原子機雷についての個人的なメモ
機雷戦を題材とした架空戦記です。
私はアメリカ合衆国海軍の技術士官だ。
正式な報告書とは別に個人的なメモを書いておこうと思う。
今年、1945年8月6日、陸軍航空隊の重爆撃機B29が日本帝国の都市ヒロシマに原子爆弾を人類初の実戦での使用をした。
ヒロシマにどのくらいの被害を与えたのかの詳細はこれから調査しなければならないが、数万人の死者が発生したのは間違いないようだ。
そして、陸軍航空隊は日本のキュウシュウ北部にある都市に二発目の原子爆弾を投下しようとしたが、そこでアクシデントが起きた。
原子爆弾を搭載したB29がキュウシュウで不時着してしまったのだ。
悪天候に巻き込まれたのか、日本軍の体当たり攻撃が奇跡的に成功したのか、陸軍が我々海軍に情報を渡そうとしないので詳しいことは分からないが、B29が日本軍に鹵獲されてしまったのは間違いないようだ。
日本は中立国を通して、鹵獲したB29、生き残りの搭乗員、そして鹵獲した原子爆弾の写真を合衆国に送りつけてきた。
問題になったのは、鹵獲された原子爆弾だった。
日本軍は「鹵獲した原子爆弾を機械水雷に改造して、連合軍の上陸作戦予想海域のどこかの海中に設置する」と通告してきたのだ。
この「どこか」が問題だった。
我が合衆国軍は、キュウシュウ上陸作戦とカントウ上陸作戦を考えていた。
大規模な部隊が上陸可能な海域は限られていて、日本軍が事前に予測して原子機雷を設置することは可能だ。
だが、合衆国軍からは、どこの海域に設置したかは分からない。
事前に掃海作業をどんなに念入りに行っても、原子機雷一つを見逃してしまうということはありえる。
上陸作戦の真っ最中に原子機雷が爆発すれば被害は甚大という言葉では済まないものになる。
もちろん、日本軍が持っている原子機雷は一つだけだ。
一回爆発してしまえば、それで終わりだ。
だが、その一回での被害は合衆国政府・軍の上層部にとって無視することはできなかった。
ヒロシマに原子爆弾を投下した時、合衆国政府は国内にも国外にも「都市を一発で壊滅できる爆弾」と原子爆弾を大々的に発表していた。
その原子爆弾を日本軍が一つだけだが持ってしまったのだ。
ヨーロッパでのドイツとの戦いが勝利で終わったことにより、合衆国国内では日本との戦いは「消化試合」と考える向きが大きくなっていた。
その「消化試合」で大損害を受けることは合衆国国民は許容できない状況であった。
ソ連軍も南サハリンを制圧し、その後はチシマ列島上陸作戦を考えていたようだが中止している。
ソ連軍も原子機雷を恐れたようだ。
さらに日本政府は「ソ連への降伏、原子爆弾をソ連へ渡す」ことを中立国を通してほのめかすようになった。
結局、合衆国政府は日本政府と中立国で正式な講和交渉をすることになった。
合衆国政府が以前日本政府に通告した「無条件降伏」は取り下げることになった。
合衆国政府と日本政府の交渉は激しいものとなったが、政治的なことを書くのは本題からはずれるので結果だけ書くことにする。
日本は原子機雷を合衆国に返還。
日本は日清戦争以後に得た領土は放棄することになったが、本土の主権は保持したままになり、合衆国軍は日本本土に駐留するが、占領軍ではなく、主にホッカイドウをソ連から防衛するためのものであった。
日本軍は廃止されることはなかったが、縮小され、陸軍は「警察予備隊」、海軍は「海上警備隊」となった。
日本が空軍を保有するのは禁止になったが、数年後には日本に空軍にあたる「航空自衛隊」という組織を発足させ、警察予備隊は「陸上自衛隊」、海上警備隊は「海上自衛隊」とする話もあるようだ。
さて、長々と書いてきたが本題に入ろう。
日本から返還された原子機雷の調査チームの一員として私は任務を遂行した。
日本人が原子爆弾を機雷として、どんな改造したのか個人的にも興味があった。
適切なタイミングで原子機雷を爆発させるのに、どのような起爆装置を使ったのか調査したのだ。
結果は期待はずれだった。
日本軍は起爆装置に人間を使用していたのだ。
原子爆弾に潜水球のような物が付け加えられており、人間がその中で待機、潜望鏡で敵の船舶の集団を目視したら起爆スイッチを入れる。
もちろん、潜水球の中の人間は爆発に真っ先に巻き込まれるので脱出は不可能。
技術的には何も見るべき物はなかった。
技術者として原子機雷に興味をなくすと同時に、この原子機雷一つに政治的に合衆国が振り回された事実について考えた。
今は原子爆弾は合衆国でしか製造できないが、他の国が……例えばソ連が製造できるようになったら、どうなるのだろう?
将来、合衆国とソ連が対立したら、ソ連は自分たちの領域の沿岸に多数の原子機雷を設置するだろう。
それに純軍事的に対応するのが難しいことは、今回の日本のことがモデルケースになってしまった。
将来のことを考えると、私は少し暗い気持ちになった。
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