望んだ覚えは無いんだが?」
「いいから! アンタはあの子に頭を下げてヨリを戻せば良いのよ! これだけ言ってもわかんないの!」
―― 『これだけ』無駄な時間過ごしてるんだよなぁ ――
そんな事を考えながらスマホを取り出し、ある電話番号を探す。
―― 拒否設定しているが故に残り続ける、皮肉な話だな ――
そうしてその番号にかけてみれば、数回のコール後に対象の人物が電話に出る。
俺から電話がかかって来る事がよほど予想外だったのか、慌てたように何事か言っているのが聞こえる。
―― 俺だって何事も無ければ二度と駆ける事は無いと思ってたよ ――
とは言え、それを聞いてやる義理は無いので、用件だけを伝える事にする。
「今俺の目の前で、アンタの親友を自称するミドリとか言う女が、アンタと復縁しろとかちっせぇ男だとか喚き立ててるんだが、これはアンタの差し金か?」
「ちょっ! アンタどこに電話かけてるのよ!」
目の前の女が慌てるのと同時に、電話の向こうで息をのむ気配がする。
「アンタの差し金だってんなら今すぐ止めさせろ。こんな事をされても復縁しないどころか不愉快でしかない」
そう一方的に用件をつげ通話を切る。
見れば、目の前にはわなわなと震えている女が一人。
―― バンビちゃんかな? ――
そんな事を一瞬考えていると、目の前のがまたぞろ声を上げ始める。
「あ、アンタ! なんであの子に話したのよ!」
「なんでそんなに慌ててるんだ? アンタのやってる事がアンタの思っている通り御立派な事なら、賞賛されこそすれ不味い事なんてないだろ?」
涼しい顔で受け流す。
「だ、だからってあの子には関係無いじゃない!」
「おいおい、頭大丈夫か? アンタは俺とアイツの話をする為にここに居るんだろ? なんでアイツが無関係なんだよ」
―― 良い感じに支離滅裂ですわ。所詮こんなもんだよな ――
「大体、アンタさっきか――」
尚も戯言を垂れ流そうとしたその時、コイツの携帯から着信音が響き渡る。
―― でっけぇ着信音だな。店内ではマナーモードにしとけよ ――
「もしもし? 由香利? あのね、ちょっ話を聞いて! 私はアンタの為に! だから、アンタの力になってあげたくて! ……だから話を聞いて、ねっ? 落ち着いて! 話せばわかるから! だってアンタあんなに辛そうに――」
―― 親友同士の語らいとは大変なモンですなぁ ――
そんな事を考えながら、親友同士の心温まる会話を邪魔しない為に、俺は席を辞する事にする。
俺の分の料金をテーブルに置き、席から立ち上がった俺を慌てたように見るミドリだが、アイツとの会話にてんてこ舞いの様でこちらには手も口も出せないらしい。
そのまま店員さんに軽く頭を下げ、店の出口を開く。
ドアベルの乾いた音に送り出されて外に出てみれば、日はまだ高く、俺の心とは裏腹に、店に入る前と変わらぬ晴天が頭上に広がっていた。
―― 消費税を忘れていた気がするけど……まぁ、迷惑料とでも思って貰えば良いか ――
§
それにしても、話には聞いていたがああいった手合いは実在していたとは。
こちらの都合も考えずに出没しては不愉快だけをまき散らして行く。おまけに無駄に生命力にあふれている。
……台所に出没する『アレ』の親戚だろうか……。
まぁ、出会ってしまった人からすれば似た様なものかもしれない。
あんな女に言われるまでも無い、そんなに軽い気持ちで三年もつき合っていた訳では無い。
それこそ一緒の将来を考える程度には大切にしていたつもりだし、相手もそうだと思っていた。
『事情が有ったから一線を越えた』彼女らはそう嘯く。それが同時に、『事情が有れば一線を越えられる』人間なのだと、自分達がそうなのだと自ら証明して居る事を知ってか知らずか。
世の中には『事情が有ろうとも一線を越えない』人間は幾らでも居るのに、『誰でもやってる』『仕方がない』そうやって自分の中のハードルを自分で下げて。
『貴方を傷つけたくなかったから言えなかった』そう彼女は言った。
馬鹿な事だ。
『貴方の為に』と。そうではないだろう? 『貴方のせい』にしたかったのだろう? そうやって他人を言い訳にすれば罪悪感もさぞや薄まった事だろう。
『反省しているじゃない』『謝っているのだから』
ああいった手合いの常套句らしい。
『謝ったから許してあげましょう』『ごめんなさい出来て偉いね』
そんなものが通用するのは幼稚園児までだ。
世の真理は『ごめんで済むなら警察は要らない』
こっちだろう。
街角に佇みスマホを操作する。
『そういった価値観』を良しとする人達も居るだろう。であれば、そういった人同士で付き合うべきだろう。
俺と彼女は『そういった価値観』を共有できなかったから別れた。
価値観の相違は将来においてきっといらぬ軋轢を生む。
であれば、今価値観の相違に気付けたのはお互いの為にはむしろ僥倖と言うべきだろう。
この胸の憂鬱は当分晴れそうにもない。
これからどれだけの時間、この憂鬱と共に在れば良いのだろうか。
或いは、新しい何かを見つけた時、この憂鬱もただの思い出として昇華されるのだろうか。
ならばせめてこの一時、バカ騒ぎの中でそれを忘れたい。
そんな事を考えながら、暇を持て余しているだろう男連中へと電話をかけるのだった。
主な舞台は喫茶店なのですが、それだとタイトルが被るので苦肉の策なタイトルです。
先に書いたものでは、関係者どころか元凶みたいな感じになっていましたので、
今回は純粋な善意()から首を突っ込んでくる手合いとなりました。
あちらより自分が書きたかった物に近付いていると思います。
書いてる最中のストレスからか、かなり過激な事を書いているような気がします。
運営から怒られたら消します。
前のお話の感想に書かれていた『いっちょかみ』ですが、聞き覚えの無い言葉だったので
go〇gle先生に聞いて見たら、そのものズバリな意味でした。
語感も好きなので、今回タグに入れさせて頂いています。